2022.09.15

【コラム】保険を積んでも退職金は貰えません

退職金の原資って何?

中小企業の経営者の方で自身の退職金準備のために法人で保険の積み立てなどを行っている方も多いと思います。70歳まで積み立てて引退する際に3千万円貰い、引退後はこれまで行けなかった旅行に行ったり、などと夢を膨らませている事と思いますが、その退職金はホントに受け取ることが出来るのでしょうか?

いやいや、確定利回りの保険で積立をしていてちゃんと払込をすれば70歳の解約時には3千万円になるからそれを原資として貰えるよ、と考えているかもしれません。ちょっと財務に詳しい方、ちゃんと数字を読める方ならわかると思いますが、会社の金で積立をしたからと言ってその金を個人で受け取れるとは限りません。個人で積立をしている場合その積立の原資は通常個人の給与、つまり個人で稼いだ金の中から積み立てをしているので当然解約時に戻ってくる金も個人のものとして受け取ることが可能です。

法人で積立をしている場合もその原資が法人が稼いだ金、利益の中から積み立てを行っているのであれば解約時に退職金として受け取ることも可能だと思いますが、その原資がもし借金だとしたらどうでしょうか?保険を解約して仮に3千万円返戻金が戻ってきたとしてもその金でまずは借金を返済しなければならず、社長個人で受け取ることは出来ません。つまり、会社保険で積み立てるにしてもその源泉がどこからきている金なのかという事が重要という事です。

貸借対照表の資産の部にいくら金があったとしても積立金があったとしてもその調達源泉、つまり貸借対照表の右側が負債で構成されているのか純資産(自己資本)で構成されているのかで全く意味が異なってくるのです。過去利益を積み上げ続けて自己資本が潤沢にあるという状態であればその自己資本の範囲内で退職金を受け取る事は問題ないかもしれませんが、自己資本がほとんどなくほぼすべて負債で賄われているという状態では退職金を支給する事など出来ません。

銀行は社長に退職金を払うために金を貸してなどくれないのです。実際債務超過状態にもかかわらず保険で積立をして退職金を受け取ろうとしている経営者の方もいますが、もしそんな状態で退職金を受け取ったら会社はどうなるのでしょうか?後継者がいる場合、事業承継しようと考えている場合には後継者は社長の退職金含め多額の借金を背負った状態で事業を引き継ぐこととなります。そんな会社誰が継ぎたいと思うのでしょうか?会社が債務超過状態になっているという事は過去会社は1円たりとも稼いでいないという事です。1円も稼げない会社と多額の借金を背負っていくという覚悟を持っている後継者がどれだけいるのか、そもそもそんな会社を後継者に引き継がせる、自分の退職金分の借金まで後継者が返済しなければならない、そんな無責任な事が出来るのでしょうか。

数字が読めない経営者の方が無邪気に悪気なくそんなことを考えているケースがありますがとんでもない話です。後継者がそれでも引き継いでいく、という覚悟があればそこに甘えればいいのかもしれませんが、寝覚めが悪いですね。ちなみに後継者がいない、もう自分の代で会社を閉じようと考えている場合、この場合にはどうなるのかというと、当然退職金を受け取って悠々自適な生活なんてことは夢のまた夢です。会社が債務超過状態で会社が持っている資産や保険の解約返戻金を返済に充てなければならないのは当然としてそれでも借金返済できなければ自己破産するしかないかもしれません。

数字に弱いから、というのは経営者としても非常に弱いという事、大事な家族や従業員、その家族の生活を担っているという自覚を持ち責任ある経営を行っていきたいものです。数字に強くなれば会社としてちゃんと利益を出す事も出来るようになりますし、ちゃんと利益を出して内部留保(自己資本)を積み上げていけば功績に見合った退職金を受け取ることも出来るでしょうし儲かる会社であれば継ぎたい後継者も沢山出てくるはずです。儲かってない会社を継ぎたい人はいません。数字に強い本物の経営者となり誰もが継ぎたい会社に成長させていきましょう。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。