2026.03.15

【コラム】<前編>自己資本比率の適正水準を知るには?計算方法や改善方法を徹底解説

経営者にとって、自社の経営が健全かどうかを正しく把握することは、今後の経営戦略にも大きく関わります。そのためにも、自社の自己資本比率の程度や、適正水準にあるかを知っておくべきでしょう。

ちなみに、企業の自己資本比率は常に一定ではありません。経営状態や経営戦略にもよりますが、資本金に加え、資本剰余金や利益剰余金・借入金・資産の増減によっても変動するものです。

そこで今回は、そんな自己資本比率の適正水準を知るための計算方法や、改善方法について詳しく解説します。

1.自己資本とは

自己資本とは、返済義務のない自社の資金のことで、企業が金融機関などから借り入れた資金とは法的性質が異なります。

一般的には、自社の出資者から払い込まれた資本金や、事業活動による利益剰余金などから構成され、資本金のみを指すものではありません。

財務三表の貸借対照表上では、自己資本は、資本金・資本剰余金・利益剰余金を含む「純資産」に区分されます。中小企業の場合は、資本金と利益剰余金が中心です。

この自己資本は、企業に発生した損失を吸収し、自社の経営を安定させる役割を担います。従って、自己資本の厚い企業ほど、外部環境の悪化に耐えられる構造を有しているといえるでしょう。

1-1.自己資本比率とは

自己資本比率は、先ほどの自己資本と総資産との割合を表し、「自己資本÷総資産×100」の数式で算出されます。自社の総資産のうち、返済不要の資金がどの程度かを示すとともに、自社資金でどの程度経営できているかを表す指標です。

ただし、自己資本比率は「分母(総資産)」の影響を大きく受けます。「節税対策で保険積立金が多い」または「含み益のある不動産を保有している」などの場合は、帳簿上の自己資本比率は低くても、実効的な財務力は高くなります。

一方、回収不能な売掛金や、いわゆる「含み損」といわれる不良在庫などが資産に計上されている場合は、表面上の比率は高くても実態が脆弱なケースもあるでしょう 。

また、貸借対照表では、この自己資本比率で純資産と総資産の関係を把握できますが、比率が高くても優良企業とは限りません。理由は、自己資本比率が過度に高ければ、資本効率が低いともいえるからです。

たとえば、製造や電力・運輸など設備投資の大きい業種は、総資産と借入が増えて自己資本比率が低くなる反面、総資産が比較的小さいコンサルやIT企業のようなサービス業では、自己資本比率は高くなる傾向があります。

このように、自己資本比率は、資産規模やビジネスモデルによる資金調達の構造の違いや業界によって差があるため、自社の適正水準の判断は同業種内での比較検証が不可欠です。

1-2.自己資本比率の最近の動向

自己資本比率の最近の動向としては、次の4つの兆候が見られます。

1.中小企業の全業界の平均比率は4割前後で安定

2.企業規模別では、大企業・中堅企業が50%前後、中小企業は43.4%

3.同一業種内でも比率に10%以上の差が生じる場合がある

4.コロナ禍以降は借入と利益蓄積とで比率が二極化している

運転資金や設備投資を金融機関から資金調達することの多い中小企業は、総資産における負債の割合が高く、比率は大企業よりも低くなる傾向です。また、創業期の企業も、先行投資で一時的に比率が低くなるでしょう。

昨今は、サブスクリプションの普及などで同じ業種でも資金構造が異なるケースや、ビジネスモデル・経営戦略の多様化もあり、自己資本比率にばらつきが見られます。

2.中小企業に自己資本比率が重要な5つの理由

この章では、中小企業にとって自己資本比率が重要な5つの理由を説明します。

2-1.リスク評価の目安になる

1つ目の理由は、リスク評価の目安になるからです。自己資本比率の低い企業は、負債の依存度が高いといえます。つまり、業績が悪化した時に債務超過に陥りやすいということです。

一方、自己資本比率が高ければ、一時的に赤字になっても、純資産が直ちにマイナスに転じることはないでしょう。ただし、自己資本比率だけでは倒産リスクを判断できません。

一時的な赤字なのか、収益構造に問題があるのかを見定め、営業キャッシュフローが安定しているかどうかも確認しましょう。

2-2.競合他社と比較できる

競合他社と比較できるのも、理由のひとつです。自己資本比率は、経済産業省や中小企業白書などの公式サイトの解説・分析結果も参考になります。

しかし、金融機関や税理士なども参照する日本全国の企業を広く網羅しているのは、財務省の「法人企業統計」です。

各機関が公表している同じ業種区分の平均値と、自社の自己資本比率を照合してみましょう。業界の平均値より数値が低い場合は、借入依存度が高い可能性があるため、注意が必要です。

また、同業の競合他社だけでなく、同規模の企業とも比較してみましょう。さらに、過去に遡って自社における3〜5年の推移を見ながら急激に低下していないか、改善傾向にあるかまで確認すると、より精度が高まります。

2-3.将来性を判断できる

自社の将来性を判断するうえでも、自己資本比率は重要です。外部環境の変化への耐久力を示す指標だからこそ、一定水準を維持していれば投資余力を確保しやすく、金融機関や取引先との信頼にもつながります。

金融機関からの追加融資や金利条件が有利になれば、今後、資金調達の選択肢の幅も広がるでしょう。なお、企業の将来性については、自己資本比率だけでなく、売上成長率や営業利益と売上高から算出する営業利益率などの指標も重要です。これらを総合的に分析し、自社の成長性や収益力を評価しましょう。

