2023.01.15

【コラム】事業再生するためには何から始めるべきか?

事業再生とは?

事業再生とは、端的に言うと債務超過や債務超過となりそうな会社の経営を立て直すことです。具体的には、さまざまな要因で資金繰りに窮している企業が、金融機関や取引先等の債務者の協力のもと資金繰りや損益の改善をおこなうことで、健全な財務状況の企業を目指すプロセスのことをいいます。資金繰りに窮して金融機関への借入金の返済が難しくなったタイミング、または金融機関への借入金の返済ができない見通しとなったタイミングで事業再生が始まることが多いようです。

債務超過・業績不振などが原因で今後の経営に行き詰まりを感じている企業には、大別するとふたつの選択肢があります。

ひとつは、事業の継続をあきらめて倒産手続きをする

もうひとつは、再建を目指して事業再生をおこなう

「経営状況は厳しいが、事業を続けたい」と考える経営者の方は「事業再生」を選ぶのではないでしょうか。事業再生のメリットは、もし成功すれば破産手続きをした場合よりも債権者へ多くの債務返済が可能になることです。さらに、これまで築いてきた取引関係や社会的信用を維持したまま事業が存続できる点も挙げられます。

デメリットは、株主や債権者から理解・協力を得る必要があるため、交渉に多くのリソースが取られてしまう可能性があることです。事業再生計画の承認可否の権限をもつ債権者である金融機関から承認をもらえるよう、専門家たちと事業再生計画を策定することになります。また、事業再生の道を選んだものの結果として赤字事業を延命したに過ぎなかった場合、債権者に多大な迷惑をかけてしまうことになる点は、大きなデメリットだと言えます。

事業再生の種類

一般的に事業再生とは、将来的に債務弁済が困難になると予想される場合に、たとえば不採算部門を切り離すなどの方法をとり、その分のリソースを採算部門へ注力して、企業の存続を図ることを指します。

事業再生には法的再生と私的再生があります。

法的再生
裁判所を介しておこなわれる再生手続きを、法的再生といいます。会社更生および民事再生は再建型法的整理と呼ばれ、定められたスケジュールに沿って手続きを進め、債権者に対しての透明性・公平性を確保しながら進めることができます。私的再生と比べると柔軟に個別対応することは困難です。手続き費用として予納金を支払う必要もあります。法的再生は、債権者が複数いるようなケースに用いられることが多いです。

私的再生
法的整理でない事業再生を、私的整理といいます。債権者と債務者が直接交渉し、双方の合意のもとに手続きが進められます。決まったスケジュールに寄らずに手続きを進められるため、双方が同意さえすれば迅速に進めることが可能です。その反面、債権者が多い場合にはすべての債権者に透明性・公平性を保つことが困難になることが考えられます。関与する第三者機関によって、私的整理に関するガイドライン、事業再生ADR、中小企業活性化協議会による手続、裁判所による特定調停などがあります。

2022年に中小企業の事業再生等に関する研究会によって策定され運用も始まっている「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」をご存知でしょうか。中小企業者の実態を踏まえ、平時や有事に中小企業者や金融機関等による迅速な私的整理手続に取り組めることを目的としており、「新たな準則型私的整理手続である『中小企業の事業再生等のための私的整理手続』」とあります。
(引用:金融庁「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」及び「中小企業活性化パッケージ」の公表について」

さらに経済産業省は事業再生ADR(※)制度を推し進めています。こちらは過剰債務に悩む企業の問題を解決するため生まれた制度で、「企業の早期事業再生を支援するため、中立な専門家が、金融機関等の債権者と債務者との間の調整を実施。その際、双方の税負担を軽減し、債務者に対するつなぎ融資の円滑化等を図る」と記されています。
(引用:経済産業省「事業再生ADR制度」

