2024.09.30

【コラム】経営改善のポイントは?計画策定の流れや支援制度の概要を解説

経営改善は、企業の存続および発展のために有効な手法のひとつです。

効率的に改善を図るためには、経営不振の企業はもちろん、経営悪化の兆候など現状を正確に把握し、長期的な視野に立って計画を進める必要があります。

自社の経営課題を洗い出し、戦略面・管理面・財務面の3つのポイントを上手に連携させれば、大きな成果を期待できるでしょう。

そこで今回は、経営改善のポイントや計画策定の流れ、支援制度の概要について詳しく解説します。

1.経営改善とは?

経営改善とは、企業が自社の経営状態を見直し、利益を出すために改善を図ることです。

この経営改善は、企業が将来も存在する前提でおこなわれることから、「継続企業の前提」または「ゴーイング・コンサーン(going concern)」とも呼ばれています。

具体的には、売上を増加してコストを削り、支払いや返済を減らしてキャッシュフローが回るよう経営体制を整えるなどの施策のことです。

特に、業績不振の著しい企業の場合は、早急に改善策を打ち出して業績を回復し、事業が継続できるよう改善しなければなりません。

本業の収益力を改善し、資金繰りを安定させる目的で金融機関から支援を受ける場合は、「経営改善計画」を提出する必要があります。

よりよい経営状態を目指すため、今後の5年間を目安に経営上の課題を洗い出し、「予想損益計算書」や「予想貸借対照表」とともに経営改善計画書を提出することが一般的です。

企業が発展するためにも、経営状態が悪化して初めて実践するのではなく、数年先に問題が生じる可能性があれば早めに経営改善を実践しましょう。

1-1. 経営改善計画策定の流れ

この章では、中小企業収益力改善支援研究会が発表した「収益力改善支援に関する実務指針」を参考に、経営改善計画策定の一通りの流れを説明します。

次の7つのステップに沿って、経営改善計画を策定しましょう。

1.現状を分析する
①基本情報:
*経営理念・株主・役員構成など基本情報の整理
*後継者の育成や事業承継の進行状況・改善計画の方向性・キーパーソンの選定など必要なアプローチの検討

②財務:
*経営状況と原因の明確化
*資金繰りの現状把握
*滞納税金等の整理

③商流:
*取引先との現状や売上構成要素の整理・特色や問題点の洗い出し
*部門別収支や回収条件等の検討

④業務フロー:
*各工程作業内容の確認
*他社との差別化を図る付加価値・伸ばすポイント・課題の明確化

⑤外部環境:
*市場動向や競合他社などを踏まえたリスク・課題の対応法と今後の見通しの検討

⑥内部環境
*従業員定着率・品質管理・人材確保・人材育成・リスク管理に必要な体制の明確化

2.経営課題を明確化する
*特色や問題点の原因・今後の見通しの検討
*「ありたい姿」を踏まえた経営課題の明確化

3.課題の解決策を検討する
*経営課題による商流・業務フローの見直し
*外部環境・自社の強み・ビジネスチャンス・リスクを含めた解決策の検討
*経営課題の優先順位と実施スケジュールの検討
*指揮命令系統・キーパーソンなど組織体制の確認

4.アクションプランを策定する
*経営者と現場担当者が納得する計画内容の検討
*実行可能な取組の具体的な策定と目標水準の設定
*収益の改善につなげるための数値化・目的の明確化
*取組状況に応じたPDCAサイクルと改善

5.数値計画を策定する
*売上高に関する今後の見通しの数値化
*価格や数量などの構成要素の分析・売上高の見通しの検討
*変動費率・変動要因を踏まえた原価・費用項目の数値化
*計画年度ごとの変動が大きい場合の具体的な根拠の提示

6.資金繰りを検討する
*次の5点に留意した突然の資金不足の回避
①売掛金・買掛金の条件の確認
②受注状況・季節性を考慮した月次売上・仕入れ見込み金額の設定
③税金・社会保険・設備投資・修繕予定などの支出・借入金の返済の確認
④①~③による月次資金の計算
⑤資金不足が予測される場合の対応策の検討

7.金融支援内容を確認する
*経営者の自社の現状理解
*返済計画の実現可能性と各金融機関とのバランスの検討
*取引金融機関との情報共有・報告・相談

2.経営改善の成果を高める3つのポイント

経営改善計画の流れを理解したうえで重要なのは、確実に実践して成果を高めることです。

この章では、戦略・管理・財務の3つの側面で押さえておくべき重要なポイントについて説明します。

上手に連動させながら計画を実践し、効率的に経営改善を進めましょう。

2-1. 戦略面:SWOT分析をおこなう

経営改善の成果を高めるためには、SWOT分析で戦略的に経営課題を明確化しましょう。

SWOT分析の「SWOT」は、「Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)」の頭文字を取った略称です。

