2025.06.15
【コラム】事業承継対策を成功させるポイントとは?必要性や手順も詳しく解説
少子高齢化社会の進む日本では、働く人口も減少しています。企業の後継者不足という課題は、ますます深刻化していくでしょう。
企業にとって適切な事業承継対策は、今後の存続を大きく左右する急務な課題といっても過言ではありません。
今回は、事業承継対策を成功させるポイントや手順について詳しく解説します。
目次
1:事業承継とは?
事業承継とは、企業の経営者が理念や経営権・資産・負債を含め、自社の全てを次の後継者に引き継ぐことです。
2023年に実施された中小企業庁の調査によれば、日本では後継者が決まっていないことを理由に廃業する企業は増加傾向にあります。
1-1:事業承継の現状
対策の前に、廃業する企業が増えている日本の事業承継の現状について説明しましょう。
中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によると、2025年までに平均引退年齢の70歳を迎える中小企業の経営者は約245万人です。
さらに、その約半数の127万人は後継者が未定で、日本企業全体の約3分の1を占めています。このような現状を放置すれば、将来的に約65万人が失業するとの予測もあるほど厳しい状況です。
2:事業承継対策の必要性
先の現状を踏まえたうえで、事業承継対策の3つの必要性を説明します。
2-1:企業の存続
最も重大なのは、企業の存続です。事業承継では、単に経営者が代替わりするだけでなく、自社の資産や経営のノウハウ・スキルなども引き継がなければなりません。
特に、親族や従業員への事業承継では、場数を踏んでキャリアを積む必要があり、経営者として自立するまでにある程度の時間を要します。
自社を存続させる場合は、早い段階から後継者の育成を綿密に計画すべきでしょう。
2-2:税金問題の解決
事業承継対策によって、税金問題が解決するケースもあります。納税額は、株式の評価額で決定されるため、事業承継時に資産を売却して納税する企業も多くあります。
しかし、会社分割や合併などM&Aを選択する場合は、税制適格要件を満たせば課税対象になりません。理由は、税務上、帳簿価格で資産や負債を引き継ぐよう処理されるためです。
この税制適格要件は、次の3つの対象によって異なります。
1.企業の100%グループ内
2.企業の50%以上100%未満のグループ
3.ほかの企業との共同事業による再編
状況次第で節税対策にはなるものの、税制上の優遇措置を受けられるかどうかの微妙な判断は難しいものです。必要に応じて、専門家にも相談しましょう。
2-3:相続トラブルの回避
相続トラブルを回避する意味でも、事業承継対策は重要です。特に、複数の相続人が存在する場合は、自社の株式が分散されるリスクがあります。
現在の経営者が、不慮の事故や病気などで死亡しないとも限りません。経営権や自社の運営などに大きく影響する可能性もあるため、注意が必要です。
その点、事前に事業承継対策を講じておけば、相続のトラブルを回避できます。ちなみに、2009年の税制改正で設立された「事業承継税制」は、2018年の改正で特例措置が設けられました。
2026年3月31日までは、特例承継計画を提出すれば、自社株の贈与税や相続税を負担する必要はありません。また、一定の要件を満たしている場合は、猶予税額も免除になります。
事業承継税制は、最大3人までの後継者が対象です。親族外にも適用されるため、活用の仕方次第で相続上の煩わしいトラブルを回避できるでしょう。
3:事業承継対策を成功させる7つのポイント
この章では、事業承継対策を成功させる7つのポイントについて説明します。
3-1:早い段階で計画する
最も大事なポイントは、早い段階で計画することです。なかには、経営者が自ら経理や営業などの業務を兼任している企業も多いでしょう。
しかし、日々の業務に忙殺されて事業承継対策を放置しておくと、後手による準備不足で手続きをスムーズに進めることが難しくなります。
少なくとも5〜10年程度の余裕をもって長期的な展望を思い描き、専門家にも相談しながら進められることから随時着手していきましょう。
なお、進捗を含めて定期的に計画を見直し、状況に応じて計画を修正していく姿勢も大切です。
3-2:強い財務状態を作るため会社を磨く
強い財務状態を作るために会社を磨くのも、事業承継対策を成功させるポイントのひとつです。
後任者が経営をスムーズに引き継げるよう、現在の自社の財務状況を的確に把握しておく必要があります。
財務的な課題を全て洗い出して改善できれば、組織としての強い財務体制が企業価値をさらに高めてくれるでしょう。M&Aなどの手法を活用する場合は、売却価格の上昇も期待できます。
3-3:適切な後継者を選定する
適切な後継者の選定も、大切なポイントです。事業承継対策には、主に3つの方法があります。
| 1.親族 | |
| メリット | デメリット |
| ①相続税の節税対策になる | ①経営能力を欠く場合がある |
| ②経営理念を継承できる | ②相続トラブルの原因となる可能性がある |
| 2.従業員などの親族外 | |
| メリット | デメリット |
| ①社内の信頼関係を構築しやすい | ①経営方針が現在の経営者と異なる場合がある |
| ②既存のビジネスモデルを継続すれば経営も安定する | ②社内で権力闘争が発生するリスクがある |
| 3.M&A | |
| メリット | デメリット |
| ①経営を多角化し市場を拡大する | ①企業の価値観や文化が対立する可能性がある |
