2023.02.15

【コラム】事業撤退とは何かを徹底解説!

事業撤退とは

事業撤退とは「市場において優位性を失った事業から手を引くこと(※)」を言います。採算が取れない事業を停止して損失を防ぐことが目的です。会社経営をするうえで、思いもよらない事態は付きものですから、平時からリスクヘッジの方法を学んでおきましょう。事業撤退の判断基準や注意点などの理解を、本コラムで深めていただければと思います。
(※引用:グロービス経営大学院

撤退の判断基準

もしも明らかな赤字事業であれば、事業撤退をすぐに決断できるでしょう。一方、判断に迷うような業績の場合に明確な根拠なく判断すると、失敗する可能性があります。自社の現実・事実に基づいた事業撤退の明確な判断基準を持ちましょう。

代表的な判断指標を三つご紹介します。

1.貢献利益
ある商品・サービスをひとつ売ったときに生じた利益のことを言います。算出方法は「売上高-変動費-直接固定費(直接経費)」。各事業が会社全体の利益にどの程度貢献しているのかを導きだす数値です。

この場合の変動費とは、売上により数値が変動する費用です。売上原価の中から労務費・間接製造費を省いた仕入原価や外注費、消耗品費などが変動費に該当します。そして、直接固定費とは、固定費用のうち事業に紐づけられる経費です。販売費および一般管理費の中から事業に直結する広告宣伝費やリース料などの費用のみを抽出するため、直接固定費と販管費の数値は異なります。

これらの数値を用いて算出する貢献利益から、事業の状態を見極めることができます。もしも営業利益も貢献利益も赤字であれば、事業撤退を検討する必要があると判断して良いでしょう。

2.SWOT分析
自社の内部要因と外部要因を見直して状況を明確にすることで、事業に合った市場や事業課題を導き出すフレームワークです。内部要因の「強み(Strength)」と「弱み(Weakness)」、外部要因の「機会(Opportunity)」と「脅威(Threat)」、これら4つのアルファベットの頭文字をとって「SWOT分析」と呼びます。

分析結果のパターン

ポジティブネガティブ
内部環境活かせる強みはあるか弱みはあるか
外部環境強みを活かせる機会はあるか回避すべき脅威はあるか

SWOT分析を活用すると、その事業を取り巻く環境が浮かび上がってきます。内的要因において何らかの弱みを抱える事業が外的要因にも弱みを持つ場合、撤退を検討する必要が生まれます。しかし、弱みを強みに変えられるような方法が見つかれば、撤退という選択をしないで済むこともあります。

3.PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)
市場の成長性と自社の市場シェアの観点から事業戦略を検討するフレームワークです。自社事業の市場成長性と市場シェアのそれぞれを、高い/低いで評価して組み合わせます。

評価結果は以下の四つの言葉で表します。

・花形(市場シェア:高い、成長性:高い)
成長市場で十分なシェアを持っている事業。ただし将来的に市場競争が激しくなる事態も予想されます。シェアを維持できるような戦略を立てることと積極的な投資を継続することが望ましいでしょう。

・問題児(市場シェア:低い、成長性:高い)
十分な市場シェアは獲得できていないものの、戦略次第では収益源となり得る可能性を持つ事業。赤字になる可能性も孕んでいるので、有望であれば投資をおこなうが、動向次第では撤退を検討する可能性もあります。

・金のなる木(市場シェア:高い、成長性:低い)
すでに十分な市場シェアを獲得しており、成長が鈍化している事業です。現時点では重要な収益源だと言える一方、これ以上の投資は必要ないと判断して良いでしょう。この事業で生み出した収益をどの事業に投資するか、が戦略として重要になってきます。

・負け犬(市場シェア:低い、成長性:低い)
市場の成長性が期待できないうえにシェアも低い事業です。収益アップは見込めませんが、追加で大きな投資をする必要がないという利点もあり、いい活用方法さえ見つかれば収益源に変わる可能性を持っています。しかし、すでに投資した分のリソースを回収したのちに撤退を検討することが、一般的です。

