2024.02.07
【コラム】大規模が儲かるは嘘!? 小規模の方が儲かることを「倒産させないプロ」がこっそり教えます。
個人事業主の方がこれからさらに収入を増やしたいと考えている時、事業の規模を拡大していかなければならないと思いますか?確かに、会社の規模が大きくなるほど、稼げる可能性は高まります。しかし、規模を闇雲に拡大するだけが答えではありません。
規模とは何か、具体的には売上や従業員の人数、総資産額などで判断されますが、これらの数値を単純に追求して規模を大きくするだけでは、実は収益性が低下することもあります。時には、小さな規模の方が利益を出しやすいという事例もあります。
今回は、収益を増やすために規模を拡大する必要性と、その際に注意すべき点について話します。また、現在規模が小さい会社の経営者の方々も、規模を大きくしようと努力している方々も、小規模であることの利点や、それを活かす方法についても触れたいと思います。
この記事が、皆さんの会社の方向性を考えるきっかけになれば幸いです。また、すでに規模が大きくなってしまった方々にとっても、有益な情報が含まれているので、ぜひ参考にしていただければと思います。
規模拡大の誤解
売上が10億円の会社と1億円の会社があるとします。多くの人は、10億円の会社の方が利益が出やすいと考えがちです。確かに規模が大きい会社は、その分、稼ぐ可能性が高まります。しかし、これは必ずしも利益に直結するわけではありません。
例えば、売上1億円の会社が利益を10億円出すというのは現実的ではありませんが、売上が100億円の会社が10億円の利益を出す可能性はあります。しかしここで重要なのは、規模が大きければ大きいほど良いというわけではないという点です。規模を判断する基準は、売上金額、総資産の合計、従業員数など様々ですが、大きくするだけが経営の成功とは限りません。
特に、売上だけを追求して規模を拡大する会社は多いですが、それが必ずしも利益、つまり会社に残るキャッシュと直結するわけではありません。経営者のキャパシティを超えて売上を大きくすると、稼ぐ効率が落ちてしまい、逆に赤字に転落するケースも少なくありません。
ある建設業の場合
具体的な例を見てみましょう。売上1億円で利益が年間1,000万円の建設業の会社がありました。この会社は堅実に経営しており、安定して利益を出していました。しかし、経営者はより大きな規模を目指し、売上を10億円にすることを決意します。その結果、売上は10倍に増加しましたが、同時に経営に必要なコストも著しく増加し、利益率は大幅に低下しました。そして、この大規模な拡張は経営の効率を悪化させ、最終的には大赤字に陥ってしまいました。このように、売上の拡大だけを目指しても、それが必ずしも利益につながるとは限らないのです。
規模拡大は悪いことではありませんが、それがただの膨張であって成長ではない場合が多いのです。1億円の時に1,000万円の利益があったならば、正しく成長すれば10億円の売上で1億円の利益を出せるはずです。しかし、実際にはそうならないケースが多く見られます。大きくなることだけに注力し、結果赤字になるようなことが起こらないよう、注意が必要です。
規模を拡大したことでおこる問題
人件費と管理コストの増加
まず、売上を増やすためには多くの人材が必要になります。建設業界では「人がいなければ稼げない」という特性があり、業務拡大のために必要以上に人を雇用する傾向があります。しかし、人を増やせば増やすほど人件費が増え、それだけでなく、それらの人々を管理するコストも増加します。経理部や人事部などの管理部門の人員も増やさなければならず、これらのコストが売上増加のペースを上回ることが少なくありません。
大規模案件のリスク
建設業の特性上、大規模な案件を受注することは売上を大幅に増加させるチャンスですが、同時に大きなリスクも伴います。例えば、通常は数千万円規模の工事を行っていた会社が、売上を一気に増やすために数十億円の大型案件を受注することがあります。しかし、これまで経験してこなかった規模の案件には多くの未知数が伴い、計画通りに進まないことが多々あります。また、そういった大型案件をこなすためには、外注費も莫大になり、利益を圧迫することになります。
