2024.01.24
【コラム】資金繰りの改善を目指す歯科医院が行うべきことは?ポイントを解説します
多額な設備投資を必要とする歯科業界では、コロナ禍の影響もあり、深刻な経営状況に陥っている医院も多いようです。
今回は、そんな歯科医院が資金繰りを改善する際のポイントをくわしく解説します。
目次
1. 資金繰りの基礎知識
資金繰りとは、医院の収入と支出を管理し、収支の過不足がないよう適切に管理することです。
仕入れ代金や給与、そのほか経費の支払いが遅れないよう一定期間にわたって入金と出金を日付順で照合し、お金の流れを把握します。
資金繰りを計画する際は、収入だけで支払い金をまかなえるかどうかを想定し、難しい場合は不足した分の資金を調達しなければなりません。
まずは、歯科業界における資金繰りの基本をしっかり押さえましょう。
1-1.資金繰りとは何か?歯科医院における重要性
資金繰りについては、歯科医院の特性とあわせて理解する必要があります。
たとえば、古本屋など現金で売買する「現金商売」事業は、商品やサービスと現金の流れが一致しているため、資金サイクルもとてもシンプルです。
一方、歯科医院を含め多くのサービス業は仕入れとサービスの提供が異なり、ツケと呼ばれる「掛け取引」も少なくありません。
このような業態では、入金と出金にタイムラグが発生し、事業が順調で黒字であっても「現金が手元にない」という資金ショートに陥る可能性が高くなります。
実際、歯科医院の国民保険や社会保険などの保険診療報酬も、患者や窓口とのやり取りで入金されるのは3割のみです。
残りの7割の入金は約2ヶ月後ですが、歯科用材料・医療品の仕入れや歯科技工所への支払いは約1ヶ月後となることが多く、入金より先に支払わなければなりません。
従って、歯科医院が資金繰りを計画する際は、できるだけ「早い入金と遅い支出」を心がけ、資金繰りの鉄則である「入金>出金」になるよう調整することが重要です。
1-2.歯科医院が直面する一般的な資金繰りの問題点
歯科医院が直面する一般的な資金繰りの問題点は、主に2つあります。
1つは、預金通帳の残高でお金の有無を判断しがちであること、もう1つは、実際と会計上のお金の流れが異なることです。
たとえば、減価償却費などは実際にお金を支払っていなくても、毎月経費に計上されます。
ところが、設備投資など借金の返済は、利息は計上されても借入原本の返済額までは計上されません。
さらに、入金までにタイムラグがあるため、仮に大勢の患者が来院して収入が多い月があっても、それが反映されるのは2ヶ月先です。
このように、歯科業界では損益計算書と実際のお金の流れが相違するため、預金通帳での金銭管理にはリスクが伴います。
だからこそ、資金繰りの2つの問題点をクリアできるよう、資金繰り予定表を作成し現金の流れを正確に把握する必要があるのです。
2. 収益向上のための戦略
歯科医院が資金繰りの改善を目指すには、業界の今後を見越した収益向上のための戦略が重要です。
考えられる戦略は、大きく分けて2つあります。
2-1.患者満足度の向上と新規顧客の獲得
1つ目は、患者満足度の向上と新規顧客の獲得です。
「コンビニエンスストアよりも数が多い」といわれる歯科医院は、コロナ禍前から激戦しており、既に市場は飽和状態にあります。
従って、収益向上を図るためには患者のニーズを正確に把握し、さらに自院の強みや安心感をアピールしなければなりません。
2-1-1.患者満足度の向上
患者が歯科医院に来院する際は、名前を呼ばれるまで待合室で待った後、診察室に移動します。
従って、患者満足度を向上させるには、待合室と診察室の2つのエリアで院内環境を整える必要があるでしょう。
小さなことですが、待合室は壁に貼られた古い張り紙を最新のものに貼り替え、椅子や雑誌を整理すると、患者にとって気持ちのよい空間になります。
診察室も、治療器具が整然と配置されて治療台に水滴や粉末の汚れがなく、観葉植物やオブジェが適度に配置されていれば、患者の気分も落ち着くでしょう。
もちろん、医院全体の雰囲気も重要です。受付のスタッフが丁寧に対応し、診察室で歯科医や助手がイキイキと働いていると、これから治療を受ける患者の気分も明るくなります。
このほか、患者サイドの視点に立って下記の設備投資を検討するのもよいでしょう。
・キッズスペースの設置
・駐車場の整備
・マッサージチェアの導入
・テレビ・音響(BGM)の整備
・書籍コーナーの充実
・バリアフリーの整備
