2024.11.15

【コラム】会社倒産で自己破産?経営者の受ける影響と手続きの流れを解説

会社倒産で会社が法人破産を申し立てても、経営者が責任を問われることはないでしょう。

しかし、日本では中小企業が融資を受ける際に代表者が連帯保証人となることも多く、その場合は事情が異なります。

実際、会社と一蓮托生の経営者が、法人破産と同時に自己破産を申し立てるケースは珍しくありません。

そこで今回は、会社倒産で経営者の受ける影響や自己破産の手続きの流れについて詳しく解説します。赤字経営や資金繰りの悪化が続いている企業は、ぜひ参考にしてください。

1.会社倒産と経営者の関係は?

「倒産」という言葉は、正式な法律用語ではありません。1952年に東京商工リサーチが「全国倒産動向」をスタートさせ、1964年に実施された衆議院の商工委員会の国会質疑で先述の倒産動向データが活用されたのを機に世間に浸透しました。

この「倒産」の語を含み、昨今、ビジネス用語として広く使われている「会社倒産」とは、業績不振が続き債務超過で会社経営が立ち行かない状態のことです。

会社倒産は、裁判所を通さずに債務者と債権者で協議する「私的倒産」と、裁判所によって選任された破産管財人や更生管財人が介入する「法的倒産」の2種類に大別されます。

「私的倒産」の具体的な手続きは「内整理(私的整理)」と「銀行取引停止」です。一方、「法的倒産」は、清算型と再建型に属する合計4つの手続きから選択できます。

清算型­­:「破産」「特別清算」
再建型:「民事再生法」「会社更生法」

特に、法的倒産のうち会社が清算型の破産手続を申し立てる場合は、経営者が会社債務の連帯保証人になっているかどうかで、関係も大きく変わってくるでしょう。

1-1.法人債務の連帯保証人の場合

経営者が法人債務の連帯保証人である場合は、法人破産で会社が消滅した後も、経営者は会社に代わって債務を返済しなければなりません。

連帯保証人とは、何らかの理由で返済できなくなった債務者に代わって、債務の支払義務を負う人のことです。

会社経営に限らず、住宅ローンや自動車のカーローン・賃貸住宅の賃貸借などの契約を交わす際に、連帯保証人を求められた方もいらっしゃるでしょう。

2024年3月15日以降は、金融庁の方針により、メガバンクを含む金融機関は、具体的な保証の必要性を説明しなければ経営者保証を要求できなくなりました。

とはいえ、法人の賃貸借契約では経営者の決断が会社経営に直接反映されるため、依然として経営者に連帯保証人を求めるケースも少なくありません。実際、2022年時点では、経営者保証のない融資はおよそ30%に留まりました。

昨今は、経営者保証のない融資が増加傾向にあるものの、企業の負債額が経営者の財産を上回るような債務超過の会社倒産の場合は、連帯保証人になっていれば、経営者も自己破産を申し立てる必要があるでしょう。

1-2.法人債務の連帯保証人ではない場合

経営者が法人債務の連帯保証人ではない場合は、自己破産の手続きは不要です。

負債額にもよりますが、債権者の同意を得られる状況であれば、私的倒産で負債の弁済計画を策定し、債務を整理すれば会社の再建も可能でしょう。

一方、債務超過が著しく再建が難しい場合は、先述の通り、破産または特別清算のいずれかの手続きが必要になります。

特別清算が株主や債権者の同意を得る必要がある点を考慮すると、債務超過による支払不能の会社倒産では法人破産を申し立てることになるでしょう。

2. 倒産後に経営者が受ける影響

この章では、会社倒産で法人破産と同時に、経営者自身が自己破産を申し立てた場合に受ける影響について詳しく説明します。

2-1.個人の資産

経営者個人の資産は、自由財産を除いて全て没収されます。

自由財産とは、生きていくうえで必要な生活費や、寝具・衣服などの必要最低限の生活用品を含む99万円以内の現金のことです。

破産法は、破産した人の経済生活を再生する機会の確保を目的としているため、生活に必要な一定の財産を手元に残すことが認められています。

一方、自由財産を除く経営者から没収した財産は、破産管財人が破産財産として管理・換価し、各債権者に公平に配当されます。

なお、経営者が資産隠しや高額での不動産の売却・特定の取引先を優先して返済した場合は、刑事事件や損害賠償請求に発展する可能性もあるため、注意が必要です。

2-2.職業と資格

法人破産と同時に経営者も自己破産を申し立てた場合は、代表者の保持する資格を利用した一部の職業は就労できなくなります。代表的な職業は、以下の通りです。

  • 行政書士
  • 税理士
  • 公認会計士
  • 弁護士
  • 弁理士
  • 司法書士
  • 建築士
  • 不動産鑑定士
  • 宅地建物取引士
  • 土地家屋調査士
  • 社会保険労務士
  • 銀行の取締役・執行役・監査役
  • 信用金庫等の役員
  • 商工会議所の会員
  • 警備員
  • 公証人
  • 質屋
  • 生命保険募集人
  • 旅行業の登録
  • 貸金業

