2024.09.19

【コラム】資金繰りとは|経営で役立つ基礎知識と3つの効果的な改善方法

資金繰りは、企業にとって「財政面の要」といってもよいでしょう。

資金繰りが悪化すれば、いわゆる資金ショートの状態に陥り、従業員の給与の支給や取引先への支払いが滞るだけでなく、黒字であっても倒産のリスクが高まります。

企業経営は、資金繰りの定義や重要性を正しく理解し、資金繰りが悪化した場合は速やかに改善を図ることが重要です。

そこで今回は、資金繰りに関する基礎知識や悪化の原因、および3つの効果的な改善方法について詳しく解説します。

1.そもそも資金繰りとは?

資金繰りとは、現金や銀行預金など、企業が直ちに支払うための資金が底を尽きないよう、企業の収入と支出を管理して資金の増減を調整することです。

一般的には、設備資金は長期資金繰り計画を、運転資金は短期資金繰り計画を立てます。

企業を経営する際は、資金繰りで現金の流れを管理して不足する場合は新たに調達し、過剰があった場合は新たな運用を図るなどの戦略も重要です。

なお、すぐに現金化できない売掛金や貸付金、解約に時間のかかる定期預金、自社ビルなどの不動産は、自社の資産ではあっても資金に該当しないことに注意しましょう。

1-1.資金繰りの重要性と資金ショート

資金繰りの重要性は、大きく3つの要素に分けられます。

まず1つ目は、資金不足を未然に回避できることです。

資金繰り計画を立てれば、どのくらいの資金がいつ必要で、その間にどこから・どの程度の資金を調達すべきかを管理・調整できます。

2つ目は、黒字倒産の防止です。

手元の現金がなくなれば、資金の支払いも滞ります。そうなれば、たとえ売上があって黒字状態でも倒産するリスクが高まります。

3つ目は、企業の信用の失墜を回避することです。

昨今のような情報化社会では、企業情報は取引先や金融機関で即座に入手できます。

資金繰りが悪化して支払いが滞るような事態になれば、関係者からの信用を失い、今後の取引や融資も難しくなるでしょう。

一度失った信用を取り戻すのは至難の業です。

このように、資金繰りの管理は、企業存続のための要部といっても過言ではありません。

そんな資金繰りで収支のバランスが悪くなり、今後支払うべき資金が不足する状態を「資金ショート」といいます。

企業を経営していれば、赤字や債務超過などのピンチに直面することもあるでしょう。そのなかで、「資金ショート」はかなり深刻な状態です。

ちなみに、赤字というのは原価や経費を売上から差し引いた利益がマイナスの状態ですが、支払いが滞るまでには至っていなければ、その後の戦略によっては、黒字に転換できるでしょう。