・待合室のソファなど調度品の入れ替え
・蛍光灯(明るさ)の整備
・パーティションの設置
2-1-2.新規顧客の開拓
地域密着型の特性を持つ歯科業界では、地域社会と関わりを深めることが新規顧客の開拓の早道です。
まずは、診療エリア内に居住する住民を対象としたチラシやポスティング、新聞の折り込み広告、地域周辺の建物の看板や街頭広告などの露出で自院の周知を徹底しましょう。
看板や広告の設置箇所に配慮し、自院のイメージを想起させるチラシなどのデザインや配色への配慮も忘れてはなりません。
また、InstagramやX、FacebookなどのSNSを活用し、地域の利用者から好意的なコメントが増えれば口コミで拡散され、地域外・遠方の新たな顧客を開拓できるでしょう。
自院の外装や内装、スタッフ紹介などを定期的に投稿し、SEO対策で上位に検索される工夫を取り入れるのも効果があります。
2-2.サービスの多様化と特化による収益増加
サービスの多様化・特化により収益の増加を図るのも、戦略の1つです。
ひとえに歯科医院といっても、サービス内容はすべて同じではありません。
同じ歯科医院でも、一般歯科・審美歯科・予防歯科では目的や治療に使う材料が異なります。
一般歯科の場合は保険治療で、虫歯や歯周病、入れ歯など機能性を中心とする治療になるでしょう。
一方、審美歯科の場合は、自費・自由診療で「歯を白くする」「銀歯を無くす」「歯並びをよくする」など、歯や口元の美しさや綺麗さを中心に考える治療になります。
ホームページやSNSを活用し、自院がどのような治療に力を入れているのかを明確にすることはもちろん、治療の流れや料金の目安などをわかりやすく伝えることが重要です。
また、予約や会計のできるスマートフォンアプリや、治療方法を患者と共有できる電子カルテの導入などによって自院のサービスを特化するのもよいでしょう。
ちなみに、医業収益や売上の高い歯科医院の特徴は、自由診療の収入が大きいことです。
2019年に厚生労働省が実施した「第22回医療経済実態調査」では、歯科医院の医業収益の平均は、個人立でも4,000万円を超えています。
従って、実際に提供するサービスにもよりますが、従来の保険診療に自由診療を取り入れれば、さらなる収益の向上も期待できます。
ただし、患者に無理強いするのは逆効果です。ホームページやSNSの写真やイラストで適宜ビジュアル化し、自由診療のメリットを分かりやすく説明しましょう。
3. コスト管理と業務の効率化
歯科医院が資金繰りを改善させるには、コスト管理と業務の効率化も大切です。
3-1.歯科医院における効果的なコスト削減方法
歯科医院のコスト削減に効果的なポイントは、主に2つあります。
まず1つ目は、売上の観点から自院の業務と経済状況を把握することです。
自院の患者の通院件数・診療日数・診療点数・来院回数の4つの項目に分けて売上の増減を確認し、売上の少ない日の要因を追究しましょう。
たとえば、来院回数が減少している場合は、アポイントの取り方に問題があるかもしれません。
また、通院件数が慢性的に減少しているようなら、根本的な原因を探り早急に改善しなければ倒産リスクも高まります。
1回の治療あたりの点数が大きく減少していれば、勤務医の治療方法や点数の計算漏れ、治療内容などを確認する必要があるでしょう。
項目ごとに原因を突き止めたら、自院にとって効果的なコストの削減方法を探りましょう。
手軽に始められる方法は、次の4つです。
1.人件費の見直し
一般的に、人件費は、売上の20%以内に調整すると安定します。医師の給与が歩合の場合は、保険診療で20~25%、自費診療・自由診療でも25~30%を目安にしましょう。
2.材料費の削減
歯科医院の材料費比率は、平均で7~9%程度です。金属の価格高騰もあるなか、保険適用になったハイブリッドレジンのCAD/CAM冠の導入、使用頻度の少ない材料は種類を減らすなどの対策も効果があります。
このほか、紙コップ・紙トレー・滅菌パック・紙エプロンなどの価格も見直してみましょう。
3.在庫管理の実施
発注ノートと納品書の照合では、誤納品の確認はできても在庫を管理できず、キャッシュフローを悪化させる可能性があります。
在庫棚を作る、日付ラベルで管理する、管理したい項目を見直すなどの改善策も検討しましょう。
4.固定費の削減
人件費や材料費の削減には限界があるため、医療の品質に直接関係のない固定費の削減も有効です。