赤字工事の受注
さらに、建設業界には「赤字工事でも受注する」という問題があります。職人を遊ばせることができないため、利益率が低い工事や赤字工事であっても受注してしまうのです。これは、一時的に売上は増えますが、結果的には会社の利益率を下げることになります。
これらの点から、建設業に限らず多くの業種で見られる問題ですが、規模を拡大することが必ずしも利益増加につながるわけではないことがお分かりいただけるでしょう。経営者としては、規模拡大に伴うリスクを理解し、売上増加よりも利益率やキャッシュフローの健全性を重視することが重要です。規模拡大を目指す場合でも、それに見合った利益やキャッシュを確保できるような戦略を立てる必要があります。
経営者としての仕事は、ただ盲目的に規模を拡大することではなく、経営の安定と健全な成長を目指すことです。規模を大きくしても、最終的に赤字になってしまっては意味がありません。数字の管理に気を配り、戦略的な経営判断を行うことが求められます。
規模が小さい方が儲かる理由
なぜ小規模である方が効率的に利益を上げることができるのか、その理由を7つお話しします。
1. 効率的な収益
小規模な経営では、限られたリソースを最大限に活用し、選び抜かれた案件に集中することができます。これは、利益率の高い案件を効率的に選ぶことにつながり、結果として会社の収益性を高めることに貢献します。
品質維持による顧客満足度の向上
小規模な経営では、経営者の目が行き届きやすく、品質の維持が容易になります。この結果、顧客からの不満が減り、平均的な利益率が維持される傾向にあります。顧客満足度の向上は、長期的な顧客関係の構築にも繋がります。
需要と供給のバランスの重要性
小規模経営では、需要が供給を上回る状態を作り出すことが重要です。需要が高ければ、価格をコントロールしやすくなり、より高い利益を上げることが可能になります。案件を無理に増やすことなく、選び抜かれた案件に集中することで、効率的に収益を上げることができます。
2. コストがかからない
企業が成長し、規模を拡大する過程で直面する最も一般的な問題の一つが、人件費の増加です。事業が拡大すると、その運営にはより多くの人手が必要になります。新たにスタッフを雇用すると、人件費は固定費として恒常的に発生します。一度雇用してしまうと、簡単に削減することは困難で、この固定費は事業の利益に常に影響を与え続けます。
さらに、店舗ベースのビジネスの場合、店舗数の増加は家賃や管理部門のコスト増加を意味します。これには、経理や人事などの間接部門の人件費も含まれ、ビジネスが拡大するにつれて、これらのコストも比例して増えていきます。
固定費を抑えられる
一方で、小規模ビジネスは、これらの固定費を最小限に抑えることができます。必要最低限の人数と設備で運営することにより、余計な人件費や運営コストをかけずに済みます。結果として、小規模であっても、効率的に収益を上げることが可能です。
例えば、ある小規模カフェでは、オーナー兼バリスタと、数名のパートタイムスタッフだけで運営されています。限られた人数で効率よく業務を分担し、余計な人件費をかけずに、高品質のサービスを提供しています。このように、小規模ながらも賢く運営することで、コストを抑えつつ、顧客満足度を高めることができるのです。
3. 変化に対応しやすい
現代のビジネス環境は、予測不可能な変化に常に満ちています。特に中小企業経営者にとって、この変化に迅速に対応する能力は、生き残りをかけた重要な戦略です。
急速な変化の時代と大規模ビジネスの課題
技術の進歩は、多くの業界で既存のビジネスモデルを根底から覆します。例えば、自動運転技術が実用化されれば、タクシー会社や運転手の仕事は大きく変わる可能性があります。このような状況下では、事業の方向転換が不可欠になります。
