2025.02.28

【コラム】連鎖倒産に陥りやすい企業とは?その特徴と4つの防止策を徹底解説

ここ10年、日本では、連鎖倒産の件数が最多ペースまで急増しています。2024年前期の東京商工リサーチによる調査では前年比の28.4%増で、大型倒産も16件発生しました。

「最近、取引先からの売掛金の入金が遅れている」という企業は、連鎖倒産のリスクがあります。特に、自社商材に大きく関わるメインの取引先がそのような状況になっている場合は、要注意です。

今回は、そんな連鎖倒産に陥りやすい企業の特徴と4つの防止策についてくわしく解説します。

連鎖倒産とは?

連鎖倒産とは、ある企業が経済的に破綻して支払不能な状態になったことがもとで、取引先の企業や関連会社が連鎖的に倒産することです。

取引先に依存している企業やサプライチェーンの場合は、業界内の大企業が倒産すると「芋づる式」に連鎖倒産に至るケースも少なくありません。

2023年のコロナ禍による休業給付金・支援金などの支援策は、既に終了しています。長引く物価高騰によって経営基盤が未だ脆弱化している企業も多いなか、本格的なゼロゼロ融資の返済がスタートし、連鎖倒産の件数は増加の傾向です。

2024年にアラームボックス株式会社が実施した「倒産可能性の高い業種ランキング」では、それぞれ要因は異なるものの、小売業や運送業をはじめ輸送用機械器具メーカー・農業などの事業が連鎖倒産しやすいとの結果が出ています。

これらの業界では、期日に手形を支払えない「不渡」による連鎖倒産も多いようです。2026年末に紙の手形は廃止されますが、日本では、依然として製造メーカーを中心に多くの企業が商業手形(約束手形)で取引しています。

手形決済は、振出人が一定期日に支払う旨を約束した証書を手形として渡し、支払期日に受取人が取引先の銀行から代金を受け取る仕組みです。しかし、発行から支払までに3〜4ヶ月のタイムラグがあり、債権者はその間の資金繰りを切り抜けなければなりません。

手元に現金がなくても、手形を振り出せば支払を先延ばしできる一方、6ヶ月以内に2度の不渡りを出した場合は銀行取引が2年間停止され、実質的な倒産です。

さらに、商取引がないにもかかわらず手形を振り出してもらい、その手形を割り引いて資金を調達する融通手形も連鎖倒産のリスクを高めます。

この融通手形を使って、関連企業が赤字経営の企業に融通手形を再度振り出して割り引いたり、互いに割引手形を振り出したりすれば、赤字経営の企業は最終的に資金繰りに行き詰まり、関連企業が手形で決済できなくなるのも時間の問題です。

日頃からメインの取引先の動向や倒産リスクに関する情報収集を心がけ、連鎖倒産のリスクを回避する意識を持ちましょう。

倒産と連鎖倒産との違い

倒産と連鎖倒産とは、「主体が何か」という点で異なります。一般的な倒産は、自社の財務状況や資金繰りが悪化して、もはや経営を続けられない状態です。

一方、連鎖倒産は、取引先の企業が倒産し当該取引先への債権が回収できなかったことが引き金となり、自社もこれに倣って倒産することを指します。

自社商材で売上が出ていても、メインの取引先が倒産して売掛金を回収できなければ資金繰りが急激に悪化して連鎖倒産に陥るリスクがあるため、注意しましょう。

連鎖倒産に陥りやすい企業の4つの特徴

連鎖倒産に陥りやすい企業には、大きく分けて4つの特徴があります。取引先の倒産で大きな打撃を受けるのは、そもそも自社の組織力や財務基盤が弱いからです。

この章で紹介する4つのいずれかに該当する企業は、組織としての運営自体に問題があります。早急に、組織体制や財務状況を中心に自社を立て直す施策を検討しましょう。

経営者の浪費が激しい

まず1つ目は、経営者の浪費が激しい企業です。特に、零細企業や小企業のなかでも同族会社に多く見られます。

たとえば、経営者がこれまでの実績や利益を理由に自社の資金を半ば私的に浪費していても、従業員がワンマン経営者に意見をいえないような企業です。

景気もよく、売上が増加している時期は、それでも経営を切り回せるかもしれません。しかし、コロナ禍後も物価高が長引いている昨今、経営状態の思わしくない企業のほうが多いでしょう。

人間は一度経済的な水準を上げると、なかなか元に戻せません。売上が低迷していて経営者の浪費が改善されなければ、主な取引先の倒産に対応できず、連鎖倒産に陥ります。

資金繰りが悪化している

資金繰りの悪化も、連鎖倒産に陥りやすい企業の特徴のひとつです。資金繰りは、過剰な在庫や過度な設備投資、急激な売上の増減などが原因で悪化します。

売上拡大の目的で仕入れた在庫が想定外に手元に残るケースや、自社のスペック以上の設備投資による多額の支出があれば、手元の資金は間もなく枯渇するでしょう。

また、売上が減少した場合はもちろんですが、急に増加しても商材の仕入れや在庫の保管スペースなどにコストがかかります。

このような状況で、メインの取引先が倒産して売掛金を回収できなくなれば、連鎖倒産に陥るリスクは、一気に高まるでしょう。

与信管理が徹底されていない

与信管理が徹底されていない企業も、連鎖倒産のリスクは高くなります。与信管理とは、取引先の財務状況や信用力について定期的にモニタリングして情報収集し、取引の限度額や与信枠を設定することです。

