2025.02.15

【コラム】黒字倒産とは|5つの予兆と回避の方法をわかりやすく解説

昨今は、黒字倒産に陥る企業が増加しています。2023年は、損益が黒字だった企業の休業または廃業・解散の割合は、52.4%との結果でした。この数値は、過去最多といわれる2022年より2.5ポイント悪化しています。

現在、利益が出ている企業も、安心はできません。特にサービス業は、直前まで黒字の企業が最終的に赤字に転じて倒産する傾向にあるようです。

そこで今回は、黒字倒産に陥りやすい5つの予兆と回避するための方法を解説します。

黒字倒産とは?

黒字倒産とは、商材で売上があり、損益計算書では利益を出している企業が、自社の支払いで必要な資金の不足で倒産に至ることです。

通常の掛け取引で約1ヶ月、手形の場合は決済までに約3ヶ月〜6ヶ月のタイムラグが生じます。この間は、たとえ利益が計上されていても、現金は入金されません。

本来、企業は、この数ヶ月の決済を切り抜けるための運転資金を手元に残しながら運営にあたりますが、何らかの理由で黒字倒産に陥ることがあります。

赤字倒産との違い

黒字倒産と似た言葉に赤字倒産があります。赤字倒産とは、業績の不振が続き、決算上も利益が出ないため、経営を回すための運転資金が枯渇して陥る倒産のことです。黒字倒産と赤字倒産は、会計上の収支状況が黒字か赤字かどうかに違いがあります。

債務超過との違い

赤字倒産のほかに、債務超過という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるでしょう。債務超過とは、貸借対照表のうえで負債が資産より大きい値となり、自社の純資産がマイナスの状態にあることです。

債務超過に陥った企業は、支払不能となるまでは存続できますが、黒字倒産の場合は、利益があっても既に支払不能の状態にあるため経営を継続できません。

利益の出ている黒字倒産と負債を抱えている債務超過との違いは、支払の可否にあります。

黒字倒産に陥りやすい5つの予兆

この章では、黒字倒産に陥りやすい企業によく見られる5つの予兆を紹介しましょう。

無理な設備投資

黒字倒産に陥りやすい企業に多いのが、無理な設備投資です。多くの企業は、自社の労働生産性を向上させ、省力・省エネ化・情報化・合理化を図る目的で資金を活用し、さらなる発展を目指します。

たとえば、アナログな企業がIT化で業務の効率化を図る、アパレル企業が商標権を取得してブランドの知名度を高めるなどです。

しかし、楽観的な見通しによる多額の投資や、自社では使いこなせないハイスペックな機材の導入で予算が超過する企業も少なくありません。

設備投資に大金を費やすと、利益を出すまでは取り戻せず、投資は回収までの期間が想定より長引く可能性もあります。たとえ利益が出ていても、それらがすべて犠牲になるリスクもあるため、注意が必要です。

売掛金の回収遅延

売掛金の回収遅延も、黒字倒産の予兆のひとつです。特に、サービス業に多い傾向にあり、次の7つの業界は売掛金の額が大きいとされています。

1.建築・建設
2.運送
3.卸売
4.小売
5.製造
6.情報通信・IT
7.飲食・宿泊

掛取引は「後日請求の取引」が前提で、商材やサービスの提供後、すぐに売掛金を回収できません。

売掛金や受取手形での取引を売上債権といいますが、自社が「売掛金をどの程度効率よく回収できているか」は、この売上債権を用いた「売上債権回転率」で算出できます。

売上債権回転率の計算式は、「売上高÷売上債権」です。たとえば、売上高が200万円の売上債権を100万円とすると、「200万円÷100万円=2回転」です。また、売上債権を50万円と仮定した場合は、「200万円÷50万円=4回転」になります。

先述の7つの業界における売上債権回転率の目安は、以下の通りです。

  • 建築・建設→9.07
  • 運送→7.85
  • 卸売→6.56
  • 小売→14.44
  • 製造→5.75
  • 情報通信・IT→6.75
  • 飲食・宿泊→47.52

この数値が高いほど回収までの期間が短く、経営は安定しているといえます。目安を大幅に下回る企業は、早急に対策を講じるべきでしょう。

売上の急激な増減

売上の急激な増減も、黒字倒産の予兆のひとつです。何らかの理由で売上が激減し、買掛金の支払いが手元の資金を上回れば、倒産のリスクが一気に高まると予測できます。

しかし、売上が急激に増加しても、黒字倒産となり得るのです。売上が増加すれば売掛金が増える一方、扱う商材やサービスを仕入れる買掛金の額も増加します。

損益計算書では利益が増大するため、経営が安定していると思うのも無理はありません。ここで注意すべきは、売上利益の入金と手元の現金とに生ずるタイムラグです。

資金計画をしっかり管理できていない企業は、このような売上の急激な増減でも黒字倒産に陥ります。

過剰在庫の保有

黒字倒産の予兆は、過剰在庫の保有にも見られます。商品を扱う業界では、売上拡大を狙って一時的に在庫を抱えることも珍しくありません。

しかし、在庫数の見積もりが甘く多くの在庫を抱える状況になれば、販売するまで現金化できないため、手元の資金は減少するでしょう。

自社の適正な在庫数は、在庫回転率や交差比率の指標を用いて測定できます。この在庫回転率の計算式は、「出庫した総数÷平均在庫数」です。

たとえば、企業が自社倉庫から1年間に出庫した総数を1,000個と仮定すると、期の始めの在庫数が60個、期末の在庫数が20個の場合の平均在庫数は50個で、在庫回転率は20回になります。