しかし、大規模な企業では、新しい変化に対応することが困難です。多くの従業員、広範な設備、そして既存のビジネスモデルへの固執が、変化に対する抵抗となります。例えば、トヨタ自動車が突然車の製造をやめてネットゲームの販売に転換しようとした場合、多大な反発、膨大な設備の調整、そして方針転換に伴う混乱が予想されます。
小規模ビジネスの柔軟性と迅速な対応
一方、小規模ビジネスは、そのスケールの小ささが大きな強みとなります。経営層と従業員の距離が近く、意思決定のプロセスが迅速です。3人で運営する小さな飲食店であれば、今日はレストラン、明日からはエステサロンに事業内容を変えることも可能です。このような柔軟性は、大規模企業では実現が困難です。
ある小規模なアパレルショップは、急に流行したエコフレンドリーな素材へと製品ラインを切り替えたケースがあります。小規模ならではの迅速な意思決定と柔軟な対応力により、新しい市場のニーズに合わせて、すぐに製品ラインナップを更新することができました。
変化の速い現代において、小規模ビジネスが持つ迅速な変化への対応力は、非常に大きなメリットです。少数精鋭で運営されるビジネスは、新しいチャンスを捉える柔軟性とスピードを持っています。
4. リスクの低さ
リスク管理は成功への重要な鍵となります。特に中小企業経営者にとって、事業のリスクを適切に把握し、コントロールすることは、安定した経営のために不可欠です。
大規模企業では、総資産が数十億、数百億と莫大です。事業に失敗した場合、その損失もまた巨額になりうるため、リスクの重みは非常に大きくなります。一方、小規模ビジネスでは失敗しても受けるダメージは相対的に小さくなります。
小規模ビジネスのリスク管理の利点
小規模ビジネスの場合、事業の方向転換がしやすく、市場の変化に柔軟に対応できることが大きなメリットです。これは、リスクを抑えつつ、新たなビジネスチャンスを迅速に捉えることが可能であることを意味します。
例えば、ある小規模なカフェは、トレンドに合わせてメニューをこまめに更新し、顧客のニーズに合わせたサービスを提供することで、リスクを最小限に抑えつつ、収益を安定させています。このように、小規模ビジネスでは、事業の方向を素早く変え、新しい市場に対応することで、リスクをコントロールしつつ成長を図ることができます。
ビジネスのスケールが小さいことによる柔軟性と迅速な対応力は、不確実なビジネス環境の中で生き残るための大きな武器となります。
5. 人間関係のトラブルが少ない
組織内の人間関係は事業運営における重要な要素です。組織が大きくなるにつれ、人間関係の複雑さは増し、それに伴うトラブルも多くなりがちです。
組織の規模と人間関係のトラブル
人数が増えると、自然と派閥やグループが形成されることがあります。これは政治の世界だけでなく、ビジネスの場でも同様です。たとえば、ある部門が自分たちの利益を最大化しようとする一方で、他の部門との競争が激化し、結果として会社全体の利益に影響を及ぼすことがあります。これらは、大規模な組織特有の問題です。
一方、小規模ビジネスでは、組織のメンバー同士が密接に連携し、一体感を持って仕事に取り組むことが多いです。小規模ながらも一丸となって目標に向かうことで、無駄な内部競争を避け、組織全体としての成果を最大化することが可能です。
小規模ビジネスのコミュニケーションの利点
小規模ビジネスでは、経営者と従業員間、また従業員同士のコミュニケーションが密です。情報の伝達が迅速であり、誤解や不明点を即座に解消できるため、トラブルが発生しにくい環境が整っています。
例えば、ある家族経営のレストランでは、経営者が厨房に立ち、スタッフと直接コミュニケーションを取りながらサービスを提供しています。このような環境では、問題が発生した際にも迅速に対応し、スタッフ間の調和を保つことができます。
小規模ビジネスは、組織内の人間関係のトラブルが少ないという大きなメリットがあります。スタッフ間の距離が近く、コミュニケーションが密に行われるため、トラブルの未然防止や迅速な解決が可能です。