| ②これまでになかった新しい技術や資源を獲得できる | ②統合の際にコストがかかる |
| ③統合後の管理が難しい |
それぞれのメリット・デメリットを総合的に勘案したうえで、自社に最適な方法を選択しましょう。
3-4:自社株式の承継を検討する
自社株式の承継も検討する必要があります。早い段階であれば、暦年贈与もよいでしょう。
また、次の3つの手法で一時的に株価を下げ、贈与・相続時の税負担を軽減するのも効果的です。
1.懇意にしている株主への自社株の移動
2.従業員の持株会の設立
3.役員の退職慰労金の給付
M&Aを選択する場合は、株式の集約も視野に入れておく必要があります。理由は、株主の反対や不明株の存在などが複雑化し、譲渡しづらい状況に陥るリスクがあるためです。
自社の経営を滞りなく継続するためにも、早いうちに自社株式の承継方法を検討しましょう。
3-5:遺産相続の対策を図る
事業承継だけでなく、遺産相続の対策を図るのも重要です。
事業承継による相続では、金額が大きくなるほど税率が高くなる「累進課税制度」が適用されます。従って、税負担を軽減するためには、相続する財産額を減らさなければなりません。
中小企業では、事業承継が相続と一体不可分であることも多く、トラブルの原因になりやすいのも事実です。
そこで、公正証書の遺言書を作成しておくと、相続後の揉め事を回避できます。必要に応じて、弁護士や税理士などの専門家にも相談しましょう。
3-6:納税対策の準備を進める
事業承継対策を成功させるには、納税対策の準備も進めておく必要があります。
毎年、税金がかからない額を贈与する暦年贈与や特例の「相続時精算課税制度」などを活用し、生前贈与するのもひとつの方法です。
このほか、贈与税や相続税を軽減できる「事業承継税制」についても検討しましょう。
3-7:専門家に相談する
専門家に相談すれば、事業承継対策が成功する可能性も高くなります。というのは、具体的な対策には、税務・法務・会計など複数の専門的な知識を要するからです。
そこで、5つの主な相談先と特徴を紹介します。
1.事業承継・引継ぎ支援センター(全国)
・全国47都道府県に所在する公的な支援機関
・地域密着型で地域の商工会議所や金融機関と連携しながら、中小企業に必要な事業承継のあらゆる相談に無料で対応している
2.弁護士・税理士・会計士(法務・税務・財務)
・顧問契約を締結している場合は、自社の経営・運営状況を総合的に勘案した具体的なアドバイスを受けられる
3.金融機関(資金・資金調達)
・相談窓口を設置している機関もあり、資金融資やM&Aの資金調達の支援サービスも提供している
4.商工会議所(地域特有の課題)
・後継者を育成する研修プログラムなどがある
・法務・税務など各分野に精通した専門家と連携したサポートを受けられる
5.後継者育成支援(支援・教育機関)
・中小企業庁主催の「アトツギ甲子園」:他部門へのネットワークの拡大を目的とし、全国の後継者が自社の強みを活かした新規アイデアを競うイベントを開催している
・中小企業基盤整備機構運営の「中小企業大学校」:中小企業の幹部候補生を育成する目的で、財務・経営に関する研修会を開催している
中小企業の経営者にとって、通常業務と後継者育成との両立は簡単ではありません。信頼できる専門家に相談し、自社に適した事業承継対策を検討しましょう。
4:事業承継対策の手順
この章では、事業承継対策を実際に講じる際の3つの手順について説明します。
4-1:情報の収集
まず、次の6つの項目に沿って自社の状況を確認しましょう。
1.社内従業員の後継者候補(親族の従業員を含め、後継者としての器や手腕の有無)
2.自社の全ての無形・有形資産(建物・土地・キャッシュ・特許・商標・著作権など)
3.自社・経営者の負債(経営者保証を含む)
4.将来的な収益性の見込み
5.取引先・株主の詳細
6.経営課題の有無(人材不足・売上・利益の減少など)
自社に経営課題がある場合は、事業承継前に改善したほうが手続きを円滑に進められます。
4-2:後継者の選定
次に、後継者を選定しましょう。先述の通り、事業承継は親族・従業員などの親族外・他企業(M&A)の3種類です。
親族に意欲がないと、事業承継はスムーズに進みません。また、従業員に引き継ぐ場合は、親族の理解が前提条件です。M&Aを選択すれば、自社の社風や理念までを引き継ぐのは難しいかもしれません。
経営課題や自社の資産・将来的なビジョンなどを総合的に勘案し、必要に応じて専門家にも相談しましょう。
4-3:事業承継計画の策定
最後に、実際に事業承継計画を策定します。特に、親族または従業員への事業承継は、早い段階から詳細な計画を立てておきましょう。
また、事業承継は、現経営者と後継者との二人三脚ですから、お互いへの信頼を深めるためにも事前に話し合いの機会も持つべきです。
なお、独立行政法人中小企業基盤整備機構や日本政策金融公庫などの各公的機関では、事業承継計画書のひな形を公開しています。
計画表や計画分析表なども活用しながら、収集した情報を基に計画を策定しましょう。
まとめ
少子高齢化の日本社会で中小企業が存続するためには、事業承継対策は不可欠です。日々の業務に追われて後回しにすると、将来的に多くの従業員が路頭に迷うことになるでしょう。
事業承継を進める際は、自社の経営状況や今後のビジョンを考慮に入れながら、最適な後継者を選定する必要があります。
専門家とも相談しながら、後継者に代替わりしても自社の経営がスムーズに運ぶよう事業承継対策を早いうちに検討しましょう。



