2024.12.31
【コラム】資金繰りを改善する6つの施策とは?悪化の原因やリスクも解説
資金繰りが悪化した企業は、自社の経営状況から原因を追究しなければなりません。
また、長期化すれば倒産に陥るリスクが高まるため、速やかに改善策を策定し実践する必要があるでしょう。
そこで今回は、資金繰りが悪化する原因やリスク、および6つの施策について解説します。
目次
1.資金繰りとは
資金繰りとは、現金や預金など、企業がすぐに支払うための資金の収支を管理し、事業をスムーズに進められるよう過不足のバランスを図ることです。
一般的に、企業を運営する際は、売掛金などの売上があっても実際に入金されるまでにある程度の時間がかかります。
だからこそ、資金繰りで売上から入金までのタイムラグを管理し、売上が計上されているにもかかわらず手元の運転資金が枯渇するような事態を回避する必要があるのです。
1-1.資金繰りの3つの役割
資金繰りには、大きく分けて3つの役割があります。
1つ目は、企業における経営リスクの低減です。
資金繰りが適切であれば企業の財務が安定するため、経営者が将来的な事業戦略を策定する際も適切に判断できます。
次に、経営危機の管理です。
利益や売上は試算表や計算書で確認できても、自社に数ヶ月先の支払時に必要な現金がどのくらいあるかは、資金繰りでなければ正確に把握できません。
売上があっても黒字倒産に陥るようなリスクを回避するためにも、常に資金繰りでお金の流れを追う必要があります。
3つ目は、信用力の向上です。
適切な資金繰りは、取引先や銀行など融資先の信用力を向上させ、新たな資金調達の機会やビジネスチャンスにつながります。
つまり、自社の資金にどのような動きがあり、どう流れているのかを確認・調整するための資金繰りは「企業経営の要」といってよいでしょう。
1-2.資金繰りの悪化によるリスク
資金繰りが悪化すると、たとえ帳簿上は売上があり、利益が出ている状態でも倒産する可能性があります。
実際、2022年に株式会社東京商工リサーチが実施した調査によれば、2022年1月〜12月までに倒産した企業の62.9%は、直前で最終赤字に陥る黒字倒産でした。
資金繰りをきちんと管理しなければ、損益計算書では黒字でも運転資金が不足し、支払不能の状態に陥るリスクがあります。
2.資金繰りが悪化する主な原因
企業にとって財務上、非常に重要な資金繰りですが、次の5つの原因によって悪化することがあります。
資金繰りが悪化している企業は、このうちどれが自社に当てはまるのかを検討してみましょう。
2-1.継続的な赤字経営
資金繰りが悪化する原因の多くは、継続的な赤字経営です。赤字経営とは、企業の事業で支出が収入を上回り、損益でマイナスが発生している状態を指します。
退職者に退職金を支払ったり、多額の売掛債権の貸し倒れが生じたりすれば、当月の経営は一時的に赤字になるでしょう。
しかし、売上の減少や固定経費がかさむなどの課題を抱えている企業は、慢性的な赤字経営になります。
赤字の経営状態が長引くほど手元の資金が減るため、資金繰りは悪化するでしょう。
2-2.売上の急激な増減
売上の急激な増減も、資金繰りを悪化させる原因のひとつです。
長期的に売上が減少すれば、資金繰りは悪化するものと予測できます。しかし、売上が増加しても、資金繰りは悪化するのです。
売上が増加すれば、それに比例して利益も増加し、赤字経営は解消すると思っている方も多いでしょう。
しかし、実際には、商品の売上が増加したら新しい商品を仕入れなければなりません。そこからさらに売上が増加すれば、店舗や倉庫の増設も検討する必要があります。
また、売上を伸ばすための経営戦略として、新しい機械の導入や設備の拡大に踏み切る企業も少なくないでしょう。