6. 迅速な顧客対応
顧客対応の速さは顧客満足度に直結し、その重要性は計り知れません。
顧客クレームと迅速な対応の重要性
顧客からのクレームやフィードバックに対する企業の対応は、顧客の不満を解消し、信頼関係を築く上で重要なポイントです。適切に対応されないクレームは、顧客の怒りを増幅させ、最悪の場合、ビジネスへの悪評が広まる原因となります。特にSNSが普及した現代では、一つのネガティブな意見が瞬時に大きな影響を及ぼすこともあります。
小規模ビジネスの対応の柔軟性と速さ
小規模ビジネスでは、経営層が直接顧客と接する機会が多く、問題発生時の対応も迅速です。例えば、ある地域密着型のカフェでは、オーナーが直接お客様のクレームを受け、即座に解決策を提供します。このような対応は、顧客の信頼を得るだけでなく、口コミによる良好な評判を生むことにもつながります。
大規模な組織では、クレームが上層部に報告されるまでに時間がかかることや、階層を経るたびに情報が歪んでしまうリスクもあります。しかし、小規模ビジネスでは、意思決定のプロセスがスリムで、顧客の声に直接、迅速に耳を傾けることができます。
小規模ビジネスの迅速な顧客対応は、顧客満足度の向上、信頼関係の構築、そして長期的な顧客ロイヤルティの確保に非常に効果的です。経営者が直接顧客とコミュニケーションを取ることで、顧客のニーズを深く理解し、ビジネスの成長に繋げることができます。
7. 顔が見える経営
ビジネスの世界において、顧客との関係性は非常に重要です。「顔が見える経営」は、顧客との信頼関係を築く上で大きなメリットとなります。
顔が見える経営の重要性
顧客が商品やサービスを選ぶ際、多くの場合、個人や経営者との関係性が重要な決定要因となります。大規模企業では、個々の顧客との直接的な関係を築くことは難しく、顧客は企業の「顔」を感じることができません。これに対して、小規模ビジネスでは、経営者やスタッフの顔が見え、個々の顧客と深い関係を築くことが可能です。
小規模ビジネスのパーソナルな接客
例えば、地元で夫婦が経営するハンバーガーショップでは、経営者自身が顧客と直接対話し、その人柄やサービスを通じて顧客の心を掴みます。こうしたビジネスでは、顧客は単に商品を購入するのではなく、「その人だから買う」という気持ちで来店します。これは大規模なチェーン店では真似できない、小規模ビジネスならではの強みです。
規模拡大の落とし穴:ステーキ店の失敗事例
この事例は、一度は成功したステーキ店が急速な拡大を試みた結果、失敗に終わった実際のケースです。最初は顧客のニーズに合致し、高い回転率とリーズナブルな価格で効率的に利益を上げていました。しかし、店舗数を急激に増やした結果、自店同士の客の奪い合いが発生し、各店の売上が大幅に下落しました。多くの店舗が赤字に転落しました。
また、肉マイレージという顧客ロイヤルティプログラムも導入されていましたが、ランクが上がるとドリンクが無料になるなどのサービスが提供され、利益率が低下しました。このシステムの改定により、多くの常連客を失う結果となりました。
この失敗の要因として、以下のポイントが挙げられます:
- 同じ地域で競合店舗がお互いの売上を奪い合った。
- マイレージ制度の運用に課題があり、ヘビーユーザーへの無料サービスによる利益低下が発生。
- 成長に見合った数字管理が行えず、経営状態が急激に悪化。
まとめ
ビジネスの規模拡大は確かに多くの経営者が追求する目標ですが、成功への道は規模の拡大だけではありません。経営者の皆様には、自身の成長とビジネスの成長を調和させ、管理可能な範囲内で計画的にビジネスを拡張していくことをお勧めします。
小規模であっても、そのビジネスに独自の価値を見出し、顧客との深い関係を築くことができれば、そのビジネスは確実に成長し、長期的には大きな成果をもたらすことでしょう。
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