経営者が自己破産を申し立てた後は法律の規定で制限を受け、一時的に資格の登録を取り消されますが、免責許可が決定して約1ヶ月後に復権すれば再開できます。

ちなみに、人命や身体の影響を考慮する医師・薬剤師・看護師のような資格や教員・一般の公務員は、この限りではありません。

一時的であるにせよ、これらの資格の登録取り消しを回避したい方は、自己破産以外の手続きを検討しましょう。

2-3.郵便物

経営者が自己破産を申し立てると、手続きが終了するまでは郵便物を直接受け取ることができません。送付される全ての郵便物は破産管財人に転送され、内容をチェックされます。

その目的は、大きく分けて次の2つです。

1.破産管財人による郵便物の確認で、会社の関係者や債権者に情報を公正に提供する
2.破産手続の信憑性を高め、経営者の資産隠しを回避して債権者に資産を公平に分配する

破産管財人が問題ないと判断した郵便物については、追って破産申立人に送付されます。

なお、破産者が再び郵便物を直接受け取れるようになるのは、破産手続が終了し免責許可の決定が確定した後です。

2-4.行動制限

会社倒産で法人破産と同時に経営者も自己破産を申し立てた場合は、手続きが終了するまで一部の行動を制限されます。

具体的には、転居や旅行・出張などの外出がこれに該当し、やむを得ない場合は裁判所の許可が必要です。

理由は、破産手続中は、経営者自身も財産を調査して債権者に配当する管財事件に関わることが多く、手続きを迅速に進めるためです。

法律で規定されたこれらの行動制限は、破産手続が終了し免責許可が確定すれば全て解除されます。

2-5.クレジットカード・住宅ローン

経営者が自己破産を申し立てた場合は、クレジットカードや住宅ローンの審査も影響を受けるでしょう。

一般に、クレジットカードや住宅ローンを申し込む際は、次の3つの指定信用情報機関による審査を通過しなければなりません。

1.CIC
昭和59年にクレジット会社の共同出資によって設立され、消費者ローンおよび割賦販売等のクレジット事業を生業とする企業向けの信用情報機関

2.JICC
CICより加盟店が多く、クレジット会社に加えて銀行および消費者金融を含む金融機関が加盟している個人信用情報機関

3.KSCC
一般社団法人全国銀行協会が運営し、ネット銀行や地方銀行も多く加盟している個人信用情報機関

経営者が自己破産や個人再生を申し立てた場合、当該記録は事故情報として5〜7年間にわたって保管され、情報も各機関で共有されます。

従って、いずれかの機関に記録が保管されている間は、経営者がクレジットカードや住宅ローンを新たに申し込んでも審査の通過は難しいでしょう。

ちなみに、以前は破産や民事再生に関する情報は、最長で10年間にわたって登録・保管されていましたが、2022年11月以降は7年間に短縮されました。

ただし、各機関に自己破産に関する情報が一度登録されると、7年後に消去された後も審査が通らないケースもあるようです。

審査の通過率を高めたい場合は、経済的に安定している事実を示す収入証明や信用回復への取り組みの事実を示す資料を準備しましょう。

3.会社倒産による破産手続の流れ

会社倒産で法人破産を申し立てる際、経営者が会社債務の連帯保証人となっていれば受ける影響も大きくなります。

この章では、会社倒産による法人破産と経営者(代表者個人)の自己破産に関する一連の手続きの流れを説明しましょう。

3-1.法人

法人の破産手続は、主に次の8つのステップによって進められます。

1.弁護士と最適な方法の相談
法人破産を決断

2.破産申立の準備
取締役会での決議・事業および支払の停止・在庫の保管および管理・賃貸物件の明け渡し・社員の解雇

3.裁判所による債務者の審尋
破産申立の経緯の説明・裁判所による申立受理の判断

4.破産手続開始の決定および破産管財人の選任

5.破産管財人による資産の換価・処分、破産債権の認否、債権者への配当

6.債権者集会の開催/3ヶ月に1回
債権者に対する今後の方針の報告

7.負債額の決定および各債権者への配当

8.破産手続の終了および法人格の消滅

3-2.経営者(代表者個人)

経営者(代表者個人)の自己破産に関する手続きは、法人破産と並行しておこなわれるのが一般的です。

基本的な手続きの流れは法人破産と同様ですが、経営者の自己破産は、手続きの終了後に免責の審尋と許可決定があります。

自己破産の免責とは、破産者の借金などの債務に対する支払義務を免れるための手続きで、管財事件で免責が決定されるまでの期間は概ね5〜9ヶ月程度です。

ただし、免責許可が決定されても、以下の債務は免責されません。

  • 住民税・固定資産税などの税金
  • 下水道料金
  • 国民年金
  • 債権者一覧に故意に記載しなかった債権
  • 養育費・教育費
  • 悪意による不法行為による損害賠償請求権
  • 夫婦間の相互協力扶助義務による生活費などの請求権
  • 罰金

経営者は、負債返済の義務がなくなったら、収入の範囲内で生活できるよう速やかに経済状況の立て直しを図りましょう。

4.まとめ

経営者が会社債務の連帯保証人となっている場合は、法人破産と同時に経営者自身の自己破産の手続きが必要です。

破産申立後、免責許可の決定までは、旅行や資格の登録・クレジットカードやローンの審査など、日常生活で受ける制限も少なくありません。

また、会社が倒産すれば経営者はもちろん、従業員や取引先にも大きな影響を与え、状況によっては連鎖倒産を引き起こす可能性もあります。

業績不振や債務超過が続いている場合は早めに専門家にも相談し、倒産のリスクを回避しましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。