電力会社・損害保険会社の変更、専門会社への家賃引き下げの交渉依頼、コンサルティング費・広告費の削減などが、これに該当します。
電気代や保険代、固定資産税を見直し年単位に換算すれば、大幅なコストの削減が可能です。
家賃は、数年以上同じ場所で運営していれば引き下げを交渉できますが、専門会社に依頼したほうが成功率は高いでしょう。
3-2.業務プロセスの最適化と時間管理
業務プロセスの最適化と時間管理も、ポイントの1つです。
昨今は、歯科医院の在庫管理や予約管理、電子カルテなどを一括管理できるシステムも市場に多く出回っています。
使用頻度の高い材料や患者の来院時間の管理、各患者の治療の経緯、次回の予約状況などをシステムで管理すれば作業効率は格段にアップするでしょう。
また、スマートフォンからの予約や無断キャンセルの患者へのメール確認をシステム化することで、それらの業務にかかる人件費も削減できます。
さらに、時間の観点から次の3項目を管理するのも効果的です。
1.アポイントの入れ方を工夫する
1日平均で、ユニット1台につき1時間あたり1人程度にし、治療時間を15・30・45分単位で区切り、中断率は10%以下を目指しましょう。
2.ユニットの稼働率を向上させる
ユニットの稼働率は、歯科医院の収入を左右します。
1日の1台あたりの平均患者数は、新規開業では4.88人、月間収入平均が200万円~300万円の歯科医院は6.58~7.64人、400万円~900万円の場合は、9.58~11.05人程度です。
1日の営業時間から稼働率を算定し、平均以下の場合はアポイントの取り方を工夫しましょう。
3.リコールで来院率を高める
歯科医院の定期健診の頻度は平均して約3ヶ月で、その約3割は定期健診、そのうち約2割は患者の自発的な来院です。
そこで、治療後に次のアポイントを取る、数ヶ月ごとに定期的なハガキやメールを送るなどのリコールで、30~40%以上の来院数を目指しましょう。
4. 金融戦略と補助金の活用
資金繰りを改善するには、金融戦略をしっかり立て、状況に応じて補助金の活用も検討すべきです。
4-1.適切な資金調達と金融機関との関係構築
歯科医院が融資を受けられる代表的な金融機関は、次の4つです。
1.日本政策金融公庫
公的機関からの融資で限度額はありますが、無担保・無保証での借入が可能です。
2.信用保証協会
公益法人からの融資で、担保や保証力に乏しい場合も信用保証協会の補償により融資が受けやすくなります。実行は民間の金融機関がおこない、借入の利息以外に信用保証料の支払が必要です。
3.民間の銀行・信用金庫
プロパー融資と呼ばれるもので、担保や保証人が必要です。歯科医院の経営状態や業績が審査対象となるため、資金繰りの悪化している医院は、融資のハードルが高くなります。
4.ノンバンク
リース会社などからの借入で、再リース料を支払えば延長が可能です。自己所有ではないため使用料を払い続ける必要はありますが、最新設備をそろえられます。
金融戦略を計画的に策定し、適切な資金調達によって金融関係との信頼関係を構築しましょう。
4-2.政府補助金や助成金の活用
資金調達には、政府補助金や助成金の活用も検討すべきです。
歯科医院で活用できる政府補助金や助成金には、下記の方法があります。
1.ものづくり助成金
2.IT導入補助金
3.専業再構築補助金
4.事業承継・引継ぎ補助金
5.オンライン資格確認関係補助金
6.トライアル雇用補助金
7.キャリアアップ助成金
8.人材開発支援助成金
9.人材確保等支援助成金
10.働き方改革推進支援助成金
11.両立支援助成金
12.地域雇用開発促進助成金
13.労働環境向上助成金
今後、自院が目指すべき方向性を見極め、目的に合った補助金・助成金を申請しましょう。
5. まとめ
歯科医院が資金繰りを計画する際は、保険診療報酬の入金までのタイムラグと仕入れ等への支払いが先になるという資金サイクルの正しい理解が大切です。
また、資金繰りが悪化している場合は、収益向上のための戦略を立て、コスト管理と業務の効率化を検討する必要があります。
自院に適した金融機関からの融資や政府の補助金・助成金によって資金調達し、資金繰りの改善を目指しましょう。
⭐️公式LINE登録で豪華プレゼント⭐️
Monolith Partners (monolith-partners.fun)
特典1:節税セミナー動画6本セット
特典2:市ノ澤監修【節税マニュアル】
特典3:銀行員が泣いて喜ぶ【資金繰表シート】