2025.07.31

【コラム】資金ショートとは?すぐにできる7つの対策と考えられる原因を解説

資金ショートは企業経営の危険信号であり、倒産のリスクが高まります。これを回避するには、経営者が自社の現状を把握し、事前に対策を講じる必要があるでしょう。

今回は、そんな資金ショートに陥る主な原因や、すぐにできる7つの効果的な対策について詳しく解説します。

1:資金ショートとは

そもそも資金ショートとは、企業経営で取引先などに支払う手元の現金が不足している状態のことです。

資金繰りの収支のバランスが崩れ、現金の手持ちがなくなれば、直近で必要な光熱費や商品の仕入れ費・設備投資の費用など社外の支払ができなくなります。

1-1:黒字でも資金ショートに陥る

黒字でも、資金ショートに陥る可能性があります。理由は、日本の多くの中小企業では、商材を提供してから入金までにタイムラグが発生するからです。

特に、運送業・建設業などの業界ではタイムラグの間隔が長く、売上の約2〜3ヶ月後に入金されるケースも珍しくありません。

商取引から代金を受け取るまでのサイクルがうまく噛み合っていなければ、たとえ利益が出ていても手元に支払うための現金がなくなり、資金ショートに陥ります。

2:資金ショートに陥る主な原因

この章では、資金ショートに陥る主な5つの原因について解説しましょう。

2-1:不十分な資金繰りの管理

まず考えられるのは、不十分な資金繰りの管理です。中小企業では、経営者が経理や営業を兼務し、現場と掛け合うことも多いと思います。そんな日々の業務に忙殺されていると、つい資金繰りの管理を後回しにしてしまうものです。

しかし、会計上で利益があると安心し、自社の資金繰りの悪化を看過するケースも多く見られます。入金より出金が早ければ資金ショートに陥る可能性があるため、注意が必要です。

2-2:急激な売上の減少

急激な売上の減少も、資金ショートに陥る原因のひとつです。自社商材の売上が減少すれば、予定していた入金がなくなるわけですから、支払いで窮地に立たされます。

メイン商材の売上が減少している場合は、根本的な原因を追究しない限り、事態は好転しません。

たとえば、SNSの拡散・口コミによる商材や企業の評判の急落、不祥事・不正の発覚などがあると、一般消費者から敬遠されるでしょう。

また、商材の販促ルートに関わる企業や販売先の倒産、競合他社による類似商材の急激な売上の上昇なども考えられます。

自社に思い当たる節がない場合は、市場や競合他社の販売状況をリサーチし、原因を突き止めて早めに対策を講じましょう。

2-3:予定外の多額の出費

予定外の多額の出費も、考えられる原因のひとつです。急に入った大量受注に対応するための先行投資なども、これに該当します。

このほか、何らかのトラブルで設備機器の故障や商品のリコールがあった場合の訴訟費用・損害賠償金の支払いなどに資金を回せば、一時的に出費もかさむでしょう。

昨今は、2025年問題などもあって、企業の倒産件数は右肩上がりです。毎月ギリギリの運転資金で経営を切り回しているようでは、不測の事態に対応できません。自己資金にある程度の余裕を持たせておくのは、企業経営の鉄則です。

2-4:売掛金の回収遅延

売掛金の回収遅延も、資金ショートの原因になります。特に、建設業は時間外労働の上限規制や自然災害の影響で、工事が遅延するケースも珍しくありません。

ただでさえ売掛金の入金に時間がかかるうえ、完成が遅れればさらに後ろ倒しになり、資金ショートのリスクも高まります。

万が一、取引先が倒産した場合は売掛金を回収できなくなるため、「連鎖倒産」のリスクも考慮しなければなりません。取引を開始する際は、自社が巻き込まれないよう入念な与信管理が不可欠です。

2-5:想定外の自然災害

昨今は、想定外の自然災害が原因となるケースも増えています。実際、2025年は7月に早くもセミの鳴き声が響き、全国680箇所で真夏日となったことは記憶に新しいでしょう。

今後も地震はもちろん、猛暑や台風・豪雨・寒波・干ばつなどの異常気象が、多くの業種や企業に影響を及ぼす可能性があります。

冷暖房の長時間使用による光熱費コストに加え、たとえば、次のような被害も想定しておかなければなりません。

業界自然災害で考えられる影響
農業・食品業界農産物の収穫量の激減による品薄や物流の遅延
製造業浸水・停電などによる工場の稼働停止、被災地からの原材料供給の中断
小売業納品遅延など供給の不安定化、悪天候による来店客の減少
観光・レジャー業悪天候によるキャンセルの続出、山間部などの施設破損による修繕費の増大、エネルギーコストの増加
建設業現場作業の中断、資材の不足・価格高騰、労災リスクの増大
物流・運輸業輸送ルートの機能停止、冷凍物流のコスト上昇、納期遅延による取引の損失
エネルギー業界(ガス・電力)豪雨や猛暑の高温による設備トラブル、冷暖房の電力需要の急増、仕入れコストの増大
不動産業工事遅延、建材不足、豪雨・浸水リスクによる資産価値の下落、修繕費・保険費用の増加