債務超過は、負債総額が資産総額を超えて借金を抱えている危険な状態ではあるものの、即直近の支払いができなくなるわけではありません。

その点、「資金ショート」は支払うべき資金が既に手元にない状態ですので、黒字でも倒産するリスクが高まります。

1-2 資金繰り(キャッシュフロー)と会計上の利益の違い

一見、資金繰り(キャッシュフロー)と会計上の利益とは似ていますが、同義ではありません。

資金繰りやキャッシュフローは、「自社の資金(現金)」に着目し、資金の流れや動きを把握して収支のバランスを調整することを目的としています。

一方、会計上の利益とは、損益計算書に記載されている「商品やサービスの売上高から諸経費を差し引いた金額」のことです。

たとえば、「今月の売上で収益を得ても、実際の入金が翌月末になる」というケースも多いと思います。

このような場合、今月に得た収益は会計上で利益として扱われますが、現時点の支払いで活用できる手元の現金や預金が増えるわけではないことに留意しましょう。

また、資金繰りやキャッシュフローは、あくまで資金(現金)の流れを可視化するものですから、減価償却費などの現金でない費用は含まれません。

経営的な観点では、資金繰りやキャッシュフローは、自社の支払い能力の現状や短期的な運営を確認するものです。

これに対し、会計上の利益は、長期的な自社の業績を評価する際の指標であり、視点の捉え方も異なります。

2.資金繰りが悪化する5つの原因

この章では、資金繰りが悪化する5つの原因について説明します。

これらのうち、いずれかに当てはまる企業は、早急な改善策の検討が必要です。

2-1.継続的な赤字経営

よくあるケースとして、継続的な赤字経営があります。

赤字経営とは、企業における支出が収益を上回り、利益が出ていない状態のことです。

赤字経営にすると利益に課税される法人税が免除されるため、故意に赤字経営にする企業もないとはいえません。

しかし、毎月赤字を出していれば、当然、自社の資金は確実に減っていきます。赤字経営が長く続けば、商品の仕入れや固定費の支払いなどにも大きな影響を及ぼすでしょう。

2-2.在庫や設備のムダ

在庫や設備のムダも、資金繰りを悪化させる原因のひとつです。

利益を出そうと在庫を多く抱え込んでも、売れなければその間は入金されません。

過剰在庫は資金回転率を下げるだけでなく、商品価値を低下させる可能性があります。

廃棄は赤字経営につながり、廉価販売は想定していた利益を出せないことに加え、ブランド・イメージを左右する場合もあり、注意が必要です。

また、新商品の開発や生産・売上拡大などを目的とする設備投資には、ある程度の時間がかかります。

設備の規模が大きいものほど、一定期間の資金繰りは悪化するでしょう。

2-3.売上の減少・増加

売上の増加や減少も、資金繰りの悪化の原因になります。

売上が減少すれば利益が減って赤字になり、たとえ仕入れを抑えても人件費などの固定費によって、資金繰りは苦しくなるでしょう。

しかし、経営者が注意すべきは売上が増加した時です。必ずしも「売上が増加すれば資金繰りが安定する」とは限りません。

売上が増加すれば、その分、商品の仕入れや新店舗などの先行投資、新たな人件費などが必要になります。

特に、卸売業が売上増加で仕入れや人件費を増やす場合は、売掛金を回収するまでの間は未収入となるため、自社で費用を立て替えることになるでしょう。

手元資金に余裕がない企業は、急激な売上の増加によって運転資金がなくなり、利益は出ていても黒字倒産となるリスクが高まります。

2-4.出金から入金までの時差

出金から入金までの時差も、資金繰りが悪化する原因のひとつです。

一般的に、建設業・医療・広告・IT業界などのサービス業では、受注から入金までに数ヶ月を要します。

その間にかかる人件費や協力業者への外注費などの支払いは翌月払いが多く、自社で立て替えなければなりません。

特に、建設業の場合は、台風など自然災害の影響で工事期間が延長されれば入金がさらに遅延するため、注意が必要です。

2-5.間違った資金調達方法

資金繰りを悪化させる原因として、間違った資金調達方法も挙げられます。

資金を調達する際、「金利が低い」という理由だけで借り入れてはいないでしょうか。

金利を節約したい気持ちはよくわかりますが、企業経営では「返済原資」を考慮する必要があります。

返済原資とは、借入金などを返済するための確実な資金(現金)のことです。

借入金を返済するには、返済原資となる「売上から税金を差し引いた利益」を増やさなければなりません。

とはいえ、スタートアップ企業などが、新規事業の投資や高額な機械装置を導入する目的で新たに資金を調達すれば、事業が軌道に乗るまでに最低でも半年~1年程度かかります。

自社の売上が伸び、投資や機械装置を導入した分の利益が出るまでには、さらに長い年月が必要です。

その間に、「金利が低いから」といって短期で資金調達を繰り返せば手元の資金は底をつき、資金繰りは悪化の一途をたどります。

経営者は、「借りる」だけでなく「返済」も視野に入れて資金を調達しましょう。

3.資金繰りを効果的に改善する3つの方法

資金繰りを改善するには、次の3つの方法が効果的です。

3-1.手元資金を正確に把握する

まず最初に、自社の手元にある資金の正格に把握しましょう。

自社の発展につながる資金繰り計画を策定するには、現状を理解する必要があります。

手元資金を見直す際は、決算書の資金対照表に記載されている「資産の部」を忘れずにチェックしましょう。

これまで回収し忘れていた売掛金や未収金があるかもしれません。やむを得ず、大量に在庫を抱えている場合は、特価販売などで資産化できるケースもあります。

このほか、土地・建物・機械設備のうち現在稼働していない「遊休資産」の売却や、法人向けの保険や通信費・人件費・交通費などの再考も効果的です。

丁寧に見直せば、現金化できる資産によって資金繰りを改善する糸口が見つかるでしょう。

3-2.資金繰り表を作成する

資金繰り表の作成も、資金繰りの改善には有効です。

資金繰り表を作成すると、資金の現状と将来的な資金の推移を把握できるため、資金不足という経営者の大きな不安も解消できます。

サービス業で閑散期のある業界の場合は、特定の時期に仕入れ費用がかさむケースも少なくありません。資金繰り表を作成すれば、それらの支出を事前に予測できて安心です。

実際に資金繰り表を作成する際は、現金出納帳、預金通帳、月次試算表、借入金返済明細書、手形帳を準備します。

これから新たに作成する企業は、月次経営計画から作成する「資金繰り予定表」と併せて、過去の営業実績をもとに作成する「実績資金繰り表」を作成するとよいでしょう。

過去の実績から経営課題を洗い出して可視化すれば、改善策の検討にも役立ちます。

昨今は、簡単に資金繰り表を作成できる会計ソフトも市場に多く出回っていますので、Excelやレイアウト作業などの手間を省きたい場合は活用するとよいでしょう。

3-3.資金を維持・調達する

資金を維持・調達するなどの対策も、効果的な改善方法です。

資金を維持するためにも、適切な仕入れ個数を算出して過剰在庫を回避し、確実に債権を回収できるよう請求漏れや発行遅延を確認しましょう。

損益計算書から余剰経費やコストを削減できる経費項目を洗い出し、リースやアウトソーシングに移行するのも資金の維持につながります。

一方、想定外のトラブルに備え、新たに資金を調達することも検討すべきです。

金融機関からの長期借入に加え、ファクタリング・サービスなどを利用し、資金繰りの悪化を回避しましょう。

4.まとめ

経営が安定していても、今回ご紹介した5つの原因によって資金繰りが悪化するケースは珍しくありません。

とはいえ、資金繰り表を作成して自社の現状を正確に把握し、迅速に対応すれば資金繰りを改善できます。

過剰在庫を抱えない、出金から入金までの時差を考慮する、売上の増加に注意する、新たな資金調達を検討するなど、企業経営では日ごろから手元に現金を残す工夫も必要です。

黒字倒産に陥らないよう、資金繰りで自社の将来を基軸とする財務戦略を策定し、強い経営体質を目指しましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。