2024.10.31

【コラム】経営難を立て直す施策とは|経営不振との違いや陥る原因も解説

コロナ禍以降、経営難から倒産に陥る企業が急増しています。

心当たりのある企業は、何が原因なのかを突きとめ、早急に立て直すための施策を打ち出すことが重要です。

また、経営難は「経営不振」と似ていますが、けっして同じではありません。

むしろ、倒産のリスクは、経営難のほうが高いといってよいでしょう。

そこで今回は、企業が経営難に陥る原因や経営不振との違い、および経営難を立て直すための効果的な施策について詳しく解説します。

1.経営難とは?

経営難とは、企業の商品またはサービスが赤字続きで利益が減少し、存続が危ぶまれるほど経営状態が悪化した状態のことです。

企業は、この状態を打開する改善策を見い出せなければ、破産または事業再生などの手続きを検討しなければなりません。

経営難に陥ったら、資金繰りにある程度の余裕があるうちに何らかの解決策を打ち出すことが重要です。

1-1.経営不振との違い

経営難は、経営不振と似ていますが、若干ニュアンスが異なります。

経営不振は、企業の商品またはサービスの売上や利益が減少している状態のことです。

売上が減少すれば利益も減少し、その分、経費が拡大しますので、経営状態を改善する必要があります。

これに対し、経営難とは、経営不振による売上や利益が低下している状態が続いて資金繰りが悪化し、赤字の拡大した状態です。

状況としては、経営難のほうが経営不振よりも深刻で、早急に手を打つ必要があります。

2.経営難に陥る4つの原因

企業が経営難に陥るケースとしては、大きく分けて4つの原因が考えられます。

経営難だけでなく経営不振が続いている企業も、ぜひ参考にしてください。

2-1.業績不振

まず1つ目の原因としては、業績不振です。

たとえば、「販売量を増やしたが、在庫が増えただけになっている」「自社商品に宣伝費をかけたが、思うように効果が出ていない」など、戦略が裏目に出て売上や利益が減っているケースが、これに該当します。

このような業績不振を改善するため、リストラや賃金カットを実施する企業も少なくないでしょう。

しかし、これらの対策はあくまで応急処置であって、根本的な解決策ではありません。

自社商品やサービスで売上が伸び、利益が出る改善策が必要です。

2-2.放漫経営

放漫経営も、経営難に陥る原因のひとつです。

特に、小規模でワンマン社長がいるような企業は、管理能力や運営能力のない経営者が、会社を私物化してしまうケースも珍しくありません。

昨今、コロナ禍や物価高・人手不足などによって倒産する企業は増加傾向にありますが、実は「隠れ放漫経営」による倒産も増えているのです。

日経ビジネス社によると、2023年度の放漫経営による企業倒産は417件で、前年度にくらべて37.6%増でした。

本来、放漫経営は好況期に多く見られますが、ここ最近のケースは、コロナ禍で資金調達のハードルが下がったことが起因しているようです。

安易な起業や長期にわたる粉飾決算が発覚するなど、経営者としての経験不足やモラルの低下がコロナ禍を機に露見したのでしょう。

2-3.取引先の倒産

経営難に陥る原因には、いわゆる連鎖倒産と呼ばれる取引先の倒産もあります。

メインの取引先が倒産したことにより、自社の営業では利益を出しているにもかかわらず、受取手形や売掛金などの債権回収が難しくなり、経営不振から経営難に陥るケースです。

東京商工リサーチの調査でも、2024年の1〜8月までの連鎖倒産件数は370件で、前年同期にくらべて28.4%増となっています。

特に、売上の主要取引先の割合が偏っていて、コロナ禍に次ぐ物価高で経営体力そのものが疲弊している小売業や子会社の倒産などに顕著な現象です。

2-4.資金繰りの悪化

資金繰りの悪化も、経営難に陥る大きな原因のひとつです。

一般的に、企業は毎月支払うための現金や銀行預金などの資金が底を尽きないよう、資金繰り表によって収入と支出を管理し、資金の増減を調整します。

しかし、放漫経営や業績不振によって売上が伸びずに赤字経営が続けば、人件費やテナント料・広告料などの固定費が圧迫するため、資金繰りは悪化するでしょう。

それだけでなく、実は売上の増加による先行投資や設備投資によっても、資金繰りは一時的に悪化します。

理由は、売上が増えれば自己資金を使ってさらに利益を出そうと投資するため、手元のキャッシュが減るからです。

組織内の統制が十分に取れていない状況で、これらの投資により入金と支払時期にタイムラグが発生した場合や、先行投資で過剰在庫を抱えた場合は、資金繰りの悪化から経営難に陥ります。