2-4.金融機関の融資審査を左右する

自己資本比率は、金融機関の融資審査も左右するでしょう。金融機関の多くは、企業の格付けの際、財務安全性の指標として自己資本比率を参照します。

実際の審査で自己資本比率が低ければ返済余力を懸念され、融資額・金利条件の制約や保証協会付き融資への限定など、慎重な姿勢を取るでしょう。一方、一定水準を維持している企業は、追加融資の相談もしやすく、無担保融資や長期資金など選択肢が広がる可能性もあります。

ただし、審査では、自己資本比率に加え、企業の収益力や資金繰りの安定性も重要項目です。一時的な増資だけでは、金融機関の評価は定着しないことも肝に銘じておく必要があります。

2-5.株式市場の評価に影響する

投資家は、自己資本比率で企業の財務基盤の安定性を判断するため、株式市場の評価にも影響するでしょう。

とはいえ、自己資本に対して当期純利益をどの程度出せているかを判断できるROEとのバランスも重要です。ROEが低ければ、収益性や資本効率に課題があるとも考えられます。

なお、非上場企業は、一般投資家の株の売買や日々の株価の市場評価がないため、自己資本比率は株価に直接反映されません。しかし、将来的に上場を目指す企業や、外部の投資家からの出資を検討している場合は、自己資本比率やROEが評価対象になります。

3.自己資本比率の計算方法

この章では、実際に自己資本比率を計算する方法について、計算例とともに説明します。

3-1.自己資本比率の計算例

自己資本比率は、先述の通り「自己資本÷総資産×100」の数式で算出できます。具体的な例を挙げて説明しましょう。

たとえば、総資産が5,000万円、自己資本が2,000万円の企業の場合は、「2,000万円÷5,000万円×100」で自己資本比率は40%です。自社の総資産と自己資本から、実際に計算してみましょう。

3-2.超優良企業・優良企業・安定企業の適正水準

実務上の目安として、自己資本比率は次のように分類できます。

・超優良:70%以上

・優良:50%以上70%未満

・安定:30%以上50%未満

ただし、業界ごとに適正水準が異なるため、画一的な基準で断定すべきではありません。また、過去数年を遡り、時系列で自社の改善傾向を把握することも重要です。なお、スタートアップ企業は一時的な赤字となる可能性も高く、一般的な適正水準が該当するとは限らない点にも留意しましょう。

4.自己資本比率の改善方法

この章では、自己資本比率を改善する5つの方法を具体的に説明します。

4-1.自社商材で利益を出す

まずは、自社商材で利益を出しましょう。本業で利益剰余金を積み上げることこそが、最も健全な改善策になります。

不動産の売却や補助金・助成金の受給などの一時的な特別利益に依存せず、自社の商材で継続的な黒字を出し、財務基盤を強化すべきです。また、人件費や広告費・仕入れ費の過度な削減や設備投資の先送りなどに頼らず、自社の本業で収益力を高めていきましょう。

4-2.増資する

増資も、自己資本比率を改善するための有効な手法です。第三者割当増資やオーナーによる追加出資は、自己資本の増加に即効性があります。短期で財務の安定性を改善できれば、金融機関の評価も改善するでしょう。

ただし、増資で新株を発行すると持株比率が希薄化し、経営権や将来の意志決定に影響するリスクがあります。また、借入金の株への振り替えや、決算前に株主から一時的に資金を注入するような形式的な増資では、根本的な改善になりません。

4-3.債務を減らす

債務を減らすのも、自己資本比率を改善する手法のひとつです。負債の削減は、借入金の利息負担を軽減する効果もあり、自社の財務体質の健全化も期待できます。

ただし、企業経営では、運転資金の確保が最優先です。過度に繰上返済すれば資金繰りを圧迫し、かえって経営が苦しくなるでしょう。また、借入を減らしすぎると「レバレッジ効果」を得られず、事業の成長スピードが鈍化するリスクもあるため、注意が必要です。

4-4.資産を見直す

自社資産の見直しもよいでしょう。休眠資産の売却は、総資産の適正化につながります。また、不良・過剰在庫を処分しムダなコストを削減すれば、資産効率も向上するでしょう。

ただし、自社に必要な資産まで削減するのは、本末転倒です。また、資産の売却で当期純利益や自己資本が増えて自己資本比率が改善されても、それは本来の営業活動で得られた利益ではありません。

資産売却で数字が一時的に改善しただけの可能性も考えられ、自社の財務体質そのものが改善したとは限らない点も念頭に置いておく必要があります。

4-5.補助金・助成金を活用する

補助金・助成金の活用も、自己資本比率の改善策のひとつです。これらの返済不要の資金を営業外利益や特別利益として計上すると、当期純利益を通じて利益剰余金が増えます。

助成金・補助金は、自社の財務基盤を強化する補助的な手段としても有効で、設備投資と組み合わせれば、より大きな効果を期待できるでしょう。

とはいえ、継続的な利益とはならないため、依存する経営にならないよう、活用の目的や使途についての十分な検討が重要です。

5.まとめ

自己資本比率は、経営の安全性と成長戦略のバランスを知るうえで重要ですが、企業価値を把握するための指標のひとつに過ぎません。

効果的に自己資本比率を改善するには、自社の属する業界の適正水準との比較や、時系列での推移分析が重要です。また、自己資本比率だけでなく、継続的に利益を生み出し、キャッシュを確保するための体質づくりが欠かせません。

一時的な増資や資産売却による数値の改善に惑わされず、自社の財務体質を強化し、経営の安定を図りましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。