2024.12.15

【コラム】資金調達で経営者が実践すべき4つの方法|メリットやポイントも解説

企業経営では、目的やタイミングに応じた資金調達が重要です。

しかし、物価高の高騰や不安定な世界情勢が続く昨今、効果的な方法や注意点を正しく理解しなければ、資金を調達しようとしても円滑には進まないでしょう。

そこで今回は、経営者が実践すべき資金調達の方法やメリット、および注意すべきポイントを詳しく解説します。

1.資金調達とは?

資金調達とは、企業が自社を発展させ、継続的な運営のために必要な資金を外部から調達することです。

たとえば、起業や売上拡大を目的とする運転資金の確保、設備投資の資金、M&Aなど企業を買収する際は、まとまった額が必要になるため、資金を調達します。

2.経営者が資金調達で実践すべき4つの方法

この章では、経営者が実践すべき資金調達の4つの方法について説明します。

2-1. デッドファイナンス

デッドファイナンスは、「借入金融」ともよばれる資金調達の手法です。銀行や保険会社など金融機関からの融資が多く、主に5種類あります。

1.当座貸越
企業が担保を差し入れて銀行と契約を締結し、企業が預金残高を超過した小切手・手形を振り出す際に銀行が超過分を立て替える

2.手形割引(電子記録債権割引)
代金回収を早めるため、専門業者や銀行などに支払期日前の約束手形を売却し現金化する(※2026年以降は、全て電子化する指針あり)

3.手形貸付
建設業などに多く見られ、1年以内の立替資金として借用証書の代わりに自社宛の約束手形振り出し、手形の額面から利息を差し引いた額を現金化する

4.証書貸付
ある程度の額を長期で返済する際などに、銀行や消費者金融と締結した契約書に記載された額を借りる

5.シンジケートローン
「市場型間接金融」とも呼ばれ、社債償還や設備投資などの目的で証書貸付複数の金融機関が「シンジケート団」を結成し、同一の契約書・条件のもとに協調して融資する

2-1-2. デッドファイナンスのメリットと注意点

デッドファイナンスのメリットは、大きく分けて3つあります。

1.節税対策になる
2.経営権を継続できる
3.返済の実績が信用力になる

株式の発行や譲渡などの必要もなく、経営者は資金調達後も自由に経営できます。また、損金として利息を会計処理すれば、節税対策にもなるでしょう。

注意点は、次の3つです。

1.借入が自社の負債になる
2.利息・元金ともに返済義務がある
3.自己資本比率が低減する

借り入れた資金は自社の負債となるため、自己資本比率が下がり、財務諸表の数値にも影響するでしょう。

また、毎月、元金に加えて借り入れ期間によって発生した利息も返済しなければならず、滞った場合は、自社の信用力を損なう可能性があります。

2-2. エクイティファイナンス

エクイティファイナンスの手法は、主に次の4つです。

1.転換社債型新株予約権付社債
一定価格に株価が達した時点で、株式に転換できる社債を発行して資金を得る

2.公募増資
自社株の時価が高ければ発行数を抑えられるため、知名度の高い大企業に有効な手法で、新株を時価で発行する

3.第三者割当増資
株価が低い場合や業務提携先・取引先との関係を深めたい時に用いられ、取引先や役職付きの個人、ベンチャー・キャピタルなど第三者に株式を引き受けてもらう

4.株主割当増資
自社株主の持株比率に準じて新株発行の権利を付与するもので、既存株主が希望しない場合は権利が失効する。

これらのエクイティファイナンスは、新たに株式を発行して資本を増やすために出資を受けるところが特徴です。

2-2-1. エクイティファイナンスのメリットと注意点

エクイティファイナンスのメリットは、主に3つあります。

1.自己資本比率が向上する
2.返済義務が生じない
3.人脈を拡大できる

株主と自己資本比率が増え、返済義務が生じないというメリットは、企業にとって非常に大きいでしょう。

状況によっては、自社の利益につながる取引先や投資家を紹介してもらえる機会もあり、人脈の拡大にもつながります。

ただし、次の3点に注意しましょう。

1.資金調達までに時間を要する
2.支払うべき税金が増える
3.経営権を失うリスクがある

自社株式を発行して買い手がつくまでにある程度の時間がかかり、株式が増えれば自社の持ち株比率は低くなります。

持株比率が著しく低下した場合は、経営権を失うリスクもあるため、注意しましょう。

2-3. アセットファイナンス

アセットファイナンスは、企業が自社の資産を担保にし、その価値や収益性を基に資金を調達する手法で、4種類あります。

1.有価証券
財産的価値のある自社株式や社債・新株予約権証券などを発行し、市場で時価の取引によって持株を売却して投資額を回収する

2.固定資産
機械設備や不動産などの有形財産のほか、特許権や商標権など無形財産などを含め、自社保有の資産を売却する

3.ファクタリング
企業の保有する売掛金を売却して資金を調達するもので、回収サイトの遅い場合やスタートアップ企業のほか、売上拡大で迅速に人材や仕入れを強化する際にも活用される