※ADR:Alternative Dispute Resolution

事業再生の手順

事業再生の道を選んだ場合、事業再生を成功させるためには、

負債が軽減または解消された場合に資金繰り好転が見込めること
収益力のある再生可能な事業があること
不採算部門の切り離しが可能

といった各条件を満たす必要があります。もし現在抱えている負債が減少したとしても、すべての事業が赤字のままでは事業再生が成功したとはいえません。不採算部門を切り離し、利益を生み出す事業へ注力することで初めて事業再生可能となるのです。

ここからは事業再生の手順について説明します。

まずは自社の資金・財務・担保などの実態を、正しく把握しましょう。これらの情報は事業再生方針の策定のためだけでなく、経営悪化に至るまでの過程や原因を探るための材料にもなります。情報をもとに自社がどんな状況なのかをしっかりと理解して、借入金の返済期間や返済金額の約定変更だけで資金繰りの好転が望めるケースや債務免除(※)を受けなければ資金繰りの好転が期待できない状況の場合はどのような方法で再生するか、方針を立てましょう。

※債務免除:債権者が、債務者に対する債務を無償で免除すること

専門家による「デューデリジェンス」と呼ばれる調査もおこなわれます。事業面・財務面から現状を調べ、窮境の原因を突き止めます。実態を把握したうえで窮境原因の除去を織り込んだ事業計画を策定し、デューデリジェンス終了時点および事業計画の策定時点で金融機関に報告します。事業計画が承認されたのち、計画実行に移ります。

次に、計画書を作成し、民事再生や会社更生など手法に応じて手続きを進めることになります。債務免除を受ける場合、中小企業再生支援協議会や私的整理ガイドラインなどを介し、それぞれ評議会や主要債権者などから「再生可能性はあるか」の認可を受けたうえで再生計画案の作成に着手します。現時点で考えられる改善策(不採算部門の切り離しなど)を実行すると、具体的に今後いくらの売上と利益が見込めるかを記し、3年〜5年分の予想推移をまとめることが一般的です。債務免除やスポンサー獲得の際、この計画書が役立ちます。

債務免除を受けずとも資金繰り好転が望める場合は、金融機関から資金調達をします。もしも金融機関からの融資が困難な場合は、資金確保や支払い期日の延長などを関係各所と交渉し、資金繰り改善に努める必要があります。

もっとも重要なポイントは、どの段階でも資金がショートすることがないよう、常に資金繰りを把握することです。幾度となくお伝えしてきた資金繰り表作成の重要性ですが、事業再生においても非常に重要だといえます。資金の確保なしには事業再生は不可能なのです。

近年、「新型コロナウイルス感染症の影響により、中小企業の景況感は急激に悪化している」との見方を中小企業庁も示しています。対応策として中小企業向け無利子・無担保の融資などの資金繰り支援を強化していますので、国による中小企業支援施策もチェックしてみてください。

そして、再生手続きの開始申立をおこなったのち事業再生に至るまでの背景や今後のスケジュールを関係者(債権者・従業員・取引先)にきちんと説明し、事業計画や弁済計画についてまとめた再生計画書を作成して、債権者から承認をもらいます。

私的再生を選んだ場合は、事業再生に至るまでの経緯や今後の流れについて債権者に説明し、再建計画に承認をもらわなければなりません。その後、計画通りに再生手続きを進めて、債権者へ弁済をしたら、終了です。

まとめ

事業再生をおこなう際は、客観的な視点から冷静に判断することがポイントです。会社が置かれている状況によって取るべき対応が異なります。どのように動くのが適切なのかを判断する力が必要不可欠です。そもそも事業再生をするか否か、法的再生なのか私的再生なのか、その選択には見識が問われます。会社の存続は、従業員をはじめとする関係各所にとって大きな影響がある問題ですから、必要に応じて外部専門家に相談したうえで判断を下し、事業再生に取り組むべきです。

頼れる専門家を探したり金融機関との関係を構築したりするには、会社が危機に陥ってから動くのでは遅いかもしれません。常日頃から繋がりを大切にすることが、経営者としての重要な役目のひとつだと言えるでしょう。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。