2024.11.30
【コラム】経営改善は売上拡大と事業減少の2種類!利益を出す改善策とは?
企業が経営改善を図るためには、売上拡大と事業減少の2種類しかありません。経営改善が成功するかどうかは、経営者がどちらを選択するかがカギになるでしょう。
また、経営改善で利益を出すためには、自社の現状を踏まえたうえでベストな方針を決断し、綿密な経営改善計画を策定することが重要です。
そこで今回は、売上拡大および事業減少の2つの観点から、赤字体質の企業が経営改善で利益を出すための効果的な改善策について解説します。
目次
1. 経営改善で利益を出すには?
経営改善とは、企業が自社の課題を洗い出し、改善するための施策や手法によって経営状態を向上させることです。
その目的は、企業の商材や事業で利益を出すことにあり、究極的には売上拡大または事業縮小の2択になるでしょう。
企業が経営改善計画を策定する際は、このどちらを選択するかで方向性は大きく異なります。
経営者は、自社で取り扱う商材や売上状況・コストなどを総合的に勘案し、どちらの選択が最適なのかを見極めましょう。
2. 売上拡大による赤字体質の改善
経営改善の施策として売上拡大を選択した場合には、文字通り、売上を増加して利益を増やさなければなりません。
価格の引き上げが可能であれば簡単ですが、価格高騰の続く昨今、現実的な解決策にはならないでしょう。
さらに、売上拡大を実現させるためには、詳細な経営計画を策定する必要があります。いざ計画を実践して思惑とズレが生じても、綿密な計画があれば、その都度軌道修正できるでしょう。
今後5年を目安に、商材や取引先・売上地域・店舗・営業に携わる従業員など項目ごとに分類し、売上拡大のための経営改善計画を策定することが重要です。
この章では、経営改善計画の策定に役立つ、売上拡大で企業の赤字体質を改善するための2つの手法を紹介します。
2-1.自社運営事業・商品の整理
自社の運営事業や商品を整理することも1つの方法です。自社の主力となる事業部門や商品・サービスを軸に事業や商品を展開し、売上を伸ばす必要があります。
具体的な事例を挙げて説明しましょう。
年会費を支払う会員制のeラーニングを展開していたA社は、10年後に約500社の加入を達成したものの、その後の会員数は横ばいでした。
そこで、会員を100社に増やすため、約3,000万円を投資して無料の機関誌を発行し、約14,000社に発送しました。ところが、新規で加入した企業はわずか25社でした。
A社の先行投資は、発送費や編集費などを含め、結果的に年間約2,000万円の損失を出したわけです。
継続すれば経営が悪化することは目に見えており、その後も会員が増えなかったため、A社は経営改善の目的で機関誌の発行を中止しました。
さらに、これまで機関誌にかけていた予算を自社の軸となる別事業に振り替えたところ、年間で約5,000万円の売上拡大に成功し、売上は今後もさらに増加する傾向です。
A社の事例の勝因は、自社で赤字を出している機関誌の発行事業を早めに整理し、メイン事業に的を絞った経営者の判断にあります。
自社で売上が伸びている事業や商品がある場合は、市場で既に認知され需要があるということですから、それらの主力となる商材や事業を軸に事業や商品を展開しましょう。
2-2.赤字の原因となる展開停止
売上拡大を図るためには、赤字の原因となる商材や事業を停止することも重要です。
これまでそれらを展開して成長を遂げた企業の経営者にとっては、厳しい決断かもしれません。
しかし、売上を拡大するためには必要です。赤字の原因となる事業や商材の展開を停止する際は、次の2つのポイントを押さえましょう。
1.不採算事業のデータ分析
市場シェア・利益率・販売量など採算の取れていない状況を明示できる資料を準備し、自社の関係者や取引先に縮小または撤退の必要性の理解を促す
2.長期的な視点の重視
現在、売上が伸びていても一時的なものである可能性があるため、売上高ではなく利益で判断し、長期にわたって固定費を粗利益額が上回る事業や商材に絞る
この2つのポイントから自社で採算の取れていない商材や事業を見定め、赤字体質の経営を改善しましょう。
3. 事業減少による赤字体質の改善
前章では、売上拡大によって赤字体質を改善する方法を紹介しました。この章では真逆の方針ともいえる事業減少による改善方法について説明します。
赤字体質の経営から脱却するため、次の3つの方法を段階的に実践しましょう。
3-1.不採算事業・商品撤退・縮小
事業減少の第1ステップは、不採算事業や商品からの撤退または縮小の検討です。
売上拡大による経営改善でも説明しましたが、売上が減少している場合は一刻も早く赤字経営を改善しなければなりません。
企業経営では、粗利益額が固定費を上回るための改善策を図るのが定石といえます。しかし、ここで重要なのは売上や粗利益額に執着しないことです。
これまで力を注いできた商材や事業であればなおさら、経営者にとって売上や粗利のある事業を撤退・縮小するのは容易ではないでしょう。
しかし、利益を恒常的に出せない商材や事業を継続すれば赤字もさらに拡大し、それだけ倒産するリスクが高まります。
そこで、売上減少の対象となっている商材や事業の売上高を次の項目ごとに分解してみましょう。
1.販売地域
2.取引先・得意先
3.売上時間帯
4.販売方法
5.商材のカテゴリー
6.営業担当
7.顧客年齢層
8.顧客単価
9.顧客継続利用率
10.顧客満足度
11.インバウンド・アウトバウンド
各項目ごとに売上高を算出すれば、「不採算の根」がどこにあるかを分析できます。
5年後に利益が出るかどうかも視野に入れながら、撤退・縮小の対象となる事業や商材を的確に判断しましょう。
3-2.コスト・固定費の削減
次のステップは、コストおよび固定費の削減です。
不採算事業や商材・サービスを分析したら、固定費で優先すべきコストカットを検討する必要があります。
