2022.06.21

【コラム】間違いだらけの減価償却費の使い方

そもそも減価償却費って何?

減価償却費とは固定資産の取得に要した費用の全額をその年の費用とせず耐用年数に応じて配分しその期に相当する金額を費用に計上する為に使用する勘定科目です。例えば耐用年数10年の建物を1億円で購入した場合、購入金額の1億円は購入時に全額費用になるわけではなく1,000万円ずつ10年に分けて費用計上していく事になります。実はこの減価償却費は財務、資金繰りに与える影響が非常に大きい勘定科目という事をご存じでしょうか。

損益計算書上の損益と会社の金の動きが一致しないという事は財務に詳しい方はもちろんの事、数字が苦手な方でも恐らく気付いている事と思います。”会社に利益が出ているのに金が増えてない気がする”そんな風に考えた事がある方も多いと思います。

皆様お気づきの通り会計上の損益と現預金の増減は必ずしも一致しません、むしろ一致しないことがほとんどです。特に影響が大きい項目が3つありますがそのうちの1つが減価償却費です。減価償却費は会計上は費用になりますので、例えば1,000万円の減価償却費が計上された場合、会計上の利益は1,000万円少なくなります。ですが、減価償却費を計上しても金が出ていくわけではない為、キャッシュフローを考える場合には会計上の利益にプラスする事になります。

具体的な数字を例に説明すると例えば1年間の取引が現金売上1億円、減価償却費1億円しかない会社があったとします。会計上の利益はゼロになりますがキャッシュフローは減価償却費の1億円をプラスして1億円のプラスになります。この結果からも分かるとおり会計上の利益と金の流れ、つまりキャッシュフローは一致しないのです。

会社を継続・存続し続ける事は経営を行っていくうえで最も重要な事ですが、会社を継続・存続し続けるためには会社に金を残すという事が絶対的に必要になります。もちろん毎年利益を積み上げ続ける事も重要ですが、例え会計上黒字であっても会社は金が無くなれば倒産します。減価償却費はキャッシュフローを考える場合にはプラスに作用するものですが、逆にマイナスに作用するものもあります。

会計上の損益と現預金の増減の異なる要因のうち特に影響が大きい項目が3つあると言いましたが残りの2つは運転資金の増減と借入金の返済です。今日は詳細は割愛しますが、運転資金が増加すればキャッシュフローはマイナスになりますし、運転資金が減少するとキャッシュフローはプラスになります。また、借入金の返済については会計上は費用になりませんが、金は出ていきます。減価償却費とは逆の動きをするという事ですね。

現在コロナ融資で必要以上に借入をしている会社が非常に多くなっていますが、借入金はいずれ返済しなければならないものです。コロナ融資の返済がスタートすると途端に資金繰りがマイナスになってしまう、という状態にある会社、つまり倒産予備軍ともいえる状態になってしまっている会社が多く存在しており、実際に今後多くの中小企業が倒産することが予想されています。

そんな事にならないように予め資金繰り予定表を作成し金の流れを把握する事、もしキャッシュフローがマイナスになってしまうことが予想されるのであれば、どうやってプラスに持って行くか、それを検討・実行し、実際にキャシュフローをプラスにしていく事が必要となります。将来の資金繰りに不安を抱えているけどどうすればいいかわからないという方は早めにご相談いただければと思います。

資金繰りの事を考えた場合には減価償却費の金額は金が出ていくわけではないのでどれだけ大きな金額を計上してもキャッシュフローはマイナスにはなりませんが、会計上の利益は当然減ることになります。法人税法上は減価償却費は限度額の範囲内であれば任意償却が認められているので実は少なく計上する事や1円も計上しない事も認められた処理となります。この事を利用して金融機関などに提出する決算書の数字を良く見せるために、減価償却費を計上しない会社があります。

利益を多く見せるために減価償却費を計上しない、という選択肢はありか?

結論から言うと無しです。むしろ絶対にやらないでください。減価償却費を計上しなければその分会計上の利益は増えるので、金融機関に提出する決算書上の利益を少しでも多く見せようと考える会社があります。場合によっては顧問税理士にそのようなアドバイスを貰っているケースなどもありますが、これは完全に逆効果です。全く意味がありません。

金融機関もバカじゃないので減価償却費をちゃんと計上していないなんてことは決算書を見ればすぐにわかります。これは所謂粉飾決算と呼ばれるもので銀行を欺いて金を引き出そうとする詐欺的行為です。銀行の担当者は面と向かって粉飾決算ですよ、とは言いませんが、金を貸せるか否かの判断は減価償却費も加味した実態で判断していますし、この会社が銀行を欺こうとしていると判断されるのでむしろマイナスしかありません。少しでも利益を多く見せたい、という気持ちは理解できますが、数字をいじって多く見せかけるという事ではなく業績改善して本当に利益を増やさなければ意味がありません。

どんな会社でも利益を増やす事は可能です。ですがその為には経営者が数字と向き合い正しい現状把握を行って改善のためのあらゆる打ち手を検討し実行に移していく、それしかありません。そこに裏技はありません。金融機関が頭を下げて借りてください、とお願いしてくるような会社に成長していきたいものですね。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。