2025.01.15

【コラム】資金繰り表で経営を改善できる!作成方法と2つのポイントを解説

経営が悪化している企業は、資金繰りの重要性を十分に理解できていないのかもしれません。特に、経営者が自ら営業職を兼ねているような企業は、売上や利益を重視する傾向にあります。

日々の業務に忙殺されて、資金繰りの管理をおろそかにしてはいないでしょうか。実は、資金繰り表を作成し、自社の財務状況を正しく把握することで悪化した経営を改善できた企業は少なくありません。

そこで今回は、経営を改善するために有効な資金繰り表の作成方法と、2つのポイントについて解説します。

1.資金繰りとは?

資金繰りとは、現金や普通預金・定期預金など自社の資産の支出と収入の流れを管理し、資金の収支を照合しながら現金の支払いを調整することです。

企業経営では、資金繰り表によって残っている資金を正確に把握し、支払い不能な状態「資金ショート」に陥らないよう、常に手元に資金を確保しなければなりません。

企業が安定した事業の運営を持続する意味で、資金繰りは「経営の要」といえるでしょう。

1-1.資金繰りの関連用語と違い

資金繰りと関連するビジネス用語についての理解を深めると、さらに資金繰りの仕組みが分かりやすくなります。

この章では、資金を管理する際によく出てくる関連用語と資金繰りとの違いを中心に説明しましょう。

1-2-1.資金と利益

まずは、資金と利益の違いについてです。「自己資金」という用語を耳にする方も多いと思います。資金とは、企業がすぐに自社で使える預金や現金のことです。

一方、利益とは、自社の経営活動によって得られた儲けのことです。この利益も、資産と同様に利益が出たからといってすぐに入金されるとは限りません。資金と利益の語は、区別して使うことを覚えておきましょう。

なお、資金は、現金化するまでに時間のかかる貸付金や、不動産などの「資産」とも別物であることにも注意する必要があります。

1-2-2.支出と費用

支出と費用も似ていますが、同義ではありません。支出とは、実際に自社が支払った現金であるのに対し、費用は主に自社の経営活動によって生じる支払いのことを指します。

たとえば、経営活動によって100万円の費用を支払う際、2回に分けて50万円ずつ支払うケースも珍しくないでしょう。この場合、当月に現金で支払う50万円が支出となり、費用の100万円とは時制のうえで合致しません。

だからこそ、手元に現金がいくらあるのかを管理する資金繰り表が必要になるのです。

1-2-3.収入と収益

収入と収益も似ていますが、同じものではないことに注意しましょう。収入とは、実際に自社に入金された現金のことです。一方、収益は、自社の経営活動などの売上で発生するお金を意味します。

収入も、支出と費用の関係と同じように分割して入金される場合があります。たとえば、収益が100万円あっても、当月に収入として入金される現金は50万円のみで、残りの50万円は翌月になるようなケースです。時間的には、収入よりも収益のほうが遅くなります。

収益を当てにしていたら分割の入金となった場合は、同月に大きな額の支出があれば手元に資金が残りません。資金繰りを作成すれば、そのような事態を回避できます。

2.経営に資金繰りが必要な3つの理由

経営者のなかには、「利益が出ているのに、手元に現金があまり残っていない」と感じたことがある方もいらっしゃるでしょう。

そのような状況を作らないためには、経営に資金繰りが必要な理由を十分理解する必要があります。経営に資金繰りが必要な理由は、主に3つです。

1.お金の流れの把握
2.金融機関との交渉手段
3.黒字倒産の回避

この章では、資金繰りが企業の経営で必要な3つの理由を具体的に説明します。

既に経営が悪化している企業はもちろん、これから資金繰り表を作成する企業も、この3つの理由を知って資金繰りの必要性をきちんと理解しましょう。

2-1.お金の流れの把握

1つ目の理由は、資金繰りによってお金の流れを把握できるからです。先述の支出と費用、収入と収益との関係から、お金の動きに生じる「ズレ」に気づいた方も多いでしょう。

この「ズレ」がいつ、どのような時に発生するのかを事前に把握できなければ、いざ自社が支払う際に「手元に現金がない」という事態に陥ります。だからこそ、資金繰り表の作成が必要なのです。

2-2.金融機関との交渉手段

資金繰りは、金融機関との交渉手段にもなります。銀行などの金融機関が企業への融資を審査する際は、業績が良好かどうかで判断するのが定石です。

常に月商の約3ヶ月分の資金を自社で確保できているような企業は、資金繰り表を作成していなくても審査を通過するかもしれません。

しかし、コロナ禍がようやく落ち着いてきたとはいえ、物価高騰の続く昨今、右肩上がりの企業はそれほど多くないでしょう。

経営状況が思わしくない企業はもちろん、売上が伸びているのに手元に資金がなくて融資を受ける企業も、資金繰り表で現金の流れを可視化すれば、銀行側も融資の可否の判断材料にできます。

2-3.黒字倒産の回避

資金繰り表がきちんと機能していれば、黒字倒産も回避できます。黒字倒産とは、利益が出ているにもかかわらず、手元の資金が枯渇する「資金ショート」に陥り、最終的に赤字に転落して倒産することです。

企業を経営していれば、先ほどの支出と費用・収入と収益の間に生じる「ズレ」に加え、買掛金の支払と売掛金の回収とに発生するタイムラグを痛感されている方も多いでしょう。