このような仕入れや設備投資は全て自社の手元の資金で支払うため、売上が伸びているにもかかわらず、資金繰りが悪化します。
2-3.取引先の倒産
資金繰りを悪化させる原因には、取引先の倒産も考えられます。
取引先が倒産すると、その企業から売掛金を回収できなくなり、当然、これまで取引していた商材の供給も止まるでしょう。
貸し倒れの額や商材のコストが大きければ、自社の運転資金では間に合わなくなります。主力商品を取引していた企業が倒産した場合は、そもそも自社の商売が成り立ちません。
特に、子会社や下請け会社は、親会社や大企業が倒産して共倒れになる「連鎖倒産」も多く、注意が必要です。
日頃から取引先を分散させ、売掛保証サービスや保証制度など金融機関のサポートサービスも活用し、取引先の倒産で自社の資金繰りが悪化しないよう事前に策を立てておきましょう。
2-4.設備投資・過剰在庫
設備投資や過剰在庫も、資金繰りを悪化させる原因のひとつです。
一般的に、事業拡大の目的で新しい機器や商材を購入する場合は、当月末の支払いになります。
一方、業界によっては、翌々月にならないと自社の売掛金が入金されない企業も珍しくありません。
売上を見込んで大がかりな機械設備や過剰に在庫を抱えてしまうと、先に自社の運転資金が枯渇する可能性があるため、注意しましょう。
2-5.売掛金の回収遅延
資金繰りが悪化する原因には、売掛金の回収遅延も考えられます。
先述の通り、どんなに売上が増加して利益が出ていても、すぐに入金されるわけではありません。
特に、建設業や運送業などのサービス業は、回収サイトが2〜3ヶ月先と長くなる傾向があります。
自社商材の売上を最優先し、回収サイトにまで気が回らない営業職の従業員も多いようです。
また、組織内の与信管理が徹底されていなければ、利益があっても売掛金の回収遅延が原因で資金繰りが悪化する可能性は高くなるでしょう。
先の東京商工リサーチの調査でも、直前まで黒字だった企業が、最終的には赤字に転落して倒産に至っています。
自社の取引先を全て洗い出し、売掛金の状況や回収サイクルを確認しておきましょう。
3.資金繰りを改善する6つの施策
資金繰りを悪化させる原因を突きとめたら、倒産リスクを回避するためにも、速やかに改善策を講じなければなりません。
この章では、資金繰りを改善するための6つの施策について説明します。
3-1.売掛債権の早期回収
まずは、売掛債権の早期回収を心がけましょう。
粗利益や売上に関する知識は豊富でも、回収のことまでは意識していない営業担当者は意外と多いものです。
資金繰りを改善するには、取引先ごとに売掛債権の回収サイトを見直したうえでルールや期限管理を徹底し、従業員の早期回収への意識を高める必要があります。
また、各取引先の経営状況に関する情報収集を常に心がけ、売掛債権の限度額を設定して貸し倒れのリスクを低減しましょう。
もし取引先の経営状況が芳しくないとの情報を得た場合は、たとえ設定した限度額の範囲内でも販売を見合わせ、様子を見て商材の引き上げも検討すべきです。
3-2.不要な在庫の処分
不要な在庫の処分も、効果的な施策のひとつです。
どんなに優れた手法やシステムを導入しても、不良在庫を完全になくすことは簡単ではないでしょう。
また、どれほど緻密に在庫の販売計画を立てたところで、販売在庫数には些細であっても必ず計画との誤差が生じます。
これらの在庫が時の経過とともに少しずつ蓄積され、そのうち動きが鈍くなって不良在庫となるのです。
そのまま放置しておけば、いつしか全体数における不良在庫の割合が大きくなり、保管スペースや維持費にコストがかかります。
不良在庫が長期的に滞留する場合は、年度末に損益として計上し、処分してしまいましょう。
このほか、商材は単品での管理を心がけ、売れない商材の判断基準を設定し、短期サイクルで廃棄するのも一案です。
3-3.資金繰り計画の策定
