2025.11.30

【コラム】中小企業の財務戦略は4つの視点で考える!経営戦略との違いも解説

財務戦略は、中小企業にとって自社の経営とも密接で、今後の自社の発展を左右するといっても過言ではありません。

この財務戦略を4つの視点で多面的に捉えると、抜けのない計画立案につながります。また、経営戦略との違いを正確に把握することで、より効果的な戦略を策定しやすくなるでしょう。

そこで今回は、中小企業が考えるべき財務戦略の4つの視点や、経営戦略との違いについて詳しく解説します。

1:財務戦略の意義

財務戦略とは、企業が資金の流れや投資の方向性を定め、経営目標の実現のために資金計画を体系的に構築することです。企業の成長には、単なる資金調達や経費削減ではなく、「ヒト・モノ・カネ・社会環境」の総合的な視点が求められます。

特に、資金や人材が限られている中小企業にとって、財務戦略は企業の存続を左右するといっても過言ではありません。財務戦略を策定する際は、利益を生み出す仕組みづくりや経営資源の配分の明確化によって、日々の意思決定に一貫性を持たせることも重要です。

2:経営戦略との違い

財務戦略と経営戦略の違いについて説明しましょう。財務戦略が「資金の戦略」に特化するのに対し、経営戦略は、企業全体の方向性や市場での立ち位置を定める「全体戦略」です。

たとえば、「どのように資金を調達し、どのタイミングで回収するか」という財務戦略の基盤には、「新規事業を立ち上げる」という経営戦略があります。

この両者の関係を整理すると、財務戦略が「どう実行するか」に焦点を置き、一方、経営戦略は「何をするか」を重視する構造です。日本の中小企業では、経営者がこの2つの立案を兼ねていることが多く、境界が曖昧になる傾向も見られます。

しかし、資金面の裏づけがなければ、どのような経営的な構想も実現できません。経営戦略と財務戦略をうまく連動させることが、企業の成長を安定させる鍵となるでしょう。

3:【人】の視点から考える財務戦略

【人】の視点から考える財務戦略は、自社の労働生産性の向上には不可欠です。この章では、そんな【人】の視点から捉えた3つの財務戦略について説明しましょう。

3-1:人材確保

「人財」ともいうように、従業員は、中小企業にとって最も重要な資産です。定着率を高め、自社の労働生産性と直結させるには、優秀な人材を確保しなければなりません。給与や賞与などの待遇面だけでなく、働きやすい職場環境やキャリアパスの明確化にも目を向けましょう。

資金が限られる中小企業にとって、無計画な投資はリスクだけが増えてしまいます。また、採用活動にかかるコストは、自社の将来に向けた「投資」と捉え、長期的なサイクルでリターンを見据える姿勢も必要です。

採用広告費や紹介手数料を短期コストではなく、「人材資本への投資」として財務戦略に組み込むと、将来的な離職リスクの低減につながります。

3-2:社員教育

社員教育などの人材育成にも、財務的な視点が必要です。たとえば、研修費や社外セミナーへの参加費は、短期的に見れば支出ですが、将来の自社の企業価値を高める投資ともいえます。

定量的に教育効果を測定するには、「教育投資回収率(ROI)」などの指標の活用が効果的です。組織全体のスキルが高まれば業務効率や売上向上につながり、結果として利益率の改善も期待できます。

3-3:リーダーシップ

中小企業では、経営者や管理職のリーダーシップが財務戦略を大きく左右します。組織全体で自社の財務状況を共有すれば、目の届かない現場のリスクも回避できるでしょう。

経営者自身も率先して資金管理を実践し、定期的に従業員と情報を共有する必要があります。自社の財務状況の開示は、従業員への信頼を示すものであり、結束力や協力体制を強化できるでしょう。

従業員に資金管理を丸投げするのではなく、リーダー自ら日頃から自社の財務状況を把握することで、危機的事態に陥っても迅速に判断できます。

財務戦略とリーダーシップをうまく連動させ、従業員という「人財」を最大限に活かして強い組織体制を構築しましょう。

4:【物】の視点から考える財務戦略

自社の設備や資産に直結する【物】の視点は、組織の活動性を高める意味でも重要です。この章では、物理的な資産の【物】にフォーカスし、3つの財務戦略について説明します。

4-1:設備投資

設備投資は、特に中小企業の発展に欠かせない重要な要素である反面、自社の財務や資金繰りを圧迫するリスクを伴います。

とはいえ、老朽化した設備を修繕して使い続けるよりも、効率性の高い新設備を導入したほうが、長い目で見れば費用対効果を見込めるケースも少なくありません。

財務戦略と設備投資を連携させるためにも、投資の必要性を客観的に判断し、補助金の活用やリース契約なども検討しましょう。実際、多くの中小企業は、国交省や経済産業省、環境省など公的機関の補助金制度を活用しています。

投資額と売上増・コスト削減の関係を表す「ROI(投資利益率)」なども活用し、無理のないタイミングと規模で実践しましょう。

4-2:サプライチェーン

財務戦略を策定する際は、サプライチェーン(供給網)にも注意が必要です。特に、中小企業の場合は、自然災害による物流の遅延や原材料の供給停止、取引先の倒産などが命取りになりかねません。

仕入れ先を複数に分散させ、取引先との関係を強化させましょう。また、日頃から取引先との信頼関係を構築しておけば、危機的状況下で優先的に対応してもらえる可能性も高くなるでしょう。

今後ますます進むグローバル化社会では、サプライチェーン・リスクの回避が不可欠です。自社の物の流れを正しく理解し、事業がうまく循環するよう財務戦略を策定しましょう。