これらの被害で入金の遅延や賠償金の支払い・利益率の減少があれば、キャッシュフローや資金繰りが悪化し、資金ショートに陥る可能性は高くなります。

3:資金ショートに陥る前にすぐにできる7つの対策

前章のように、自社商材や経営だけが資金ショートの原因になるとは限りません。この章では、そんな資金ショートに陥る前にすぐにできる7つの対策について説明します。

3-1:自社の資金繰り状況を確認する

まずは、自社の資金繰り状況を確認しましょう。売掛金の回転サイクルと経費の支払い時期を把握すれば、将来的な支出を予測できます。

一般的には月ごとで確認しますが、業界や規模によっては日単位のほうが正確に資金の流れをつかめるでしょう。

経常収支・経常外収支・財務収支の3区分で経費・設備投資など本業以外の収支や借入金の返済・新たな資金調達の状況をチェックし、今後の自社資金の動きを事前に予測しておくと安心です。

3-2:資金調達のために融資を受ける

資金調達のために融資を受けることも、検討すべきでしょう。

既に借入がある場合には、新たに融資を受けられないと思っていらっしゃるかもしれません。しかし、一度受けた融資を順調に一定額まで返済していれば、再度その額を借り入れる「折り返し融資」もひとつの方法です。

また、資金不足の原因とその改善策、無理なく確実に返済できる支払計画を提示すれば、新たに資金を調達できる可能性もあります。

ただし、融資には必ず審査があり、無事に通過しても入金までに2週間〜1ヶ月程度の時間がかかります。資金ショートが起きてからでは間に合わないことを肝に銘じておきましょう。

3-3:自社の資産を売却する

自社の資産を売却するのも一案です。企業の現金以外の資産としては、以下のものが該当します。

1.不動産
2.車両
3.機械設備
4.知的財産権(特許・商標・著作権など)
5.有価証券(株式・投資信託など)
6.賃借権(テナント入居権など)

休眠不動産は、保有しているだけで固有資産税や管理費がかかります。売却できれば、ある程度まとまった額の運転資金になるでしょう。

昨今は、売却後も賃貸として利用できるリースバックもありますが、借入の担保が設定されている場合は、売却前に解除が必要です。

また、有価証券はすぐに現金化しやすい反面、関連会社の株式などの売却で業績が悪化するリスクもあります。

いずれにしても、売却するためには買い手を見つけなければなりません。対策としては有効ですが、ある程度の時間がかかると考えておいたほうがよいでしょう。

3-4:支払サイクルを見直す

支払いサイクルも見直すべきです。取引先と懇意の場合は、売掛金の回収後に支払日を設定できないか交渉してみましょう。

特に、売上金の入金が翌々月の月初になる場合は、翌月末の支払いで多額の資産が流出することになります。

支払いサイクルを入金後に変更できれば、資金ショートを回避できるでしょう。また、取引先への支払いと重複しないよう、税金や公共料金など公的な支払いの延長を各窓口に相談するのもひとつの方法です。

ただし、取引先との交渉は、状況次第で信頼の失墜や取引中止のリスクもあります。交渉する際は、支払う意思が伝わるよう事前に綿密で具体的な支払計画を策定しましょう。

3-5:徹底的にコストを削減する

徹底的なコストの削減も効果的です。コストには、人件費・経費・オフィスの3種類あります。

このうち特に大きなウエイトを占めているのは人件費ですが、金額を減らすというよりは、従業員満足度の向上によって労働生産性を高め、コストを下げることがポイントです。

リモートワークやフレックスタイムなど、ワークスタイルの多様化やアウトソーシングの導入は、介護や育児と両立しやすくコア業務に集中できるため、従業員満足度も高まるでしょう。

ワークスタイルは、工夫次第でオフィスの縮小や光熱費の削減にもつながります。また、非正規雇用者を活用すれば、賞与・退職金にかかるコストも抑制できるでしょう。自社の課題を洗い出し、コストの削減とともに業務改善を実践しようとする姿勢が必要です。

3-6:在庫管理を徹底する

在庫管理も徹底しましょう。本来、在庫は売上に直結するもので、けっしてムダなものではありません。

しかし、消費期限のある食品類や季節を選ぶ商品・時の経過で劣化する商材を過剰に抱えていれば、利益を出すどころかムダなコストになってしまいます。

特に、昨今は変化が著しく、流行のサイクルも短い傾向です。正規で販売するより利益率が低くても、定期的なセールを実施し在庫の回転率を高めていきましょう。

3-7:ファクタリングサービスを利用する

ファクタリングサービスとは、支払期日より前に企業の未回収の売掛金を業者に売却し、現金化することです。

このファクタリングには、資金調達を目的とする買取型と未回収リスクの保険を目的とする保証型の2種類あります。

このうち買取型は、金融機関の資金調達にくらべて速やかに現金化でき、2社間契約の場合は取引先を交えずに手続きでき、最短で当日中の資金調達も可能です。

以前はいくつかの制約があった債権譲渡も、2017年・2020年の民法改正によって安全度・自由度がより高くなりました。海外では既に広く浸透しており、今後、日本国内でもさらに普及するでしょう。

ちなみに、買取型には売掛先の承諾を得る3社間契約もありますが、手続きに時間がかかります。手数料は安くなりますが、資金ショートの回避には適していません。

なかには悪徳業者も存在しますので、利用する際は手数料や実績を比較検討したうえで取引を進めましょう。

まとめ

ここ数年は、異常気象による自然災害も多く長引く物価高騰もあって、日本経済は非常に不安定な状況です。黒字の企業が、いつ資金ショートに陥っても不思議ではありません。

これを回避するには、資金繰りの状況確認や回収サイクルの正確な把握・過剰在庫の処分・コスト削減など、今回ご紹介した対策を早い段階で講じる必要があります。

ファクタリングサービスを含めた資金調達も視野に入れつつ資金ショートを回避し、自社の経営を安定させていきましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。