ちなみに、主な卸売業・小売業・製造業の在庫回転率の目安は、次の通りです。

<卸売業>

卸売業平均→18.0回
飲食料→24.2回
繊維・衣服→8.0回
建築資材・鉄鋼物等→19.0回

<小売業>
雑貨・小物・衣服等→5.1回
飲食料→17.1回

<製造業>
大企業平均→10.5回
中小企業平均→12.6回
各製品→16.2~16.7回

また、在庫回転率から交差比率を算出すると、「自社の在庫がどの程度の利益を出しているか」を測定できます。

この交差比率は、「在庫回転率×粗利率」で算出でき、数値が高いほど効率的に利益を出していることになります。各業界における交差比率の目安は、200%以上です。

在庫回転率の低い宝石や車・高級ブランド品などは粗利率が高く、在庫回転率の高い飲食料品などは粗利率が低いため、多くの商材でこの数値を目安にできます。これを大きく下回る企業は、黒字倒産を回避する施策を検討すべきです。

不十分な資金管理

不十分な資金管理も、黒字倒産の予兆といえます。黒字倒産を回避するには、損益以上に現金の出入りに着目すべきです。企業経営の安定度は、お金の流れを把握できているかどうかに左右されるといっても過言ではありません。

企業の運転資金は、売掛金の回収と買掛金の支払とのやりくりで成り立っています。しかし、業界や取引によっては、このタイムラグで手元に資金がないという事態に陥るのです。

これを放置すると、売上が増加しても手元の資金が枯渇する「資金ショート」の状態となり、黒字倒産に陥ります。

黒字倒産を回避するための4つの方法

この章では、黒字倒産を回避する4つの方法について詳しく説明しましょう。

資金繰り表の徹底管理

まず検討すべきは、資金繰り表の徹底管理です。資金繰り表とは、企業や事業主が月や週ごとの現金の入金と支出を管理する表のことで、今後の資金状況を予測し、支払計画や資金調達の必要性を確認する目的で作成されます。

資金繰り表を徹底的に管理すれば、金融機関から融資を受ける際の判断材料だけでなく、自社の財務状況を的確に把握しているとの信頼も得られるでしょう。また、運転資金の不足の原因を特定できるため、今後の経営戦略の参考としても活用できます。

在庫および投資対象の最適化

在庫および投資対象の最適化も、黒字倒産を回避するためには有効です。在庫の売上は、現金化までに一定の時間がかかり、設備投資は一度支払えば戻ってきません。

売れ残った在庫はブランドや商材の価値を低下させ、長い間保持していれば不良在庫になるリスクもあります。一方、自社に必要な品質や規模以上の設備投資は、宝の持ち腐れとなるだけでなく、大事な手元の資金を枯渇させるでしょう。

活用しない建物や土地を放置している、取引先との付き合いで購入した株式やゴルフ会員権が眠っている場合は、時の経過で価値が下がる可能性もあります。

先ほどの在庫回転率や交差比率などを参考に、自社が保有すべき適切な在庫数を算出し、在庫の最適化を図りましょう。また、一時的な必要性から投資したものの、現在使用していない資産はできるだけ現金化し、少しでも手元の資金を増やすとの意識も大切です。

回収・支払サイトの調整

回収・支払サイトも調整しましょう。資金繰りを安定させるためには、できるだけ早く売掛金を回収し、なるべく遅く買掛金を支払うよう調整すると安心です。

まずは、自社の回収と支払サイトのタイムラグを確認しましょう。昨今は、これらの時間的なズレを管理できる資金繰り管理ツールも、市場に多く出回っています。金額の大きい取引先があれば、交渉して協力を得るのも一案です。

ただし、日頃の信頼関係の度合いによっては、資金繰りや経営の悪化を察知され、今後の取引に影響を及ぼす可能性もあります。

交渉する場合は、単価や取引数で取引先にメリットがあるような工夫や、契約更新のタイミングで改定案を提出するなど綿密に戦略を立て、慎重に進めましょう。

資金調達と返済条件の検討

資金調達と返済条件の検討も効果的です。企業経営では、資金ショートが起こりそうな状況下で、すぐに金融機関などから融資を受けられるとは限りません。

しかし、必要なタイミングに資金を調達できなければ、黒字倒産に陥るのは時間の問題です。返済条件がタイトな場合は、資金繰り表など根拠を示す書類を融資先に提示し、条件変更の交渉も視野に入れるべきでしょう。

また、1つの金融機関に限定すると、融資額や返済期限も制限されます。口座や返済期限の管理が複雑にならない程度に、日頃から複数の金融機関と関係性を構築しておくとよいでしょう。

なお、金融機関以外にも、資金調達にはいくつか方法があります。たとえば、次の4つの資金調達方法は、それぞれ要件やメリット・デメリットはあるものの、返済不要です。

1.エクイティファンディング
2.クラウドファンディング
3.ファクタリング
4.補助金・助成金

自社の現状を踏まえ、適切な資金調達方法と過度な負担にならない返済条件を再度検討しましょう。

まとめ

現時点で利益が出ている企業でも、資金ショートで黒字倒産となるリスクを有します。回避するためには、予兆を見逃さないことです。

自社の現状を把握し、今回ご紹介した5つの予兆のいずれかに該当する場合は、黒字倒産に陥るリスクがあります。せっかく自社商材で利益を出していても、黒字倒産になってしまっては本末転倒です。

必要に応じて専門家にも相談し、自社に必要な施策を打ち出して黒字倒産を回避しましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。