4-3:資産管理

企業には在庫や設備のほか、土地や不動産、車両などの資産があります。財務戦略では、これらの資産を適切に管理し、経営の安定を図ることが重要です。

この資産管理を軽視すると、思わぬリスクの連鎖を招く可能性があります。過剰在庫で資金繰りが悪化し、設備の故障による顧客離れなどの連鎖で、ある日突然、倒産しないとも限りません。

まずは、資産の棚卸しで自社の資産を確認しましょう。過剰在庫を整理し資金化すれば、手元の資金が増えてキャッシュフローも改善します。

設備や車両の故障リスクに備え、財務戦略にメンテナンス計画を取り入れるのも効果的です。このほか、眠っている資産の売却やレンタルによる自社資産の活用は、新たな資金につながるでしょう。

5:【金】の視点から考える財務戦略

この章では、【金】の視点で捉える安全性を踏まえ、中小企業に有効な3つの財務戦略について説明します。

5-1:キャッシュフロー

まずは、キャッシュフローの最適化を図りましょう。中小企業に限らず、経営では売上を重視しがちですが、自社の現金の流れをつかむと黒字倒産のリスクの回避にもつながります。

キャッシュフローの管理は、企業の財務戦略の基本といって差し支えありません。実際、キャッシュフローを把握しておけば、資金繰り悪化のリスクを抑えられるでしょう。

最適化するには、流入を増やして流出を抑える必要があります。売掛金の早期回収や固定費の見直しなども必要です。また、月次のキャッシュフローで資金の不足するタイミングを予測することで、リスクを大幅に軽減できるでしょう。

5-2:資金確保

資金確保でリスクに備えるのも、効果的な財務戦略です。中小企業の資金調達は選択肢も限定され、昨今の長引く物価高騰もあり、入念な資金計画が不可欠です。

前述の公的機関の補助金や助成金制度は、設備投資のみならず、販路拡大に活用できる持続化補助金や雇用関係の助成金、さらには自治体が実施する創業・事業承継補助金など用途も多岐にわたります。自社の戦略に合わせて、活用するとよいでしょう。

このほか、不特定多数の人から資金を募るクラウドファンディングという手法を活用するのも一案です。金融機関の資金調達に限定せず、資金確保の選択肢を広げておきましょう。

5-3:管理会計

実効性のある財務戦略には、管理会計も欠かせません。経営者が自ら営業を兼ねることの多い中小企業では、感覚的な経営判断を重視しがちです。しかし、未来志向で会計データを活用すれば、リスクヘッジの精度向上も期待できます。

財務諸表のデータを定期的にチェックすれば、自社課題も早期に発見できるでしょう。また、データ処理で異常な数値や売掛金の入金遅延が見つかった場合も、速やかに対処できます。

今後の閑散期に備え、過去のデータから売上の変動分析で資金をプールしておけば、経営も安定するでしょう。データ化を進めれば、人的ミスの回避にもつながります。

6:【社会トレンド】から考える財務戦略

この章では、成長性を見越して【社会トレンド】の3つの観点から考える効果的な財務戦略を紹介しましょう。

6-1:デジタル化

前章の管理会計でも触れましたが、今やデジタル化と財務戦略との融合は、業務の効率化を図る意味でも必須といえます。実際、資金面でも人材面でも、デジタル化の遅れが課題となっている企業も多いようです。

Googleドライブなど、市場に無料で出回っているクラウドツールを活用すれば、低コストでデジタル化を実現できます。公的機関の補助金・助成金の活用も検討しましょう。

所轄制度名主な内容
中小企業庁IT導入補助金会計・在庫・予約管理などのITツールの導入支援
同上中小企業省力化投資補助金省人化・省力化を目的とするIT投資
同上ものづくり補助金(デジタル化枠)デジタル化を含む設備投資

このほか、東京都の中小企業のデジタルツール導入にかかる費用の助成、大阪府のDX推進事業など、各自治体でもIT化・DX化を推奨しています。管轄の自治体の公式サイトで、実施している制度を確認してみましょう。

6-2:経済変動

インフレや為替変動、景気後退などの経済変動に対応するには、財務戦略が欠かせません。実際、コロナ禍以降の原材料高騰によるコスト増で、利益を圧迫された中小企業も多いことでしょう。

経済変動には、予測不能な面もあるため、柔軟に対応できるようなコスト管理が重要です。人件費の成功報酬制への変更や固定費の削減の見直しも、コスト削減につながります。顧客維持のため、予備資金も確保しておきましょう。

また、経営者として、業界レポートや経済指標などを基に、費用や売上の変動など市場を予測し、自社の資金コストの抑制を図る姿勢も必要です。経済の波を的確に捉え、リスクヘッジを強化しましょう。

6-3:持続可能

昨今は、社会的に持続可能性(サステナビリティ)が重視されています。これは、財務戦略とも無関係ではありません。

実際、2016年から本格的にスタートしたSDGsもあり、環境や社会に配慮する企業を支持する傾向です。環境対応への投資は、エネルギーや資源コストの抑制効果を期待でき、将来的にコスト削減や資金繰りの安定にもつながるでしょう。

また、従業員満足度の向上や地域貢献は、社会的な信頼構築に直結します。持続可能性を自社のチャンスを広げる戦略として捉え、財務戦略にうまく組み込むことでリスクヘッジの精度も高まるでしょう。

まとめ

財務戦略は、人・物・金・社会トレンドの4つの視点で捉え、リスクを管理しながら強い企業基盤を作るうえで不可欠なものです。

特に中小企業では経営戦略との境界が漠然となりがちですが、資金面からの財務戦略を重視することで、より大きな成果を期待できます。今回紹介した4つの視点から財務戦略を網羅的に実践し、リスクヘッジへとつなげましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。