2022.05.24

【コラム】 運転資金の本質とは

そもそも運転資金を正しく理解しているか

会社を経営していて運転資金という言葉自体を聞いたことが無い、という人はあまりいないと思うがこの言葉の意味を正しく理解している、という人は意外と少ないのではないだろうか?

皆さんは運転資金という言葉を聞いた時にどんなものを想像しますか?消耗品費や修繕費などの日々の経費の支払いを運転資金と捉えている方が多いと感じる。広い意味ではそういった経費の支払いなども運転資金として使われることもあるが会計用語でいう運転資金、所謂正常運転資金という言葉は意味が違う。

正常運転資金は下記の計算式で導き出すことが出来る数字の事を言う。

正常運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務

計算式からも日々の経費の支払いの要素は全く入っていないことが分かる。では正常運転資金とは何を表しているのか。正常運転資金は会社が一時的に立て替えている状態になっている金の事を指している。

売上債権は得意先に売上を上げたけどまだ入金されていない金、棚卸資産は商品などの在庫で当然仕入を行う為には金を払う必要がある。つまり、お客さんに販売する為に先に金を払って購入しているものという事だ。この2つから仕入債務、つまり、商品などを購入したがまだ支払っていないもの、逆に仕入先に立て替えて貰っている状態の金をマイナスして計算する。

この一時的に立て替えている状態、つまり先にキャッシュアウトしている状態の金を正常運転資金という。良く、会社が大きくなり急激に売上が増えると資金繰りが回らなくなるというのはこれが原因で、規模が大きくなれば当然必要な運転資金も大きくなり、先に出ていく金がどんどん増えていく。そのことが分からず闇雲に売上を伸ばし続けていくといずれ資金繰りが厳しくなっていく。会社を拡大する場合には必ずこういった財務の知識が必要になるという事だ。

多くの会社が運転資金不足で悩んでいるのはこういった知識が無いためだ。財務の知識を持って資金繰りの管理を適切にしていればいつ、いくら金が必要になるか、といったことが明確になりそれに合わせて資金調達をしたり、という対策を立てることが出来るが、財務をおろそかにして兎に角売上を増やす、という事だけを意識していると、必ずどこかで行き詰まる事となる。

そうならない為には財務戦略をきっちり立てて取り組む必要がある。銀行からの資金調達の方法、金の借り方も非常に重要になってくるが正しい借方を理解し、実施している会社はほとんど存在しない。というのが実情だ。

銀行からの借入、つまり資金調達する場面は大きく分けて2つあり、そのうち1つがこの運転資金対策の借入である。金融機関からの借入明細などを見てみると運転資金や設備資金などの名目が書かれていることが多いのでそこで資金使途を確認することが出来る。

運転資金名目の借入は本来は先ほどの計算式で導き出される運転資金、つまり会社が立て替えることになる金を賄うために調達するものなのだ。だが実務上はとりあえず事業を行っていくうえで必要となる資金を包括して運転資金として調達していることが多い。実はこの資金使途を無視した資金調達によって企業財務を痛める原因となっている。

どういうことか?

運転資金って減るの?

運転資金名目での借入がある会社は多く存在しているが、ほとんどの会社が証書貸付、つまり5年や7年などの期間で毎月約定弁済があるタイプの借入で賄っている。時が経つにつれて借入金の元本返済が進み運転資金名目の借入はどんどん減っていき最終的な5年後、7年後の借入期間が経過すると残高はゼロとなる。

ここで考えていただきたいのが運転資金は時が経つにつれて減るものなのか?という事。先ほどの正常運転資金の計算式からも分かるとおり答えはノーだ。会社が成長すればむしろ運転資金は増えていく可能性が高い。コンビニなどの在庫を例に考えていただくとわかりやすい。

例えばコンビニ1店舗に商品の在庫が全部で1千万円あるとする。商品がいっぱいなければお客さんに来てもらえないのでコンビニには常に商品在庫を一定の状態に維持しておく必要がある。商品を仕入れる際には当然金を払う必要があるので在庫の1千万円分の金が先に出ていく事になる。これが所謂運転資金で、店舗を2店舗に増やせば2千万円の運転資金が3店舗なら3千万円の運転資金が必要となるのだが、運転資金として借りた金は時が進むにつれてどんどん返済が進み減っていってしまうのでいずれ資金が足りなくなる。

ではどうやってこれまで多くの企業が成り立っていたのか?返済が進んで金が足りなくなったら折り返し融資という形で金融機関から新たに借金をして足りない金を賄っていたのだ。毎期利益を積み上げ自己資本(内部留保)で運転資金を賄うことが出来るようになれば借入金を返済してしまっても問題は無いはずだが多くの場合そうはなっておらず借金で成り立っているだけの状態となっているのが実態である。

これまではそれでも銀行が貸してくれたから成り立っていたのだが、特にコロナ融資を使ってしまっているような場合には今後は金融機関からの新規の借入はかなり厳しくなっていくので本質的な改善をしなければ生き残っていく事は難しくなっていく。

正しい資金調達の方法についてはまた別の機会にお伝えしていくが、運転資金については“返済をしない”というのが正しい資金調達方法である。返済をしない借入なんてあるの?と思われるかもしれないが、それが正しい借り方で世の中の常識が間違っているのだ。会社を継続・存続し続けるためにはこういった財務の知識が必要不可欠となる。正しい知識を身につけて強く潰れない会社へと成長していきましょう。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。