与信管理の目的は、取引先との信頼関係を良好に保ち、売掛金の代金を確実に回収することですが、連鎖倒産の防止にも効果があります。

連鎖倒産を防止するためにも、この与信管理を取引前と取引後に分けて実践しましょう。具体的には、次の6つのプロセスで信頼度を検討します。

取引前1.取引先の情報を収集し分析する取引先の事業内容や決算書・販売形態・業界の動向・代表者に関する情報を収集し、信用調査会社等による客観的な調査データなどから定量面・定性面・商流の観点で取引先を客観的に分析する
2.信用度を評価する1の分析結果により、取引先の信用度を評価する
3.与信限度額を設定する2で査定した信用度に応じて自社との取引に適した与信限度額を設定する
4.契約条件を交渉する3で設定した与信限度額を基準に契約条件を交渉し、合意を得られれば取引を開始する
取引後5.債権・与信限度額を確認する取引後の取引状況を随時確認し、支払い遅延または与信限度の期限切れなどが生じた場合は是正を勧告する
6.定期的に見直しを図る取引前の手順と同様に取引先の財務情報や業績など必要な情報を収集し、定期的に取引内容や取引先の信用をチェックし、必要に応じて見直しを図る

今後、日本の経済界は緩やかに持ち直すと予測されているものの、業界によってはもう少し先にずれ込む可能性もあります。これから新しく取引を開始する場合は特に、入念な与信管理が不可欠です。

従業員の離職率が高い

従業員の離職率が高い企業も、連鎖倒産に陥りやすくなります。その原因は、主に次の6つです。

1.給料に見合わない業務
2.恒常化している長時間労働
3.不当な人事・成果の評価
4.人間関係・社風の悪化
5.教育体制の未整備
6.慢性的な人手不足

特に、先述のように経営者の浪費が激しくワンマン経営の企業は、このような状況を生み出しやすいため、注意しましょう。

また、これまで企業の主軸だった経営層や管理職・経理部門の従業員の離職が続く場合は、自社の経営状況や資金繰りの悪化も考えられ、メインの取引先の倒産で連鎖倒産するリスクは高まります。

経営者は、日頃から社内アンケートや1on1ミーティングなどで従業員や経営層の声を聞き、必要に応じて自社の組織体制や職場環境を改善する意識を持って経営に臨みましょう。

連鎖倒産の3つの防止策

連鎖倒産に陥りやすい企業の4つの特徴を踏まえ、自社の問題を直視して改善するだけでは十分ではありません。

この章では、主に対外的な連鎖倒産の3つの防止策について説明します。特に、これから新規の取引を検討している企業は、参考にしてください。

早めに売掛金を回収する

最初に心がけるべきは、早めに売掛金回収を心がけることです。とはいえ、長引く不況で日本全体が低迷しているなか、協力的な企業は少ないかもしれません。

売掛金を全額回収できない取引先が複数存在する場合は、士業専門家への相談もおすすめです。専門家から内容証明郵便で請求してもらえば、大抵の企業は訴訟などの大事になる前に支払うでしょう。

また、これから新規取引を開始する際は、契約時に公証人による公正証書を作成しておくのも一案です。万が一、取引先から売掛金を回収できない場合は、この証書が法的な効力を発揮し、訴訟を提起せずに相手企業の資産から強制的に押収できます。

日頃から目的に応じて相談できる士業専門家にもネットワークを広げ、最寄りの公証役場など公的機関の所在地を確認しておくと、いざという時も安心です。

複数の取引先を持つ

複数の取引先を持つのも、連鎖倒産の防止策として大きな効果を期待できます。連鎖倒産の多くの事例では、少数の取引先への依存が原因です。

メインの取引先への依存度が高いほど、連鎖倒産のリスクは高まります。本来、企業が発展するためには、新規の販路開拓や販路拡大も重要です。

複数のサプライヤーとのヒアリングで価格や仕入条件を比較すれば、自社に最適な取引先を検討でき、自社商材の品質向上にも役立ちます。複数のサプライヤーを持つことで、リスクも分散できるでしょう。

また、グループ会社の場合は、サプライチェーンリスクで連鎖倒産する可能性があるため、リスクマネジメントが不可欠です。サプライチェーンBCP(事業継続計画)を策定し、連鎖倒産を回避しましょう。

売掛保証制度を活用する

連鎖倒産の防止策として、売掛保証制度の活用も検討すべきでしょう。売掛保証制度とは、売掛先や取引先が倒産した場合に、回収できなかった売掛金を保証会社が支払うサービスです。

一般に、掛取引の前に保証会社に申請すると、当該会社が取引先に関する与信審査をおこない、審査が通れば申請者の予算や目的に応じた保証内容で契約を締結します。

ただし、与信審査が通らなければ契約できず、回収不能のリスクが高いと評価された取引先に対しては料金が高額になるため、注意が必要です。

また、手数料は保証内容に応じて高くなる傾向があり、保証を開始するタイミングが企業によって異なることもあります。

連鎖倒産に陥らないよう、取引を開始する前に自社の与信管理とあわせて、各保証会社のサービス内容や料金を比較検討しておきましょう。

まとめ

昨今、日本で急増している連鎖倒産。長引く物価高騰もあり、いつ巻き込まれないとも限りません。

自社の職場環境や評価制度・資金繰りなどをチェックし、必要に応じて改善するのはもちろんですが、取引先についても見直しを図る必要があります。

特に、これから新規取引を開始させる場合は、経営者が自ら足を運んでサプライヤーから直に話を聞き、与信管理で徹底的に調査するとの姿勢が重要です。

今回ご紹介した防止策を参考に連鎖倒産を回避し、自社をさらに発展させていきましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。