取引先が複数ある企業は、各取引先によって支払と入金のタイミングや金額が異なるため、それを頭の中だけで管理するのは至難の業です。

特に、建設業や運送業などの業界では、このタイムラグの度合いが大きい傾向にあります。だからこそ、資金繰り表でお金の流れを把握し、上手にやりくりする必要があるのです。

3.経営を改善する資金繰り表の作成方法

資金繰りの必要性をご理解いただいたところで、実際に経営を改善するための資金繰り表の作成方法について説明しましょう。

押さえておくべきポイントは、主に次の3つです。

1.資金繰り表の種類
2.資金繰り表のフォーマットと書式
3.資金繰り表に入れるべき項目

資金繰り表を作成する際は、ぜひ参考にしてください。

3-1.資金繰り表の種類

まず1つ目のポイントは、資金繰り表に種類があることを覚えておきましょう。

資金繰り表には、日次・月次・年次など期間ごとに作成する「期間別」と、過去・未来の時制で作り分ける「時制別」の2種類あります。

<期間別>
期間別は、月次で作成するのが一般的です。特に、売上が月ごとに大きく変動するような業界やスモールビジネスでは、毎月の現金の流れを把握し翌月の動きを予測できます。

ただし、経営の悪化が深刻で倒産を回避する目的で作成する場合は、日次の1日単位で資金の流れを把握すべきです。また、中長期的な経営を検討する際は、年次で作成するとよいでしょう。

<時制別>
時制別は、過去と未来で作り分ける資金繰り表のことです。過去の現金の流れを基に作成する「資金繰り実績表」と、未来を予測する「資金繰り予定表」のいずれかで作成します。

資金繰り実績表は、資金繰り予定表を作成する際に算出する数値の精度を高めるためにも活用できて便利です。

現状を分析し、自社に適した資金繰り表を作成しましょう。

3-2.資金繰り表のフォーマットと書式

資金繰り表のフォーマットと書式には、特に定型はありません。自社に必要な項目を分類して作成するのが一般的です。

昨今は、「日本政策金融公庫」の公式サイトほか、インターネット経由で無料のフォーマットをダウンロードできるので、活用するのもよいでしょう。

ただし、過度に細分化された項目のフォーマットや書式を選ぶと作成に時間がかかり、継続的な管理が難しくなります。できるだけ操作しやすいシンプルなものを選び、効率的に運用しましょう。

3-3.資金繰り表に入れるべき項目

資金繰り表に入れるべき項目も、特に定められてはいません。

しかし、現金の流れを正確に把握し分析するためには、前月末の預金残高である「前月繰越」と前月繰越の収支過不足分を合計した「翌月繰越」のほか、次の5項目が不可欠です。

1.営業収支
自社の営業活動によって得た売掛金回収・現金売上などの営業収入から仕入れ・買掛金・人件費等の営業支出を差し引いた金額

2.財務収支
借入など財務取引で得た収入から借入金返済などの支出を差し引いた金額

3.経常外収支
税金の支払いなど臨時的に発生した費用を差し引いた金額

4.経常収支
継続的に発生する自社の営業活動で得た現金売上や売掛金回収から人件費・光熱費・買掛金などの支払いを差し引いた金額

5.投資収支
固定資産の売却などの投資で得た収入から設備投資などの支出を差し引いた金額

たとえ営業収支がプラスであっても、借入金の額や返済の利息が大きい場合は、経常収支がマイナスになることに注意しましょう。

ちなみに、この経常収支こそ企業の実態を反映する指標であり、資金繰り表で現金の流れを把握するうえで重要な項目です。

4.資金繰り表で経営を改善する2つのポイント

資金繰り表の作成で経営を改善するには、いくつかの注意点があります。経営の悪化している企業は、確実に改善を図るためにも次の2つのポイントをしっかり押さえましょう。

4-1.月高3ヶ月分の資金を意識する

1つ目のポイントとして、月高3ヶ月分の資金を常に維持するとの意識が大切です。自社の資金が月商1ヶ月分を常に下回っている企業は、倒産するリスクは高くなります。

取引先の入金の遅延や自然災害による不測の事態に備え、最低でも月商1ヶ月分の資金を確保できると安心です。

月商3ヶ月分の資金を常にプールする目的で、資金繰り表を作成して金融機関から融資を受けるのもよいでしょう。

4-2.損益計算書と照合して分析する

資金繰り表を作成したら損益計算書と照合し、自社の実態について分析しましょう。資金繰り表を作成する目的は、経営で利益を出すためです。

そのためには、損益計算書(PL)の数値から人件費や自社の売上原価・ムダな投資などのコストを削減する必要があります。

収入より支出が多い状況が続いているからこそ、資金繰りは悪化するのです。その原因がどこにあるのかを分析し、速やかに改善策を策定・実践しましょう。

5.まとめ

企業の経営では、売上や利益に重点を置いてしまう傾向があります。しかし、売上が増加し利益が出ていても、今月支払う資金がなければ資金ショートや黒字倒産に陥るでしょう。

また、せっかく資金繰り表を作成しても、資金繰りが悪化してからでは融資を受けるのも難しくなります。少しでも悪化の兆しが見えたら、すぐに改善策を講じるべきでしょう。

毎年の決算期に中期的な経営計画を策定し、資金繰り計画表を作成すれば資金の不足しそうな時期を予測できます。資金繰り表で自社の財務状況を正確に把握し、経営の改善を図りましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。