2025.10.31

【コラム】粗利率の上げ方のポイントとは?計算方法や注意点も詳しく解説

企業が成長するには、自社商材の粗利や粗利率を正確に把握し、将来の売上につなげる必要があります。

また、粗利に加えて利益の連鎖についての理解も深めておくと、自社の傾向や動向を分析する際のヒントになり、今後の売上戦略を策定しやすいでしょう。

今回は、そんな利益率の上げ方のポイントや計算方法、注意点について詳しく解説します。

1.粗利とは?

そもそも粗利とは、商材を提供して得た売上高から仕入にかかった売上原価を差し引いた利益のことです。ちなみに、損益計算書などの財務諸表上では正式名称の「売上総利益」と呼ばれています。

売上高ー売上原価=粗利(売上総利益)

この粗利は、自社事業における財務の健全性の評価や、経営戦略の策定で参考にすべき収益力を表す重要な基本指標です。一般的に、粗利の高さと販売利益は比例する傾向があり、市場における商材競争力の程度を測定する際にも役立ちます。

1-1.粗利を重視する理由

粗利を重視する理由は、企業の純利益に直結し、商材の付加価値を見直すきっかけになるからです。

たとえば、粗利が想定ほど確保できていない場合は、主に次の3つが原因として考えられます。

1.販売価格が低い
2.仕入れ価格が高い
3.不採算な商材を扱っている

先述のように、粗利は売上から得られる利益になるため、ここに問題があれば自社事業の構造自体に課題が潜んでいる可能性は高いでしょう。

1-2.粗利と4つの利益の関係

ここでは、粗利と財務三表によく出てくる4つの利益との関係について説明します。ちなみに、4つの利益とは、営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益のことです。

先述のように、粗利は売上高から売上原価を差し引いた利益を指します。この粗利から人件費・広告費などの一般管理費や販売費(以下、販管費)を差し引いたものが「営業利益」です。

粗利(売上総利益)ー販管費=営業利益

営業利益は、企業の本業で稼ぐ力を示すもので、売上高で割ると営業利益率を算出できます。

営業利益 ÷ 売上高 × 100=営業利益率

この営業利益率の推移や売上に対する比率は、本業の採算性や販管費の生産性・組織のコスト構造を客観的に評価するのに便利です。

さらに、営業利益に受取利息・配当金などの営業外収益を加算し、支払利息などの営業外費用を差し引くと経常利益になります。

営業利益+営業外収益ー営業外費用=経常利益

経常利益は、企業の通常活動の収益力を表すもので、本業と日常的な財務活動を含みます。金利負担や投資・為替の影響を踏まえつつ、企業の実力を把握する際は参考にするとよいでしょう。

この経常利益から、固定資産売却益・災害損失など、一時的に発生する特別損益を反映させたものが税引前当期純利益です。経常利益との差額を確認すれば、これらの臨時要因の影響度を把握できます。

経常利益+特別利益ー特別損益=税引前当期純利益

最後に、この税引前当期純利益から法人税等を控除した残りの金額が、当期純利益です。企業の最終的な収益力であり、株主還元の余力や税金対策の効果を確認できます。

この4つの利益から見て、粗利は本業収益の土台となるものです。粗利が薄いと、4つの利益における改善の余地の幅が狭くなります。

2.粗利率とは?

この章では、粗利とよく似た言葉の粗利率について説明しましょう。

粗利率とは、売上に対する粗利の割合を示す指標です。粗利率が高いほど、企業の価格設定力や商材からの収益性も高く評価されます。ただし、業種や販管費・値引き率によって最適値は異なるため、注意が必要です。

2-1.粗利率の算出方法

粗利率の算出方法は、以下の通りです。

粗利(売上高-売上原価)÷売上高×100=粗利率

一般的に、売上高には、返品・値引・クーポンやポイントなどが含まれます。そこで、計算する際は、粗利率の過大評価を防ぎ実態により近くなるよう、これらを差し引いた「純売上高」を分母にするとよいでしょう。

2-2.粗利率からわかること

粗利率からわかることは、大きく分けて4つあります。

1.価格設定力粗利率が高ければ、値付けの妥当性・値引き販売に頼っていないと評価できる
2.仕入れの妥当性粗利率の低下は、仕入れ価格の上昇または材料費・外注費増加の可能性がある
3.商品区分・顧客別の構成比単品・商品区分・顧客別の粗利率を確認すると、改善を重視すべき領域を明確化できる
4.営業利益率との関係性粗利率>営業利率の場合は、費用効率の改善が必要。一方、粗利率<営業利率の場合は、価格・原価・構成比の見直しが求められる

この4点を軸に、粗利率から自社の課題と現状を総合的に見極め、実行可能な販売戦略に落とし込みましょう。

3.粗利率の上げ方のポイント

この章では、実際に粗利率を上げる際の5つのポイントについて説明します。

3-1.売上原価を抑える

まず、売上原価を抑えましょう。売上原価とは、仕入れや材料・外注など商材の販売に直接かかる費用のことです。

具体的には、まとめ買いや共同購買の検討、年次交渉や支払い条件の見直し、発注ロットの最適化による在庫ロスの低減などが挙げられます。

製造業では、標準部品化・代替材の採用・過剰品質の是正など、設計や仕様の見直しも効果的です。検品の強化や作業ミスの防止に努め、返品減を徹底しましょう。

サービス業の場合は、時間単価の件数単価への変更や付帯作業の別料金化、外注単価の再交渉で稼働率を改善するのも一案です。いずれにせよ、品質や納期・供給の安定性を損なわないよう注意しましょう。