固定費とは、毎月ほとんど同額で発生する費用や支出のことです。代表的な企業の固定費は、主に12項目あります。
1.光熱費(水道・電気・ガス)
2.地代家賃
3.人件費(正社員)
4.管理費(システム・アウトソーシング等)
5.広告費(商材宣伝費)
6.消耗品費(備品・事務用品等)
7.交通費・旅費(営業活動・出張等)
8.販売促進費(イベント・キャンペーン)
9.通信費(電話・FAX・インターネット等)
10.研修費
11.福利厚生費
12.支払利息
これらのうち、特に不採算事業や商材と関係が深く、金額の大きい項目を優先して洗い出しましょう。
ただし、給料や賞与など人件費を削減するのは、あまりおすすめできません。理由は、「人財」ともいわれるように、企業の経営は人づくりを基本とするからです。
リストラも、解雇となった従業員や管理職だけでなく、自社に残った従業員のモチベーションの低下や不安にもつながります。
項目ごとに徹底的に固定費を見直した結果、人件費が優先順位の高い項目となった場合は、できるだけ慎重に進めましょう。
3-3.損益分岐点の活用
3つ目のステップは、損益分岐点をうまく活用することです。
損益分岐点とは、利益がゼロで費用と売上高が同じ金額となるポイントのことで、企業経営の安全性・収益力の評価や目標とする利益を設定する際にも活用できます。
ちなみに、この損益分岐点を用いた以下の計算式で商材の最低限の売上高を算出してみましょう。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1-変動費比率) |
たとえば、ある商品を10万円で売れば損失も利益も出ない場合は、10万円がこの商品の損益分岐点売上高になります。
ここで、費用には固定費と変動費があることに注目しましょう。固定費は先述の通りですが、変動費は主に次の6項目です。
1.人件費(非正規雇用者)
2.運送費
3.原材料費
4.販売手数料
5.外注加工費
6.支払運賃
この変動費は売上が多い時に増加し、少ない時に比例して減少するため、損益分岐点を計算する際は「変動費÷売上高」で算出した変動費率を用います。
ちなみに、損益分岐点の分析には、費用を固定費と変動費に分類する原価分解(固変分解)が有効です。この原価分解には、回帰分析法および勘定科目法の2種類があります。
1.回帰分析法:最小二乗法ともいい、総費用および売上高を用いて固定費と変動費に分類する
2.勘定科目法:個別費用法ともいい、勘定項目ごとに固定費と変動費に分類する
固定費の割合が大きければ毎月決まった支出があるため、損益分岐点に達することは難しいでしょう。一方、変動費の割合が大きい場合は、損益分岐点を超えても利益率が少なくなります。
事業減少によって赤字体質を改善するには、固定費と変動費を見直し、売上が少なくても利益が出やすくなるよう損益分岐点を下げることが重要です。
4. 中小企業の基本戦略
資金に限度のある中小企業が経営改善を実践する際の基本戦略は、SWOT分析「Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)」のうち、自社の強みと機会を活かすことです。
このSWOT分析は、経営層・バックオフィス・エンジニア・営業など、自社のチームや部署ごとに実施すると効果があります。
各部署にどんな強みがあり、どのような機会を利用できるかを分析し、積極的な経営改善計画を策定しましょう。
4-1.差別化集中
中小企業の基本戦略は、差別化集中がセオリーになります。
差別化集中戦略とは、商取引市場において競合他社との差異を見出し、顧客に訴求するために可能な限り経営資源を成長させる手法のことです。
自社目線で単に差別化を図るのではなく、顧客の立場から自社や競合が満たしていない課題を解決するとの意識を持って戦略を立てましょう。
売上を伸ばす方法は2つで、客数を増やすか単価を上げるかです。
単価を上げるには、何らかの戦略を立てる必要があります。一方、客数を増やすためには、既存顧客にリピーターになってもらうか、新規顧客を開拓しなければなりません。
いずれにせよ、自社の商材や事業がどちらに適しているのか、SWOT分析も参考にしながら進む方向性を決断し、最適な改善計画を策定しましょう。
ちなみに、自社と競合の課題を把握する際は、下記のようなポジショニングマップを活用したポジショニング分析が効果的です。
<例>
顧客が商材を購入する際に重要視する購買決定要因(KBF)を洗い出し、2つの軸から自社と競合他社がどの領域に位置するかを分析します。
自社の位置付けを把握するため、最初は顧客が優先しているKBFを2つ選定して作成した後、相関関係の薄いポジショニングマップを作成して差別化のヒントを探りましょう。
業種や商材にもよりますが、どの領域で自社が競合しているかの正確な把握が重要です。
4-2.経営者の方針
経営改善は、売上拡大か事業縮小のどちらかの選択になります。どちらが正解かは、自社の状況や業務内容、経営者の性分や好みによって違ってくるでしょう。
2択といっても、実際には、経費や固定費を削減しながら売上を伸ばすコンビプレーがほとんどです。
固定費や変動費も考慮に入れつつ、5年先を見据えて最適な経営改善計画を策定しましょう。
5. まとめ
売上拡大による経営改善は外的環境の影響も大きく、相手によって結果が左右されるため、確実ではありません。しかし、これまでの視点やアクションを変えたことで、赤字経営を改善できた企業は多数存在します。
一方、事業減少による経営改善はリスクこそ少ないものの、最後まで再浮上せずにフェイドアウトする可能性があることも否定できません。
いずれにせよ、周囲から何をいわれても、最終的に企業経営の責任を取るのは経営者です。
分析・改善を繰り返すPDCAサイクルを上手に活用し、赤字体質の経営を改善しましょう。