3つ目の施策として、資金繰り計画の策定も効果があります。
資金繰りは、自社の収入や支出を正確に把握し、予算の流れを管理しなければ改善できません。
また、現在の自社の資金状況を明らかにし、短期・中期・長期の3つの視点から最適化する資金繰り計画の策定が不可欠です。
資金繰り計画は、損益ではなく、主要な取引先の支払と入金のタイミングなど自社の「お金の出入り」に着目して策定する必要があります。
昨今は、資金繰り表の作成ツールも市場に広く出回っていますので、活用するのもよいでしょう。
既に資金繰り表を作成している企業も定期的に見直し、少しでも悪化の兆しが見えたら、早めに原因を追究して対処する姿勢が重要です。
3-4.借入先との交渉
どうしても資金繰りが苦しい場合は、借入先と金利や返済条件のリスケ(変更)を交渉するのも改善策のひとつです。
借入金の額が大きく、支払いが滞るようなことになれば、不良債権として取り扱われます。
特に、金融機関など借入先からの支払いの停滞で法的な措置を取られると、倒産するリスクが極めて高くなるため、迅速に動かなければなりません。
借入先と交渉する際は、現状を客観的に俯瞰して正確に把握し、どう変更すれば資金繰りを立て直せるのかを明らかにして臨む姿勢が重要です。
3-5.貸付・前払・仮払金の精算
貸付・前払・仮払金の精算も検討しましょう。
これらの項目は、取引先との状況や関係から一時的に発生しても、本来は1〜2ヶ月で解消されるべきものです。
帳簿上に記載されている状況が長期化すれば、銀行など金融機関の融資審査の結果を左右する事態にもなりかねません。
そのようなことになれば、今後の資金調達が難しくなるため、早めに精算しましょう。
ただし、役員貸付金は役員報酬の一部と相殺できますが、手取額に返済分を上乗せすると、役員個人の社会保険料や所得税が加算されます。
また、前払金は翌年に繰り越しできますが、商材を受け取った時点で資産から費用に変動するため、注意が必要です。
仮払金は、不正にならないよう領収書やレシートなど支払の事実を確認し、速やかに計上しましょう。
3-6.支払・回収サイトの見直し
支払・回収サイトの見直しも、資金繰りの改善には効果的です。
先述のように、建設業や運送業などでは、提供したサービスの入金が約2〜3ヶ月になることも珍しくありません。
だからこそ、なるべく手元に資金が残るよう、資金繰りは「回収を早く、支払いは遅く」が鉄則になるのです。
売掛金の回収を早められれば、その分、経費の支払いに資金を充てられるため、資金繰りは楽になるでしょう。
企業運営では、営業職も含めて売上を伸ばすことに気を取られがちです。しかし、資金繰りを改善するためには、「回収」にこそ目を向ける必要があります。
売掛金の回収は、取引先の経営状況から信用力を判定し、契約前に数量や販売額を制限する与信管理をしておくと安心です。
これと並行して買掛金の支払い条件の変更を申請し、支払いサイトを長くすれば資金繰りも改善されるでしょう。
買掛金の支払い変更の交渉は難しいかもしれませんが、付帯条件をつけるなどの工夫を取り入れて根気よく丁寧に交渉すれば、一部だけでも受け入れられる可能性があります。
いずれにせよ、やり方次第では取引先との関係や信頼を失うリスクを伴いますので、先方の経営や販売状況を踏まえたうえで誠意をもって臨みましょう。
まとめ
資金繰りを改善させるためには、まずは何が原因なのかを突きとめる必要があります。
どの企業も同じ原因とは限らないため、今回ご紹介した5つのどれが自社に該当するかをしっかり分析することが重要です。
また、時間が経つほど倒産のリスクは高まるため、速やかに課題を解決するための改善策を策定・実践しなければなりません。
状況に応じて専門家にも相談し、資金繰りを改善して自社の経営を安定させましょう。