2023.02.28

【コラム】新規事業を赤字から黒字化にさせるために企業がするべき事

赤字の原因

やみくもに新しい事業を立ち上げても、成功までの道のりは平坦ではありません。とくに立ち上げから軌道に乗るまでの初期段階は、赤字になってしまうケースは少なくありません。まずは、赤字に陥る原因にはどんなものがあるのか見ていきます。

ムダな経費が多い
ムダな経費は赤字に直結します。できるだけ削減していきましょう。たとえ売上が多くとも、それを上回るほどに経費が発生すれば、当然の結果として赤字になってしまいます。

「経費削減」といわれたときに、あまり集客効果が出ていない広告宣伝費やオフィスの光熱費を真っ先に削ろうとする方がいるかもしれません。ただし広告のなかには、長期的に認知を浸透させる目的のものもあります。電気代が高いからといって普段使うオフィスの暖房の使用を制限したせいで、従業員が体調を崩してパフォーマンスに支障が出るはめになっては、元も子もありません。削減によって起こるメリット・デメリットを考慮し、本当のムダはどれなのか、従業員の意見も参考にしながら検討することをおすすめします。

売上が足りない
そもそも売上が低ければ、赤字になります。黒字経営をおこなうために「最低でもいくら売上が必要なのか」を算出しましょう。そして目標値に対して売上が足りていないことがわかった場合には、売上が少ない理由の分析が必要です。競合の台頭や原材料費の高騰など、原因はさまざまだと思います。原因を洗い出したら、それぞれの対策を練っていきましょう。

また、売上が上がらない原因としてターゲット選定が間違っていることも考えられます。ペルソナ(ユーザー像)の設定は、自社の商品・サービスとズレていませんか?ターゲットへのアプローチは、適切な方法を選んでいますか?方向性が正しいかを見直してみると、きっと何かしらの改善点が見つかることでしょう。

始まったばかりの事業の場合、尚のこと軌道修正をする機会を適宜設けるべきです。

売上総利益率(限界利益率)が低い
経済産業省によると売上総利益率とは「売上総利益(粗利益)を売上高で除したもので、売上高に対する利幅を示す。この比率は、企業の収益性を判断するための基本的な指標の一つである。この比率が高いほど収益性は高くなる」とあります。粗利が少ないと、そこから光熱費や人件費などの経費を差し引いた際に赤字に陥ってしまう可能性が高まります。売上高に占める粗利の割合は業種ごとに一定の目安があり、グロービス経営大学院によれば「製造業で15〜60%、小売業で20〜30%程度」とあります。在庫を持たないサービス業などは、もっと高い割合になる傾向があります。

会社にとって事業規模はさまざまなので一概には言えませんが、業界平均などの数字をおおよその目安として、自社の利益が十分かどうかを一度確認してみましょう。

黒字化対策

事業を黒字化するために、いったい何から手を付ければいいか悩みますよね。
まずは、以下の四つの方法から検討することをおすすめします。

1. 競合の少ないマーケットを狙う
事業を黒字化させるためには、「どのマーケットで勝負するか」は非常に重要です。需要(顧客)よりも供給(競合)が多いマーケットは参入障壁が高く、後発で参入して黒字化させることは、大変険しい道のりになると想像できます。できることなら競争相手が少ないマーケットを選ぶべきでしょう。ここで気を付けるポイントとして、「競合が少ない=顧客ニーズがない」とも考えられます。事業立ち上げの際には市場調査をおこなうと思いますが、需要があるかどうかは念入りに調べましょう。

2. 固定費を抑える
黒字化を目指すなら、利益を上げることと費用を抑えることの二軸で対策を打つことが重要です。申し込んだもののほとんど使っていないサブスクリプションサービス、入ったままほったらかしになっている保険料のような「固定費」を抑えることは、赤字対策の基本だといっていいでしょう。

高い固定費の代表とも言える人件費に関していえば、新規事業立ち上げ時は多くのイレギュラー業務が頻発して人が足りなくなると考えられます。しかし、事業が始まり、仕組みが整えば、限られた人員でも運用することは難しくありません。最初の必要なときだけ多めに人を投入することで、人件費を抑えることが可能になります。社内のメンバーに一時的に加わってもらうことが難しい場合は、外部に委託することもおすすめです。

