2025.08.31

【コラム】キャッシュフロー経営とは?重視すべき理由やメリット・デメリットを解説

2024年の帝国データバンクの調査によれば、日本全国で廃業・休業・解散した企業は、2016年以降の過去最多を更新しました。そのうち51.1%は、直近損益で黒字の企業です。

このような黒字倒産を回避するうえで、キャッシュフロー経営は非常に重要です。変化の著しい現代社会では、現金を上手に管理できるかどうかが企業経営の明暗を分けるといっても過言ではありません。

そこで今回は、そんなキャッシュフロー経営の重要性やメリット・デメリットについて詳しく解説します。

1.キャッシュフローとは

そもそも、キャッシュフローとは「現金(キャッシュ)」と「流れ(フロー)」とを結合した用語からも分かる通り、「お金の流れ」のことです。ビジネス上では、入金はキャッシュ・イン・フロー、出金はキャッシュ・アウト・フローと呼ばれています。

この現金のインとアウトを一定のルールに沿って算出したものが、キャッシュフロー計算書です。賃借対照表・損益計算書とともに「財務三表」と呼ばれ、上場企業では法的に作成が義務付けられています。

企業間の取引では、取引先の締日との関係で、リアルタイムの現金の流れと帳簿上の数字に時差が生じることも珍しくありません。

キャッシュフローは、このような「帳簿上で売上があっても手元に現金のない状態」を予測し、回避するためのものです。

1-1.キャッシュフロー経営と従来の経営との違い

キャッシュフロー経営は、入金と支出のタイミングから自社資金の増加を図ります。いわば、自社の資金を最優先する経営ともいえるでしょう。

一方、従来の経営は、損益計算書の売上または利益を重視する手法です。売上の発生を基準にすれば、商材を販売した時点で収益を計上しますが、実際の売上と入金にはタイムラグが発生します。

また、利益を追求する経営では、仕入れ単価を下げる目的で商材を大量に仕入れることも多く、万が一、売れ残った在庫を抱えても損益計算書には反映されません。つまり、従来の経営では、入金や損益計算書とのズレを看過する可能性があるのです。

その点、キャッシュフロー経営は、手元の資金の残高を把握し計画的に経営戦略を立てれば、資金ショートで黒字倒産に陥るリスクを回避できます。

1-2.キャッシュフロー経営を重視すべき理由

キャッシュフロー経営を重視すべき理由は、日本のビジネス社会における不確実性にあります。

昨今は、自然災害や不安定な海外情勢・長引く物価高騰による消費行動など変化もめまぐるしく、安定経営の企業がある日突然、倒産してもおかしくありません。

だからこそ、キャッシュフロー経営で手元の現金を適切に管理し、不測の事態に備える必要があるのです。

また、企業の将来を示すキャッシュフロー計算書の数値は、金融機関による企業の評価や経営に関わる投資家の判断においても重要な指標といえます。

1-3.キャッシュフローを管理するには

この章では、キャッシュフローの管理方法について説明しましょう。

1-3-1.3つの活動区分に分ける

キャッシュフローは、3つの区分「営業・財務・投資」に分けると管理しやすくなります。

各区分の定義と入金・出金例は、次の通りです。

1.営業キャッシュフロー:本業の営業活動
入金:現金回収した商品の販売代金・保険金の受け取り・受取利息・減価償却費
出金:給与・仕入代金・テナント料・光熱費・法人税の支払い

2.財務キャッシュフロー:営業活動・投資活動を維持するための現金調達・返済
入金:借入・社債の発行
出金:借入金・配当金の返済

3.投資キャッシュフロー:投資活動による現金の動向
入金:固定資産・設備の売却
出金:営業活動に必要な設備・車両・建物等の購入

ちなみに、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローは「フリーキャッシュフロー(純現金収支)」と呼ばれ、資産の売却などで一時的な入金があっても、経営の安定にはつながりません。

また、資金不足で借入金を利用すれば、財務キャッシュフローでは一時的にキャッシュが増えるものの、返済能力を超えていれば経営が悪化します。経営を安定させるためには、借入金の増減の定期的な確認が不可欠です。

2.キャッシュフロー経営が必要な企業

この章では、特にキャッシュフロー経営が必要な4つの企業を紹介します。

2-1.資金繰りが悪化している企業

資金繰りが悪化している企業は、キャッシュフロー経営を実践すべきです。たとえば、季節で商材の売れ行きに浮き沈みのある企業などが、これに該当します。

長期的に資金繰りが悪化すれば、金融機関や投資家からの信頼を失い、資金調達や新たな借入もできず、資金繰りはさらに悪化するでしょう。

このような企業は、キャッシュフロー経営で現金の流れを正確に把握し、翌月の支払いに最低限必要な資金を手元に残しておくと安心です。

2-2.資金を手元に確保しづらい企業

資金を手元に確保しづらい企業も、キャッシュフロー経営を検討しましょう。特に、建設業や輸送業は、サービス提供後の入金が2〜3ヶ月先になるケースも珍しくありません。

さらに、売掛金の回収に時間がかかる場合は、売上で利益が出ているにもかかわらず、手元の現金が枯渇する資金ショートに陥るリスクが高くなります。

キャッシュフロー経営を実践すれば、売掛金の回収が恒常的に遅い取引先や「資金の谷」などの課題を可視化し、事前に対策を立てることができるでしょう。

2-3.創業期またはスタートアップ企業

創業期またはスタートアップして間もない企業も、キャッシュフロー経営をおすすめします。

理由は、これらの企業は、経営が軌道に乗るまでにある程度の時間がかかり、一時的に多額の出費を強いられる場面も想定されるからです。

キャッシュフロー経営で、起業当初からどのタイミングにどんな出金があるかを把握できれば、経営も早く安定するでしょう。

2-4.仕入れや設備投資の額が大きい企業

仕入れや設備投資の額が大きい企業にも、キャッシュフロー経営が適しています。

仕入れの増加や設備投資で売上・事業拡大を図る際は、収益に反映されるまでにある程度の時間がかかります。

特に、工業系の業種は、1つの設備が高額になるケースも少なくありません。購入時期のタイミングが給与やテナント料など通常の支払と重なれば、一時的に資金ショートに陥る可能性が高くなります。