撤退の注意点

事業撤退には、当然リスクも伴います。とくに問題となりやすいリスクの一つとして、自社が手掛ける他の事業とのシナジー効果が薄れるリスクがあります。複数事業を手掛けている会社では、社内の事業同士に何らかのシナジーが起きていることが多いです。コスト面など経営数値に直結するシナジーもあれば、従業員のモチベーションアップのような数値で測れないシナジーもあることでしょう。不採算部門の事業撤退をおこなうことで別事業における製品・サービスなどに何らかの不都合が発生する可能性が高いです。他事業とのシナジーの有無も考慮し、最終判断をしましょう。数値化できていない影響を見逃さないように注意してください。

もう一つは、顧客・市場からの信頼を失うリスクです。たとえ赤字事業だったとしても、その商品・サービスの顧客は存在しています。一部の顧客から撤退への不満の声があがることは、容易に想像できます。

最近の例ですが、家族向けSNSサービスを提供する企業がサービス終了の決定を告知しました。その際、利用者からは不満の声が続出。サービス終了自体は仕方のないことですが、告知から終了まで約一か月しかなく、投稿写真の一括ダウンロードはできず、そのうえ写真と一緒に投稿されていた日記やメッセージは個別ダウンロードすらできない、というような、大切な思い出を投稿していた利用者の気持ちを考慮したと思えない終わり方だったためです。その会社の世間からの評価は、以前と大きく変わってしまったように思います。事業撤退時は、顧客の心情への配慮を決して忘れないようにしましょう。

さらに、株主に対する説明責任を果たすことや社員に対するフォローも忘れないでください。事業撤退の経緯や判断理由、そして決断に至ったのは誰のせいでもないことを可能な範囲で説明するなどの丁寧なフォローをすることによって、社員のモチベーション維持につながります。

撤退方法

一般的なケースで考えられる事業撤退の方法は、大きく分けると二つです。

1.事業譲渡(売却)
ある特定の事業に関する権利や資産を、そのまま第三者に包括的に譲渡(売却)する手法です。買い手側は買い取る資産を個別に指定できるので、設備などの資産だけでなく、従業員の雇用契約を引き継いでもらえるケースもあります。そのため、労務上のリスクも低いと言えるでしょう。マイナス面として、交渉に時間がかかることが多いことが挙げられます。

2.解散・清算
法律上の諸手続きをとって、法人格を消滅させる方法です。法的な手続きということもあって煩雑なため、完全撤退するまでには期間を要する場合が多いようですが、事業の規模によって異なります。従業員の解雇をする必要が生じるため、労務上のリスクが高い点もデメリットだと言えるでしょう。

撤退費用

撤退時のコストは、経営者にとって悩ましい問題です。たとえば、不要になった設備や在庫の処分費用。不要になった固定資産を売却するとき、固定資産売却損と呼ばれる費用が発生することもあります。

また、事業用資産をリースしている場合には解約手続きが必要になります。契約内容によっては途中解約時に解約金・違約金の支払いが発生します。契約内容を事前に確認し、資金繰りに組み込んでおきましょう。更新時期が近づいてきたタイミングで、事業を継続するか否か検討するのも良いかもしれません。

さらに、解体・撤去費用も忘れてはいけません。撤退事業に関連する資産の買い手がみつからなかった場合、店舗や設備を解体・撤去してもらう必要があり、解体・撤去費用が発生します。入居前の状態に戻すための原状回復工事が発生することもあります。

他にも、専門家に撤退に関する相談をした場合の相談費用や登記や法的手続き費用など、あらゆる想定外の費用が発生する可能性があります。くれぐれも資金繰りにご注意ください。

まとめ

事業撤退の妥当性は、他の事業へのシナジーなど全社的な視点・将来的な黒字が見込まれる可能性があるかどうかの長期的視点・市場や顧客の視点などから鑑みて、慎重に検討するべきです。単一的・短期的な数値や環境で判断するのではなく、多面的に見て検討しましょう。

本コラムで紹介した貢献利益・SWOT分析・PPMなどの方法を参考にしてください。そして、新規事業を始める際は事業撤退をおこなう基準をあらかじめ定めておくことと、撤退時こそ顧客に心情に寄り添うことが大事だということも、ぜひ頭に留めていただければ幸いです。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。