4.リースバック
まとまった資金を確保する目的で自社の保有不動産の売却後、当該物件で賃貸契約を締結する

なお、資産の売却時には、手数料が発生することも覚えておきましょう。

2-3-1. アセットファイナンスのメリットと注意点

アセットファイナンスのメリットは、主に3つあります。

1.自社の負債にならない
2.返済義務が生じない
3.信用力・自社の経営状況への影響が少ない

負債ではないため、自社の財務状況を左右するリスクが少なく、利息や元金を返済する必要もありません。

また、業績の悪化や売上の伸び悩みがあっても、資産価値さえあれば資金調達しやすいのもメリットといえます。

注意点は、次の3つです。

1.価値のある資産の所有が前提となる
2.手数料は一律ではない
3.企業イメージを低下させるリスクがある

そもそも、アセットファイナンスは、それに見合う資産がなければ成立しません。売却時の手数料は業者によって異なるため、相見積もりで確認すると安心です。

ただし、自社不動産の売却は、取引先や関係者から業績の悪化を懸念される可能性があり、無形資産の売却は企業のブランド力にも影響するため注意しましょう。

2-4. 補助金・助成金

補助金・助成金は、国の各省庁や地方自治体などの公的機関から資金を調達する手法です。

補助金の主な管轄は厚生労働省で、労働者の職場改善や雇用促進をサポートする目的で支給されるため、原則的に返済の必要はありません。

ただし、補助金は主催側の予算も限られ、定員をオーバーすれば受給できない場合もあります。

一方、助成金の主な管轄は経済産業省・地方自治体で、設備投資や事業の拡大など企業活動をサポートするものです。

この助成金は、対象となる要件を満たせば受給率はほぼ100%です。その多くは申請期間も長く、随時募集しています。

2-4-1. 補助金・助成金のメリットと注意点

補助金・助成金のメリットは、次の4つです。

1.返済の必要がない
2.組織体制を整備できる
3.事業計画を改善できる
4.企業価値が向上する

企業にとって、全額とはいかないまでも、必要な額の3〜5割を援助してくれる補助金・助成金の存在は大きいでしょう。

これらの補助金・助成金の申請時には、就業規則や労使協定書をはじめ、事業計画書などの提出書類を準備しなければなりません。

その間接的なメリットとして、自社組織のあり方を見直し、準備した事業計画通りに改善できれば自社の企業価値も向上するでしょう。

ただし、この補助金・助成金にも5つの注意点があります。

1.後払いになる
2.手続に時間がかかる
3.必ず受給できるわけではない
4.情報を収集しづらい
5.課税の対象となる

また、各公的機関が広く宣伝しているものではないため、自社に必要な補助金や助成金があるかどうか、要件を満たすかどうかの情報を収集しづらいのが難点です。

なお、補助金・助成金を無事に受給できても、消費税を除いた額は「収入」となり、課税の対象となるため、注意しましょう。

3.資金調達を成功させる5つのポイント

資金調達を実践する際は、次の5つのポイントを押さえ、確実に成功させましょう。

3-1. プランや資金使途を明確にする

まず1つ目は、ビジネスプランや資金の使途を明確にすることです。

どの手法を選択するかを問う前に、なぜ資金を必要とするのか、資金調達でどのような結果を期待でき、どのようなリターンを得られるのかをじっくり考察しましょう。

申請する際は、自社のビジョンや使途について、調達先の金融機関や投資家・政府の役人が納得するよう説明しなければなりません。

5年先を具体的に思い描きながら、自社の財務計画や競合他社を含む市場分析に基づいて、具体的で実践可能なビジネスプランを策定しましょう。

3-2. 綿密な事業計画書を策定する

綿密な事業計画書の策定も、資金調達を成功させる大事なポイントのひとつです。

銀行などの金融機関が融資先の場合は、調達した資金をどのような事業にどう使い、どのような成果を上げるのか、事業計画をしっかり立てて納得してもらわなければなりません。

いくら資金使途を明確化し借入額や金額を算出できても、その内容が書面にしっかり反映されていなければ融資は難しくなります。

事前に予想される課題やリスク、およびその対応法などを包括してまとめ、綿密で説得力のある事業計画書に仕上げましょう。

3-3. 最適なタイミングを把握する

資金調達では、最適なタイミングの把握も重要です。

昨今は、物価の高騰が続いて厳しい状況ですが、自社ビジネスが軌道に乗っていて市場環境がよければ、金融機関や株式などの資金調達もスムーズに進むでしょう。

逆にいえば、売上の伸び悩みなどで業績不振が続いている企業や市場状況が厳しい時期は、資金調達の条件も厳しくなる傾向です。

今後の市場の動向や自社の売上状況を総合的に勘案し、資金調達の最適なタイミングを見逃さないようにしましょう。

3-4. 資金の調達先を十分検討する

資金の調達先も十分に検討しましょう。

中規模企業が、大企業と同じ額の資金を調達する必要はなく、目的が事業拡大や設備投資の場合と翌月の運転資金とでは、調達すべき金額も差し迫った状況も異なります。

自社の今後の見通しや事業規模を踏まえ、どの金融機関に申請すべきかを慎重に吟味しましょう。

3-5. 適切な専門家に相談する

適切な専門家に相談するのも、資金調達では重要です。

経営コンサルタントや士業などに相談すれば、資金調達の資料作成だけでなく、売上を伸ばす方法や自社課題についてもアドバイスをもらえるでしょう。

資金調達のためにアクションを起こすからには、それなりの結果を出す必要があります。

早めに相談すれば、資金の額や使途を含め、今後の見通しや戦略も変わってくるかもしれません。

特に、資金繰りや業績が悪化している企業は、資金調達の目的や使途も含めて相談してみましょう。

4.まとめ

資金調達を成功させるカギは、経営者の柔軟な思考力と判断力です。変化の著しい現代社会では、状況が日々めまぐるしく変わっています。

自社のビジョンを見据えてプランを策定しても、市場環境や自社の運営状況によって、資金の調達先や額を再検討しなければなりません。

専門家の意見も取り入れながら適切なタイミングで資金を調達し、自社をさらに発展させましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。