2025.03.31

【コラム】後継者難倒産が過去最多!陥りやすい企業の特徴と解決するための施策とは?

日本のビジネス業界では、2024年に後継者難倒産が過去最多を更新しました。

このような状況は既に5年連続しており、特に建設業、サービス業や卸売業の中小・零細企業に多く見られます。

昨今の日本企業は全体的に人手不足で、倒産に陥る企業には共通する特徴もあるようです。

今回は、そんな後継者難倒産に陥りやすい企業の特徴と、解決するための3つの施策について解説します。

後継者難倒産とは?

後継者難倒産とは、企業の経営者の高齢化や死亡などで事業を継承する後継者が不在となり、今後の経営の見通しが立たずに倒産することです。

このほか、事業継承を進めようとしたにもかかわらず、準備不足や相手との意見の不一致などで最終的に倒産に至るケースもあります。

全体的には、業績不振で経営が悪化し倒産する企業が未だ大半を占めているものの、この5年間、後継者難倒産は毎年最多件数を更新し続けている状況です。

少子高齢化がますます進む日本では、今後さらに加速する可能性もあり、将来的に後継者難倒産の危機と対峙しなければならない企業は増えていくでしょう。

後継者難不足が深刻化する日本の現状

この章では、後継者難不足が深刻化している日本の現状について説明します。

東京商工リサーチの調査によれば、2025年1月の後継者難倒産は過去最多の45件、前年同月比で約60.7%の増加でした。

このうち代表者の死亡は、24件と過半数を超え、前年同月比で100%増加という驚くべき数値を叩き出しています。

ある程度は廃業による「積極的不在」が含まれているものの、調査を開始した2013年から10年以上が経過した今でも、毎年増え続けているのです。

特に業績の回復が遅い企業では、代表者が前面に出て交渉する場面も多く、事業継承の準備や適切な後継者の育成が後手に回ることも珍しくありません。

今後は、経営者の高齢化に付随するリスクを考慮し、各企業の状況に適した後継者難倒産を回避するための対策を早急に講じる必要があるでしょう。

後継者難倒産の4つの原因

この章では、企業が後継者難倒産に陥る4つの原因について詳しく説明します。

少子高齢化の加速

まず考えられるのは、少子高齢化の加速です。

日本では、2020年頃より人口が少しずつ減少しています。

実際、厚生労働省が2023年に公表した「将来推計人口」では、2020年の15〜64歳の人口は7,509万人でした。

しかし、今からおよそ45年後の2070年には、働き盛りであるこの年代は、4,535万人にまで人口が減少すると推定されているのです。

さらに、2020年には1,503万人だった0〜14歳の人口に至っては、約半数の797万人にまで減少すると推計されています。

日本の総人口も、この頃には9,000万人を割り込み、高齢化率は約39%となる見込みです。

ビジネスにおいては、人気の高い経営の安定している大手企業が働き盛りの若い労働者の大半を確保し、多くの中小・零細企業の間では、自社の存続を賭けて残りの労働者の激しい取り合いが予測されます。

事業承継の変化

事業承継の変化も、後継者難倒産の原因のひとつです。

日本では、これまで多くの中小企業で、子どもや兄妹などの親族が代々に渡って会社を引き継いできました。

しかし、かつて9割を占めていた親族内での事業継承は、最近ではおよそ35%にまで減少しています。

以前とは異なり、親族も、会社とともに負債や多額の税金を抱え込んでまで継承したくないというのが本音でしょう。

また、激化している競争社会で企業の存続を考えたとき、外部から優秀な人材を登用することの重要性を実感している経営者が増えてきたのも理由のようです。

にもかかわらず、このような時代の流れで変化した事業継承に対する価値観を受け入れられず、親族の事業承継にこだわって後継者難倒産に陥る企業も少なくありません。

準備期間の不足

後継者難倒産の原因には、準備期間の不足もあるようです。

経営者が自社の将来を決断する際は、主に3つの選択肢があります。

1.経営を継続する

2.任意整理で廃業する

3.他社に事業譲渡する

とはいえ、まずはどの選択肢が適切なのかを検討しなければなりません。

ようやく方針が決まっても、必要書類や手続きなどもあり、完了までにはそれなりの時間がかかります。

中小・零細企業では、準備する間も常態化している人手不足から営業や経理を兼務し、交渉ごとに自ら足を運んで対応している経営者も多いでしょう。

日々の業務に追われ、準備に手が回らず時間だけが流れると、やがては後継者難倒産に陥ります。

将来性への不安

将来性への不安も、後継者難倒産の原因のひとつです。

これまで自社を切り回して来たからこそ、今後の経営を任せてよいものかと考え込んでしまう経営者もいらっしゃるでしょう。

特に、人手不足が蔓延化し売上も伸び悩んでいる企業の場合は、厳しい状況下での経営の苦労を知っているだけに、なかなか後継者にバトンを渡せないかもしれません。

自社の将来性に不安を感じているがゆえに二の足を踏んで後継者を選定できず、最終的には倒産に至るケースです。

後継者難倒産に陥りやすい企業の3つの特徴

実は、後継者難倒産に陥りやすい企業には、先述の4つの原因にも関連する3つの特徴があります。

この章では、それらについて具体的に説明しましょう。

ワンマン経営が慣習化している

後継者難倒産に陥りやすい企業には、ワンマン経営が慣習化している傾向があります。

起業した場合はもちろん、親子代々にわたって事業継承している中小・零細企業では、経営者が経営方針を独断で決定することも多いようです。

また、数々の修羅場をくぐり抜けてきた代表者のなかには、取引先や金融機関と信頼関係を維持するため、大事な交渉ごとはすべて自ら足を運んでいる方もいらっしゃるでしょう。