この4つの要素を使って、自社の現状について内部環境(強みと弱み)と市場や競合他社などの外部環境(機会と脅威)を洗い出します。

SWOT分析の目的は、自社の経営資源が事業環境の変化にどう対応できるかを分析し、最適な活用法を探ることです。

具体的には、縦軸に内部環境と外部環境を並べ、横軸にそれぞれプラスとマイナスの要因を表にして分析します。

プラス要因マイナス要因
内部環境強み(Strength)S弱み(Weakness)W
外部環境機会(Opportunity)O脅威(Threat)T

実践する際は、バックオフィス・営業・経営層・エンジニアなど、自社組織を構成する部署やチームごとにおこなうと理想的です。

各部署で、どう強みを活かして弱みを克服するのか、どのような機会を利用し、どんな脅威を除去・回避するかを考察することで、より創造的な経営戦略を策定できます。

2-2. 管理面:KPIを設定する

成果を高めるためにも、管理面ではKPIを設定しましょう。

KPIとは、「Key Performance Indicator」の略称で、目標を達成するためのプロセスの達成状況を評価するための指標です。

日本語では「重要業績評価指標」などと呼ばれています。

これに対し、最終目標となる売上高や成約数を「KGI(Key Goal Indicator)」といい、日本語でいえば「重要目標達成指数」のことです。

KPIは、KGIを達成するための中間指標で、たとえば、Webマーケティングのコンバージョン率やダウンロード数、PV数、リピート率などがこれに該当します。

KPIの指標は、業界や企業、従業員ごとに自由に設定できますが、最終的にKGIにつながるものでなければ意味がありません。

KPIを設定する際は、「SMART」と略される次の5つの要素を明確にしましょう。

1.Specific(明確性)
2.Measurable(計量性)
3.Achievable(達成可能性)
4.Result-oriented or Relevant(結果指向または関連性)
5.Time-bound(期限)

2-3.  財務面:損益分岐点を分析する

財政面では、損益分岐点を分析しましょう。

損益分岐点とは、管理会計上の概念で、企業の事業における売上と経済活動で支払う費用の金額が等しくなる販売数量のことです。

採算点ともよばれ、売上が損益分岐点以上の場合は黒字、以下の場合は赤字になります。

損益分岐点売上高の公式は、下記の通りです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷{1-(変動費÷売上高)}

この損益分岐点売上高と実際の売上高との割合を計算して「損益分岐点比率」を算出すると、企業の収益性を評価できます。

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高

一般的に、損益分岐点比率は8割程度がよいとされていますが、実際には、どの業界も9割をやや超えることが多いです。

ちなみに、この損益分岐点比率が小さければ収益性が高く、売上の減少にも耐えうる力が強く、経営は安定しているといえます。

損益分岐点を上回るためには、次の3つの手法が効果的です。

1.商品の製造費などの変動費を下げる
2.テナント料や人件費など固定費を削減する
3.商品・サービスなどの販売価格を値上げする

損益分岐点を基に目標利益や販売数量などを客観的に設定し、必要に応じて資金調達も検討しましょう。

3.中小企業庁の経営改善支援

中小企業庁では、企業の経営改善計画の策定について支援活動を実施しています。

本事業は、全国47都道府県に設置された中小企業活性化協議会を中心に、金融機関や民間の専門家および各種支援機関と連携し、地域全体の中小企業の経営改善や事業再生を支援するものです。

具体的には、国の審査・認定を受けた税理士や公認会計士、中小企業診断士、商工会などの認定経営改革等支援機関の支援を受けながら、改善計画の策定を進めていきます。

本章では、2つの経営改善支援政策「経営改善計画策定支援事業」と「早期経営改善計画策定支援事業」について詳しく説明しましょう。

3-1.  経営改善計画策定支援事業

経営改善計画策定支援事業は、開始された2012年度の補正予算額が405億円であったことから、「405事業」と呼ばれることもあります。

対象は、借入金の返済など財務上の問題で自社の経営改善計画の策定が難しい、または経営改善の進行状況が思わしくない中小企業・小規模事業者です。

具体的には、中小企業等経営強化法の規定に基づき、認定経営改革等支援機関が中心となって経営改善計画の策定を支援します。

計画策定後も、3年間の定期的なモニタリングにより、財政上の課題をクリアして経営改善の実現を目指しますので、経営改善の施策に慣れていない企業は利用するとよいでしょう。

実際、数年前の新型コロナウイルス感染症の影響で、経営が難しくなった中小企業や小規模事業者が活用するケースも多く見受けられます。

本事業の特徴は、経営改善計画の策定やモニタリングを認定支援機関に依頼するにあたって、政府が必要経費の3分の2を上限額の300万円まで負担してくれることです。

ただし、経営改善計画の策定支援は200万円まで、策定後のモニタリング等の支援は100万円までが上限額となりますので、注意しましょう。

3-2. 早期経営改善計画策定支援事業

早期経営改善計画策定支援事業は、「ポストコロナ持続的発展計画事業」とも呼ばれています。

本事業の対象は、金融的な支援ではなく、資金繰りや採算管理などの基本的な経営改善を必要とする中小企業や事業者です。

金融機関との連携の強化を目的とし、モニタリング期間も1年後の1回のみで、経営改善計画策定支援事業より支援期間も短くなります。

補助費用は総費用の3分の2で、上限額は25万円です。

「早期」とある通り、経営課題の早期発見および効率的な対応によって、企業の経営改善を目指します。

財務状態の悪化する予兆がある企業は、本事業の支援を活用し、早急に経営を立て直しましょう。

4.まとめ

経営改善計画は、策定するだけでは意味がありません。

経営不振の企業はもちろん、経営状態が悪化する可能性のある企業も長期的な視点で早めに策定すべきでしょう。

また、より成果を高めるためには、戦略・管理・財務の3つの側面から経営課題を洗い出し、連動させながら改善を図ることが重要です。

必要に応じて政府の経営改善支援事業も活用しながら、取り返しがつかなくなる前に自社の経営改善に取り組みましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。