2025.03.15
【コラム】人手不足倒産が急増!深刻化する人手不足の原因と対策を徹底解説
コロナ禍以後、日本社会では人件費の高騰などによる人手不足倒産が急増しています。
特に、いわゆる「2024年問題」に関わる業界では時間外労働の上限規制が適用され、黒字企業も油断できない状況です。
既に人手不足の企業は、その原因を突きとめ、改善できなければ将来的に倒産するリスクは高くなるでしょう。
今回は、そんな人手不足倒産が深刻化する原因と対策について詳しく解説します。
目次
人手不足倒産とは?
人手不足倒産とは、企業が自社事業を運営する際、諸処の事情で必要な人材を確保できずに経営難に陥り、事業継続を断念する倒産のことです。
東京商工リサーチによれば、2024年の人手不足倒産は前年比の81.7%増の289件で、2013年以降の最多件数でした。
特に小・零細企業が多く、産業別では建設・物流の2業種が全体の約5割を占めています。
なかでも建設業は、本格的にスタートした「2024年問題」で時間外労働に上限が設けられ、そもそも低賃金や残業の多い労働環境もあって離職率が高い傾向です。
物流業も、EC市場が拡大するなか、作業が非効率的でムダ・ムラ・ムリも多く、46件の高水準となりました。
これに次いで、介護・自動車整備・運送・警備・労働派遣・美容・飲食・ITなどの業種も、人手不足倒産の急増が深刻化しています。
人手不足の背景
倒産に陥りやすい業種や企業に限らず、最近の日本のビジネス社会は、全体的に人手が不足しています。
この章では、日本企業が人手不足に至った3つの背景について説明しましょう。
少子高齢化
まず1つ目は、少子高齢化現象の深刻化で、日本の人口は2020年頃より減少傾向です。
2023年に厚生労働省が公表した「将来推計人口」によれば、今から約45年後の2070年には15〜64歳の人口の割合が全体の約52%、65歳以上が約39%と予測されています。
また、15歳未満の人口は10%に満たなくなるため、今後、多くの企業で働き盛りの若い労働者の取り合いが想定される状況です。
人気の高い大手企業がその大半を確保するとすれば、中小企業は「残りの少ないパイ」をどう入手するか、さらに熾烈な争いを繰り広げるようになるでしょう。
働き方の多様化
次に働き方の多様化も、背景のひとつです。昨今の日本では、社会的に「多様化(ダイバーシティ)」を推進する風潮があります。
今や「夫婦共働き」は当たり前になりつつあり、少子高齢化を考慮すると、育児や介護などと両立して働ける環境がなければ日本社会は衰退するでしょう。
また、若い世代には正規雇用に囚われずフリーランスで働く方が多く、2005年には1,634万人だった非正規雇用者数も、2023年には約1.3倍の2,124万人に増加しています。
今後、人手不足倒産を回避するには、フリーランスなど非正規雇用者を上手に活用していく柔軟性が必要になるでしょう。
採用条件の変化
人手不足の背景には、採用条件の変化も関係しています。
厚生労働省が2026年1月に発表した一般職業紹介状況では、新規求人倍率は2.26倍でした。
この数値からもわかるように、現状では求人数が求職者を上回っています。
人手不足を解消するには、競合他社よりも求人条件をよくしなければなりません。
昨今は、育児中の働きやすさを示す「くるみん認定企業」や、従業員の健康管理・健康増進を推進する「健康経営認定企業」などが記載された募集要項をよく目にします。
給与・賞与面に加え、今後は、福利厚生などの付加価値を付けられるかどうかが人手不足解消のカギになるでしょう。
人手不足が深刻化する4つの原因
日本で人手不足が常態化している背景について、ご理解いただけたと思います。
この章では、そんな人手不足が深刻化する4つの原因を説明しましょう。
後継者が見つからない
1つ目の原因は、後継者が見つからないことです。
東京商工リサーチの調査によれば、後継者不足の割合は、2019年には55.61%だったのに対し、2024年には62.15%で右肩上がりに推移しています。
また、後継者不在率は、代表者の年齢が60代の企業で47.88%、70代の企業で31.64%、80歳以上の企業では23.96%で、突発的な倒産や債務不履行のリスクも含めて極めて深刻な状況です。
なかには、廃業を視野に入れた「積極的不在」もあるものの、代表者が高齢で親族や社内後継者が不在の企業は、早い段階でM&Aや事業譲渡なども検討すべきでしょう。
求人を出しても応募がない
求人を出しても応募がないのも、人手不足の原因のひとつです。
「ハローワークや求人サイトで募集しているのに人材を確保できない」という企業も多いのではないでしょうか。
今や日本の企業全体が人手不足で、就職は完全な「売り手市場」です。
先の人手不足倒産の多い業種はその傾向が特に強く、大手企業や人気の高い職種に求人が流れ、零細企業や小企業は求職者に求人を見つけてもらえません。
求人を出しても応募がなく、募集要項の掲載費や求人活動の人件費がコストになるという悪循環が、人手不足倒産のリスクをさらに高めているのです。
人件費が高騰している
人件費の高騰も、人手不足倒産の原因となっているようです。
少子高齢化社会に拍車がかかる日本では、戦後ベビーブーム期に生まれたいわゆる「団塊世代」の退職により、各業界で労働者自体の割合が減少しています。
厚生労働省は、そんな日本経済を発展させるために最低賃金法を改定し、2024年10月の引き上げ目安は、過去最高額の50円でした。