3-2.商品単価を上げる

商品単価を上げることも、粗利率の向上に大きく影響します。ただし、単価だけを上げると顧客から不満が生まれる可能性もあるため注意しましょう。

そこで、次の6つのオプション設定などで付加価値を示せば、単価の引き上げと顧客からの不満の抑制を両立できます。

1.設置・初期設定
2.短納期対応
3.指名料
4.時間延長
5.延長保証
6.優先サポート

また、関連商材をセット提案するクロスセルや、上位モデルを推奨するアップセルも適切に活用し、顧客満足度の向上につなげましょう。

顧客への説得力を高めるためには、早期申込の特典や据え置きプランの提示、価格改定の説明などにも配慮する姿勢が大切です。

3-3.販売商品数を増やす

粗利率の向上には、販売商品数も増やす必要があります。商材だけでなく、企業の魅力をアピールすることが重要です。従来のチラシやDMに加え、SNS配信や動画、インターネット広告を積極的に活用しましょう。

また、同梱や関連商材の提案・バンドルによる同時購入の促進も有効です。再入荷通知やレビュー・使用例の活用で、購買意欲を高めましょう。

このほか、リピート客の増加を見込んだ再購入への導線や、来店予約の前日確認・カゴ落ち対策などの離脱防止策も効果があります。ただし、安売りや過剰ポイントは、粗利率を押し下げる可能性もあるため、注意が必要です。

3-4.生産効率を高める

生産効率を高めるのも、粗利を上げるポイントのひとつです。まず、ムダな時間やコストを省き、標準化やシステム化で原価を下げるための「仕組みづくり」を進めましょう。

属人化している業務は、マニュアルやテンプレートの作成で標準化しましょう。財務を含めたバックオフィス業務や従業員の習熟度・スキルを一元管理できるシステムの導入も一案です。

また、研修やトレーナー制度を実施し、組織全体の多能工化やスキルアップを図るのも効果があります。ノンコア業務やバックオフィス部門の深夜の一次対応は、アウトソーシングも検討しましょう。

さらに、シフトの最適化は、残業や在庫の積み上げに頼らない効率化を定着させます。従業員の成長と外部活用を組み合わせ、需要の波や商品構成と連動させましょう。

3-5.販売戦略を見直す

販売戦略の見直しも重要です。自社のターゲット顧客と価格帯を見直し、粗利の高い商材に投資を集中させれば、粗利率は高まります。

BtoC向け小売業は、ECサイトや卸・直販の条件を比較して利益率の高い経路を優先し、販売単位・セット内容の再設計やプライベートブランドの活用で単価と粗利の底上げを図りましょう。

一方、BtoB向けの商材は、仕様の標準化による個別対応の抑制と価格帯の引き上げが有効です。総コストの観点でも価値も訴求し、低採算領域は縮小・撤退すべきでしょう。

サービス業の場合は、料金オプションとキャンセル規定の整備で単価アップと稼働のムダ減を両立すれば、同じ人員でも粗利を高められます。IT分野は、一次対応のリモート化や夜間・緊急など別レートの設定もよいでしょう。

4.粗利率を計算する際の注意点

この章では、粗利率を計算する際の2つの注意点について説明します。

4-1.粗利率の適正値は業種で異なる

粗利率の適正値は業種で異なることに注意しましょう。代表的な業界の粗利率の目安は、下記の通りです。

業界・業種粗利率の目安
製造業20.7%~21%程度
建設業23.9%~24%程度
運輸業・郵便業23.5%~24%程度
卸売業15.1%~16%程度
情報通信業47.6%~50%程度
小売業27.6%~30.4%程度
宿泊業・飲食サービス業63.3%~70%程度
学術研究・専門・技術サービス業56.8%~57%程度
生活関連・娯楽41.3%~48.9%程度
不動産業・物品賃貸業46.3%~47%程度
その他のサービス(廃棄物処理・機械等修理・人材派遣など)41.3%~48.9%程度

ただし、これらの数値はあくまで目安です。まずは、自社の商品・顧客・販路別に粗利率の数値を算出し、内訳をこの目安と照合して適正値を定めましょう。

4-2.粗利で経営判断をしない

粗利で経営判断をしないことも重要です。粗利だけでは、販管費・投資・借入返済・税金・現金化のタイミングまでは把握できません。少なくとも、財務三表と資金繰り表を照合し、各指標を総合的に勘案して判断しましょう。

書類名把握すべき事柄
損益計算書(PL)・営業利益・営業利益率:本業の採算性・一時要因:特別損益・値引き増・原価高騰の影響の有無
貸借対照表(BS)・運転資本=売掛金+在庫ー買掛金:増減の理由(回収遅延・滞留)・自己資本比率・手元流動性:安全性と耐久力
キャッシュフロー計算書(CF)・営業CF:利益の現金化・投資CF・財務CF:投資と借入返済のバランス・PLとの乖離
資金繰り表(短期予測)・13週の資金残高:谷間・警戒週・大口入出金の確認・対策:回収前倒し・支払調整・短期調整枠の用意

たとえ粗利がよくても、販管費が重い、または現金が減るケースもあります。粗利率だけでなく、営業利益率、営業CF、運転資本を加えた4点を確認する習慣をつけ、利益と資金の両面で適切な経営判断をおこないましょう。

まとめ

自社商材の粗利や粗利率の把握は、自社の売上を向上するためには不可欠です。ただし、粗利の数値だけで経営判断をすると、資金ショートに陥るリスクもあります。

今回紹介した粗利率を高める5つのポイントと各業界の目安を参考にしつつ、財務三表や資金繰り表の指標と照合することが重要です。モニタリングと改善を継続し、自社事業の発展へとつなげましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。