3.経営難を立て直す3つの施策とは

経営難の企業は、早急に原因を追究して打開策を検討し、倒産のリスクを回避しなければなりません。

この章では、自社の経営難を立て直すための3つの施策について説明します。

3-1.資金繰りの把握・改善

まずは、資金繰りの把握と改善が必要です。

資金繰りの目的は、過去の一定期間の資産や収益の状況を示す決算書・試算表とは異なり、資金(現金)の流れを可視化することにあります。

自社の資金を正しく管理し上手に運用するためにも、資金繰り表を作成しましょう。

具体的には、手元にある現金・預金と買掛金・売掛金の資料などから、将来的な資金の流れを表にします。

入金と支出のタイミングを正確に把握し、手元の資金がなくならないよう調整することで、経営の安定につながります。

この資金繰り表を作成する際は、事前に今後の収支を予測して「事業計画書」を作成しましょう。

精度の高い事業計画書を作成することで資金繰り表の内容もより正確になり、経営を改善しやすくなります。

資金繰り表のフォーマットは特に決まっていませんが、作成の際は次の4項目が不可欠です。

1.前月繰越金額
前月末に残った現金や普通預金など、企業の決済手段に利用できる資金の合計金額

2.経常収支
企業の活動で得た現金や売掛金・受取手形などの経常収入から、活動で支払う外注費や買掛金などの経常支出を差し引いた金額

3.財務収支
プラスの場合:金融機関からの手形借入(短期)・証書借入(長期)

マイナスの場合:金融機関からの手形借入(短期)の返済・証書借入(長期)の返済

4.翌月繰越金額
前月繰越金に収入を加算し、支出を差し引いた合計金額

資金を証書の借入で調達した企業は、数年にわたる分割払いで元金を毎月返済すればよいので、資金繰りが悪化する可能性は低いでしょう。

一方、手形の場合は、借入金の全額を手形の期日に一括で返済しなければならず、返済日当日に資金繰りが悪化するリスクがあるため、注意が必要です。

3-2.コストダウン対策

コストダウン対策も、経営難を立て直す施策として有効です。

とはいえ、昨今のような原材料費の高騰や物価高が続いている状況下では、取引先も容易に仕入価格の引き下げ交渉に応じてくれないでしょう。

そこで、次の5つの側面から、自社運営のコストの見直しをおすすめします。

1.自社サービス・事業
自社で提供するサービスや事業を全て洗い出し、赤字続きのもの・不要なものがあれば撤退またはカットを検討する

2.業務フロー
自社の業務の流れを確認して各業務に要する時間や人件費を分析し、必要に応じてITシステム化や担当者の増減・省略化で業務フローを再設計・簡素化する

3.人件費
自社従業員の給与・賞与を見直し、必要に応じてアウトソーシングや非正規雇用などを検討する

4.諸経費
月ごとの光熱費・テナント料・出張料・交通費・接待費などを算出し、可能な項目について徹底的な削減を図る

5.在庫
自社で売れ残っている商材の早期販売、廃棄処分や返品の原因の排除、各商材の在庫数の引き下げなどで過剰在庫を抱えないようにする

3-3.経営改善の策定

3つ目の施策は、経営改善の策定です。

経営難から「ゴーイング・コンサーン(going concern)」(継続企業の前提)の見通しがついたら、利益を出すために自社の経営改善を図りましょう。

具体的には、経営上の課題について今後5年間を目安に洗い出し、「予想損益計算書」や「予想貸借対照表」を照合しながら経営改善計画書を作成します。

本来、経営改善計画は経営難に陥ってからではなく、数年先を見据えて計画するものです。

しかし、経営難であっても、資金繰りの把握や徹底的なコストダウン対策で経営を継続できるのであれば、それに越したことはありません。

コストダウン対策にもいえますが、経営難の状態から経営改善を図り、一定の成果を上げるためには、早急に自社業務や財務の現状を細かく洗い出すことが重要です。

経営改善計画を策定する際は、次の3つの側面を連携させましょう。

1.財務面:損益分岐点を分析する
売上高と自社の経済活動で支払う費用とが等しくなる販売数量(損益分岐点)を分析し、それを上回るよう改善する

2.管理面:KPI(重要達成度指標・重要業績評価指標)を設定する
最終目標のKGI(経営目標達成指標・重要目標達成指標)を達成するために期限を設け、達成可能性の高い中間指標としてKPIを設定する

3.戦略面:SWOT分析を活用する
自社の4つの要素「Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)」を表にまとめ、除去・回避すべき脅威や克服すべき弱みを把握し、自社の強みをどんな機会に利用するのかを検討する

4.まとめ

経営難は、企業にとって経営不振より深刻な状況です。

倒産のリスクも高いため、経営者は原因を追究し、今後も経営継続の可否を判断しなければなりません。

ゴーイング・コンサーンの場合は、経営を確実に改善するための施策を早急に打ち出す必要があります。

状況によっては、仕業・経営コンサルタントなどの専門家や公的機関・金融機関の無料相談を活用し、速やかに経営難からの脱却を図りましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。