しかし、企業にとっては従業員1人あたりの人件費が高騰したことになり、人手を増やせないどころか、現在抱えている従業員の人件費も自社の経営を圧迫しているのです。
従業員に退職者が多い
従業員に退職者が多い企業は、人手不足が増加する傾向です。
定年退職のほか、労働環境や組織体制に課題がある従業員満足度の低い企業では、必要な人材の退職で倒産に至るケースも珍しくありません。
心理的安全性が低くて自分の意見を言えない、お互いの違いを尊重し協働する多様性を容認できないような職場環境では、従業員も働きづらいでしょう。
また、ハラスメントなど対人関係が悪い・残業や業務量が過度に多い・正当な評価制度がない企業も、従業員の退職率は高くなります。
人手不足を回避するための5つの対策
先の4つの原因のいずれかが該当する企業は、離職・退職に歯止めをかけなければなりません。
この章では、人手不足を回避する5つの対策について具体的に説明しましょう。
社内労働環境の改善
1つ目の対策は、社内労働環境の改善です。
退職者の多い企業では、従業員が愛社精神や働くモチベーションを維持しながら仕事に取り組めるよう、職場環境の見直しを図りましょう。
主な改善方法は、次の2つです。
見直す内容 | 実施例 |
1.勤務形態・福利厚生 | リモートワーク・フレックスタイム制の実施 |
ニーズの高い食・住宅に関連する福利厚生の導入 | |
Wワークの容認 | |
2.多様性を考慮した職場環境 | 男性の育児休暇・保育手当などワークライフバランスの充実化のサポート |
年齢や性別を問わない作業工程の拡大 | |
女性用のトイレや更衣室の充実 |
業界や規模にもよりますが、自社に必要ですぐに始められることから着手しましょう。
従業員のフォローアップ
従業員のフォローアップも、人手不足を回避するのに不可欠です。スキルアップを図れる環境であれば仕事がおもしろくなって、従業員の能力も自然に向上します。
新入社員だけでなく、2年目以降もより専門的で達成感のある業務に着手できるよう、研修やセミナーの実施を検討しましょう。
従業員が段階的にマネジメント・コーチングなどの知識を習得すれば、管理職や経営層としての活躍も期待でき、適切な後継者が見つかるかもしれません。
また、従業員の仕事を正当に評価する人事考課制度の導入も重要です。
評価基準を明確化して組織内に浸透させ、給与や賞与に反映させる仕組みを作ることで、従業員も目標や意欲を持ちやすくなります。
課題や問題のある従業員も、丁寧で細やかなフィードバックで苦手な業務や欠点を克服すれば自信につながり、組織全体の仕事の質も高まるでしょう。
採用活動の精度の向上
人手不足を解消するには、採用活動の精度の向上も重要です。入社後に思い描いていたイメージと実態とが乖離するミスマッチは、退職率も高まります。
求職対象の拡大や求人票・募集方法の見直しによって、新規採用も期待できるでしょう。
たとえば、ハローワークと転職エージェント・求人サイトとの併用や、求める人物像や社風がわかるよう募集要項を工夫すれば、採用時のミスマッチも回避できます。
業種や業務によっては、高齢者や女性・外国人を積極的に採用する意識も必要です。
このほか、昨今の情報社会では、自社HP・SNSでオフィス内の雰囲気や主な業務などを配信し、求職者にアピールするのも効果的です。
社内コミュニケーションの活性化
社内コミュニケーションの活性化も、間接的な人手不足の回避につながります。「仕事=コミュニケーション」はビジネスの基本です。
しかし、コロナ禍以降は、リモートワークやハイブリッドワークの継続もあり、コミュニケーション不足が課題となっています。
2024年にHR総研が実施した「社内コミュニケーション」に関するアンケートでも、経営層と従業員とのコミュニケーションに「課題がある」と回答した人は、大企業で46%、中堅企業で55%、中小企業で61%でした。
規模の小さい中堅・中小企業では、半数以上がコミュニケーション不足を実感しているのです。
昨今は、コンプライアンスやハラスメントなどの問題もありますが、意思の疎通がなければ、従業員も経営層の求める業務の遂行が難しくなります。
リモートでも活用できるコミュニケーションツールの導入や、月に一度のランチ会の実施など、自社に適した工夫を取り入れてみましょう。
業務の効率化
業務の効率化も、人手不足を回避する重要な要素です。これまで3人で担当していた業務を1人でできれば、人件費のコストも削減できます。
たとえば、勤怠管理だけでなく、人材を一元管理できるタレントマネジメントシステムの導入もおすすめです。
部署ごとに各従業員の育成状況や評価・実績・希望配属先などの情報を管理すれば、配属のミスマッチを回避し、離職・退職率も低減できるでしょう。
また、従業員の働くモチベーションや企業満足度も高まり、労働生産性の向上も期待できます。
IT化や設備投資をサポートする補助金・助成金制度を上手に活用しながら、自社業務の最適化を図りましょう。
まとめ
既に人手不足の企業は、これ以上の離職・退職を防止するための改善策を講じる必要があります。
今回ご紹介した5つの対策を参考に自社の課題を解決しなければ、将来的に人手不足倒産に陥るリスクは高くなるでしょう。
一方、後継者不在の企業は、経営者が将来の事業について早い段階で検討し、従業員やその家族を守らなければなりません。
必要に応じて専門家にも相談し、従業員が活躍・定着できる職場・組織作りを目指しましょう。