キャッシュフロー経営によってリスクを最小限に抑え、確実にリターンを得られる仕組みづくりを心がけましょう。

3.キャッシュフロー経営のメリット

この章では、キャッシュフロー経営を導入する3つのメリットについて説明します。

3-1.資金繰りが安定する

キャッシュフロー経営を導入すれば、資金繰りが安定するでしょう。

資金繰りとは、日々の自社の入出金を実務的に「現金が不足しないようにする」管理活動を指します。一方、キャッシュフロー経営は、資金繰りの管理活動をベースに将来の現金の動きを予測し、経営戦略や施策の判断に活用する経営手法です。

このキャッシュフロー経営の中長期的な視点があれば、日常的な現金管理の「守りの要」である資金繰りも安定し、手元の現金が枯渇する資金ショートを未然に回避できます。

3-2.経営戦略を立てやすい

経営戦略を立てやすいのも、キャッシュフロー経営のメリットのひとつです。

現金の流れを的確に把握できれば、金融機関からの借入状況や事業の動向、自己資産の課題も明らかになります。

また、キャッシュフロー経営で手元の資金を把握できるため、将来的な事業拡大や設備投資・人材の確保のタイミングや投入額を柔軟に決定し、複数のシナリオから経営戦略を策定しやすくなるでしょう。

ただし、将来的な戦略を選ぶ際は、自社がどれほどのリスクを背負うのか、財務キャッシュフローをきちんと管理し事前にシミュレーションしておくことが前提です。

3-3.企業価値が向上する

キャッシュフロー経営によって、企業価値の向上も期待できます。

実際、キャッシュフロー経営は、事業拡大などの資金調達でも「資金計画を持つ管理能力の高い企業」という好印象を与え、融資額や取引条件が有利になるケースも多いようです。

資金調達を通じた株主還元の充実や持続可能な自社の成長を実現できれば、その相乗効果で自己資本比率も向上し、経営のよい循環をもたらします。

キャッシュフローの手堅い経営によって、金融機関だけでなく株主や投資家との信頼関係を構築でき、自社の企業価値はさらに高まるでしょう。

4.キャッシュフロー経営のデメリット

この章では、キャッシュフロー経営の2つのデメリットについて解説します。

4-1.収益の機会損失につながるリスクがある

キャッシュフロー経営のデメリットのひとつとして、収益の機会損失につながるリスクがあります。

自己資金に見合ったキャッシュフロー経営は、安定する反面、自己資本率の逆数であり借入で自己資本以上の資金を調達する「財務レバレッジ」に比べると、企業の成長するチャンスを逃す懸念があるのも事実です。

キャッシュフロー経営では、積極的な投資よりも現金の確保が優先されます。従って、自己資金の少ない小規模な企業が、資金調達で飛躍的な売上を狙うようなハイリターンは難しいでしょう。

また、事業拡大のスピードが遅くなるため、競合他社に先を越されるケースも考えられます。

キャッシュフロー経営を導入する際は、投資・成長戦略をうまく取り入れ、攻めの投資判断ツールとしての活用も検討しましょう。

4.2.経理部門の業務の負担が増える

経理部門の業務の負担が増えるのも、キャッシュフロー経営のデメリットのひとつです。

キャッシュフロー経営を導入すれば、それに付随して、日々の現金管理や無理のない資金計画の策定に関わる業務は細分化・頻繁化されます。

具体的には、次のような業務です。

<現金管理>

1.買掛金・支払予定の優先順位の決定
2.売掛金の回収状況・銀行口座の預金残高の確認
3.現金預金残高の定期的な管理レポートの作成

<資金計画の策定>

1.キャッシュフロー予測表の作成
2.資金調達の条件比較・検討
3.各部門の予算・投資計画の調整
4.借入返済計画との整合性の確認

また、これらを維持するため、経営陣・金融機関への定期的な報告や営業部門など現場からの情報収集・予実差異があった場合の原因確認などの付随業務も発生するでしょう。

企業規模によっては、通常の経理業務に加え、経営戦略や企業方針を踏まえたシミュレーションや各部門との調整など、経営的視点からの柔軟な判断力や思考力も求められます。

まとめ

手元の現金の流れを重視するキャッシュフロー経営は、長期的なデフレ傾向にある日本では、有効な経営手法のひとつです。

しかし、キャッシュフローの範囲内での投資活動には、黒字倒産を事前に回避できる一方で、収益の機会損失につながる可能性もあります。

導入する際は、投資用バッファや複数のシナリオの検討、金融機関との連携強化などの対策も視野に入れる必要があるでしょう。

現金の流れを的確に把握し、ここで紹介したキャッシュフロー経営が必要な企業も参考にしながら、自社の経営を安定させていきましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。