このような企業の多くは、取引先や金融機関からの信頼が厚い反面、後継者が育たないというデメリットがあります。

事業を整理する場合は別ですが、今後も運営していくのであれば、早い段階で人材育成の環境を整え、このような経営体質を改善していくべきです。

多額の負債を抱えている

多額の負債を抱えている企業も、後継者難倒産のリスクが高くなります。

負債額が大きければ、せっかく後継者が決まっても当面の間、新しい経営者は負債の返済に追われることになるでしょう。

心身にかかる負担も大きく、状況によっては個人の資産で弁済しなければなりません。

このような状況では、新代表として事業運営を進めるにあたって、従業員をはじめとする取引先や金融機関と信頼関係を構築する時間も確保できなくなります。

後継者に引き継いでも従業員や取引先とうまく連携が取れず、資金繰りがさらに悪化するような事態になれば、倒産するのは時間の問題でしょう。

心当たりのある企業は、早急に自社の経営や財務状況を改善し、業績不振による倒産の回避を優先すべきです。

時代の変化に対応できない

時代の変化にも対応できない企業も、後継者難倒産に陥りやすくなります。

老舗企業は特に、これまでのノウハウや社風・企業文化があってこそ、今でも顧客や取引先との信頼関係を築けていると考えるものです。

実際、受け継がれて来たものには維持すべき要素も多く、それらがブランディングとなっている企業も珍しくありません。

しかし、そこにムダ・ムラ・ムリが含まれる場合は、AIやDX化などで業務全体の時間効率を高める必要があるでしょう。

たとえば、勤怠管理や人材配置・メンタルヘルスチェック・給与計算などのシステムの導入やリモートワークの活用は、人件費のコスト削減にもつながります。

後継者に自社の今後を託すならなおさら、時代に即したツールやワークスタイルの導入が不可欠です。

後継者難倒産を解決するための3つの施策

ここまでは、後継者難倒産の主な原因や陥りやすい企業の特徴を説明しました。

この章では、そんな後継者難倒産の解決につながる3つの施策について紹介しましょう。

経営状況の可視化と事業計画の検討

最初に取り組むべきは、自社の経営状況の可視化と将来を見据えた事業計画の検討です。

業種や規模によっては、重要事項の決定や方針をすべて代表者が担っている中小・零細企業も多いと思います。

これは決して悪いことではありませんが、このような企業の多くは経営状況を俯瞰することが難しく、現状を正確に把握できていません。

そこで、士業専門家やコンサルティング会社などに相談し、第三者の立場から不透明になりがちな経営状況を可視化してもらって、今後の事業計画を検討しましょう。

自社の将来的なビジョンを明確化すれば、どんな後継者を選ぶべきかを具体的にイメージしやすくなります。

状況の全貌を明らかにしたうえで従業員と内容を共有し、課題があればPDCAサイクルを活用して自社の経営や財務状況を改善していきましょう。

早い段階での後継者の選定と育成

早い段階で後継者を選定し育成するのも、有効な施策のひとつといえます。

後継者に関する問題は、日々の業務と直結するものではないため、後回しにしてしまう経営者も多いようです。

しかし、病気や事故は突発的に起こるものであり、本人が「あと数年は働ける」と思っていてもある日突然、引退せざるを得ない状況になるかもしれません。

また、これまでの軌跡を振り返れば、数多くの関門をくぐり抜けたからこそ「今」があり、人間は一両日中に育つものでないことを肝に銘じておくべきでしょう。

いくら後継者が優秀でも、実務経験で場数を踏み、ノウハウを自分のなかに落とし込むまでにはそれなりの時間が必要です。

後継者が決まったら積極的に現場に同行させて関係者にも紹介し、事前に計画を立てて段階的に業務を引き継ぐなど、無理のない後継者の育成を心がけましょう。

事業承継によるM&A

自社に後継者が不在の場合は、事業承継によるM&Aも検討すべき施策のひとつです。

とはいえ、どのような相手とどう取引をするかの選択や決断は、簡単にはできません。

まずは、買い手に提示する条件として次の6項目について十分吟味しましょう。

1.譲渡対価

2.タイミング

3.今後の役員

4.従業員の待遇

5.自社商材の引継ぎ方法

6.経営者の今後の条件

方針が固まった後は、次の8つのフローに沿って手続きするのが一般的です。

1.M&Aの専門業者の選定・契約

2.交渉相手の選定

3.秘密保持契約の締結

4.ノンネームシートによる情報開示

5.トップ面談

6.基本合意の締結

7.デューディリジェンス

8.最終契約

後継者が見つからなくても、M&Aを活用すれば「業績のよい事業分野を譲渡したい」「従業員の将来を他社に任せたい」などの目的で自社の事業を承継できます。

検討する際は、条件や相手との交渉の進め方を含め、早めに専門家にも相談しましょう。

まとめ

ビジネスに限らず、日本社会は少子高齢化の一途をたどり、人口もさらに減少していきます。

このようななか、今回ご紹介した特徴に該当する企業は、後継者難倒産に至るリスクが高いため、注意が必要です。

今後、企業が発展を続けるには、早い段階で自社の展望について考察し、後継者の選定や事業承継の可否を検討すべきでしょう。

必要に応じて専門家にも相談し、後継者選びを含め自社に最適な方法を選択しましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。