3.外部委託を活用する
前述したような繁忙期の一時的な外部委託だけではなく、継続的に苦手な業務を委託することは、会社にとって決して悪い選択ではありません。コスト面を懸念する経営者の方もいらっしゃるでしょうが、自社に得意なメンバーがいない業務をおこなうために新たに採用・育成をするには、一定の時間も費用もかかります。苦手領域は専門知識・知見をもつ外部の力を借り、得意な領域に力を注げば、それは新規事業成功の近道になることでしょう。外部委託をうまく頼ることは、むしろコストパフォーマンスが良い選択だといってよいかもしれません。

4. 早めに撤退判断ができるようにしておく
会社を経営するなかで、思いもよらない事態というものは付きものです。事業撤退の判断をしなければならない場面が今後起こる可能性は、大いにあります。無理に続けて赤字が膨らみ、既存事業にまで悪影響が出てからでは、遅いのです。ですから、あらかじめ撤退の判断基準を決めておき、いざというときには速やかに撤退の判断を下せるようにしておくことも、経営者として必要な備えです。

事業撤退の判断基準や撤退検討時の市場分析については過去コラムで詳しく話していますので、そちらをお読みいただければと思います。

黒字化出来ない企業の特徴

新規事業の黒字化を目指すためには、前述のような黒字化に導くポイントとともに、赤字から抜け出せない企業の特徴も知っておきたいところ。黒字化できない企業に共通している特徴として、ノウハウ不足や人選ミスが起きていることが見られます。

まず、新規事業立ち上げに必要とされるスキル・ノウハウは、既存事業と異なります。既存事業で培ったこれまでの成功経験があるがゆえに新たな事業に適さない方法を続けてしまい、結果として赤字になってしまう事態が起こることがあるのです。試行錯誤のなかで学ぶのももちろん大事ですが、予算や資金には限りがあります。とくに中小企業には、何度も失敗できるような余裕はない場合がほとんどでしょう。可能であれば、初期段階には立ち上げ経験の豊富なメンバーに加わってもらい、そのノウハウを共有してもらいながら進めていくことが理想的です。

似たような話になってしまいますが、新規事業立ち上げのとき人選ミスは赤字化の大きな要因のひとつになり得ます。何もない状態から新たに生み出すことを指す「ゼロイチ(0→1)」という言葉があります。立ち上げメンバーには、ぜひゼロイチが得意な方を選びたいところです。事業が軌道に乗ってからは、1から10へ伸ばすことが得意なメンバーと配置転換をすることも検討しましょう。

黒字化のポイント

新規事業を黒字化させるためには、自社の強みと弱みを見極めること、適材適所の人員配置、これらが大事なポイントだと言えるでしょう。

さらにもう一つ重要なポイントとして「PDCAサイクルをまわすこと」が挙げられます。Plan(計画)、Do(実行)、Check(検証)、Action(改善)をぐるぐるまわしていくことで、事業の黒字化に近づきます。まずは経費の削減目標や売上目標はいくらを目指すのか、できるだけ具体的な数字で決めましょう。黒字化達成に向けた計画、実行。おこなった結果の検証。最後に改善策を練ります。PDCAサイクルを正しくまわし続けることを徹底し、黒字化を目指しましょう。

まとめ

新しい事業を黒字化させるには、時間がかかる事も多く、事業を軌道に乗せるためには3年〜5年ほどの時間がかかる事も往々にしてあります。また、社長の皆さんが短期的な成果を求めてしまうことは事業失敗の確率を高めます。新しいことに挑戦しにくい空気が社内に広がり、会社の成長のためにも望ましくありません。一定の時間がかかるのは当然、ということをまずは理解しておいていただきたいなと思います。

ただし、楽観的になりましょうという意味ではありません。短期間での黒字化が難しいことは理解したうえで、立ち上げ時の市場調査やペルソナ設定、人選などを慎重におこない、各種数値目標を細かく定めて、計画的に事業をスタートしましょう。そうすれば、たとえ初期段階は赤字だったとしても、将来的に黒字化を目指すことが可能になります。赤字脱却の際には、ぜひ本コラムの内容を参考にしていただければと思います。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。