2023.11.01
【コラム】撤退こそ戦略の要!経営者が見極めるべき経営判断のポイントとは?
経営者の仕事には、従業員に任せてよい仕事もあれば、経営者がすべき仕事もあります。
しかし、経営判断は基本的には経営者にしかできません。
リソースの問題で難しい面はあるかもしれませんが、本来、経営者は自分にしかできない仕事にこそ集中すべきです。
特に、事業のスクラップ、つまり撤退は、最も難しい経営判断のひとつであり、適切におこなわなければ後で取り返しのつかないことになるでしょう。
本記事では、企業における事業の撤退を中心に、経営者が見極めるべき経営判断のポイントについて解説します。
目次
1.新規事業の5つの壁
企業が新規事業を立ち上げた際、どんなに努力を続けても失敗することはあります。むしろ、失敗するほうが多いかもしれません。
なぜなら、そもそも新規事業の立ち上げには、5つの壁があるからです。
1-1. 人材不足
新規事業に関する専門的な知識やスキルを持っている人材が自社にいない場合は、失敗する可能性があります。
また、チームの人数が多くて意思の疎通ができない、指揮系統が届かない、または、人数が少なくてノウハウを活用できないなど、人数や配置で失敗するケースも少なくありません。
新規事業のスキルを持っている人やリーダーとしての統率力を発揮できる人など、適切な人材と人数の配置が重要です。
1-2. 資金不足
資金不足も、失敗する要因の1つです。
事業を立ち上げ、安定して資金を調達できるまでには時間がかかります。
途中で資金が尽きて撤退することがないよう、必要に応じて公的機関からの支援金や助成金なども事前に調べておきましょう。
1-3. 調査不足
事前の市場調査が十分でない場合も、途中で事業が立ちゆかなくなる可能性があります。
準備が万全でも、新規事業で提供する商品やサービスが顧客のニーズと合わなければ、成功したとはいえません。
「よい商品やサービスは売れる」というのは昔の話です。特に、グローバルな現代社会では時代やトレンドの変化が激しいため、事前調査による正確なニーズの把握が大切です。
このほか、調査不足により、自社ブランディングやコンセプトを明確化せずに推進した場合も、失敗のリスクは高くなりますので注意しましょう。
1-4. スピード不足
せっかくの新規事業も、準備に時間がかかり、競合他社に先を越されれば需要が下れば失敗する可能性は高くなります。
市場調査で顧客のニーズを正確にとらえたら、速やかに事業を展開すべきでしょう。
また、競争の激化する時期や商品・サービスの認知度が低くて世間に浸透していない時期、トレンドが去って需要が下がり始めた時期を回避することも重要です。
1-5. 経験不足
経験不足も、新規事業の大きな壁といえます。
事業を始める際は、商品・サービスに加えて包括的なノウハウが必要です。
データ分析力や営業力、マーケティング力やIT技術などを駆使しなければ、事業は長続きしません。
特に、明確なマネタイズモデルを確立せずに立ち上げた場合は、途中で資金不足になるリスクがあります。
とはいえ、マネタイズプランに力を注ぎ、肝心な製品やサービスに十分な資金を配分できないようでは本末転倒です。
バランスよく資金を配分するとともに、資金の回収方法をしっかり確立しておきましょう。
2.撤退こそ戦略の要
経営者が撤退という経営判断を下すのは容易ではありません。
実際、新規事業の立ち上げ、継続、撤退の3つを難易度の難しい順に並べれば、間違いなく「撤退⇒立ち上げ⇒継続」という順番になるでしょう。
「継続」は、何の判断もいらないため最も楽な選択肢です。また、「事業の立ち上げ」も内容によって難易度は異なるものの、撤退とくらべれば容易におこなえます。
しかし、事業を撤退するという意志決定は、この2つにくらべてハードルは高いでしょう。
なぜなら、新規事業が思うように進まず利益が見込めない状態でありながら、これまでに費やしたお金や労力、時間などを惜しんで撤退の意志決定が遅れる場合があるからです。
大規模企業の場合は人的リソースや金銭的な余裕があるため、新規事業の利益率に改善が見込めないとしても、しばらく継続するケースもあるでしょう。
しかし、赤字の続いている事業を継続しても、ある日突然に状況が好転する可能性はけっして高いとはいえません。
経営者は、対象となる事業で利益を得られないと分かった時点で、会社存続のために速やかに事業から撤退するか、問題に対処するなどの改善に取り組まなければなりません。
だからこそ、適切なタイミングで事業を撤退するという判断は、「経営戦略の要」となるのです。
3.事業撤退が意味するもの
ほとんどの経営者は、事業を立ち上げた以上、すべて成功させたいと思うものです。最初から失敗するために事業を立ち上げるという人は、まずいないでしょう。
また、一度立ち上げたからには、事業を成功させるために最大限の努力をするのも、むしろ当然のことです。
しかし、時にはどんなに努力しても「うまく行かない」ことがあります。それが分かった段階で、経営者は致命傷になる前に撤退するという経営判断を下す必要があります。
事業の撤退は、見方を変えれば、「そのやり方ではうまく行かない」というデータを取れたという意味では「成功」といえるのです。
会社を倒産に追い込むほどの致命傷となる失敗でなければ、そのデータを元に、次はもっと成功する確率を上げて事業に取り組むことができます。
経営者は、撤退という判断において、タイミングを逃すことこそが失敗であり、撤退自体は失敗を意味するものでないとの認識を持つべきでしょう。
4.事業展開のプロセス(スクラップアンドビルド)
新規事業を立ち上げた後は、事業展開のプロセスを順を追って踏むことも重要です。
特に、複数の事業や多店舗を展開をしている企業の場合は、収益を生み出す部門ごとの業績をしっかり把握しておく必要があります。
さらに、赤字かつ改善の見込みがないことが分かった段階で、対象となる事業についてはスクラップ、撤退しなければなりません。
撤退した事業のリソースで別の新たな事業を始めたり、新店舗を作ったり(ビルド)することで、企業全体の利益につながります。
間違っても、不採算部門を残し、その赤字の穴埋めを他の部門の利益から充当するようなことをやり続けてはいけません。
うまく行っていないにもかかわらず事業を継続し、損失を垂れ流し続けていれば、最終的には倒産という形で会社自体が撤退に追い込まれ、挑戦すらできない状態になるからです。
そうならないよう、事業展開の一環としてスクラップアンドビルドを定期的におこない、全ての部門で利益を出すとの姿勢を大事にしましょう。
5.経営者が見極めるべき経営判断のポイント
経営者が見極めるべき経営判断のポイントは、大きく分けて4つあります。
5-1. 目標達成度の確認
1つ目のポイントは、目標達成度の確認です。
重要業績評価指標を意味する「KPI(Key Performance Indicator)」によって、企業が目標を達成する際のプロセスや行動の評価を数値化することで、目標の達成度を客観的に確認できます。
指標を見える化すれば、対象となる事業で競合他社と対等に渡り合えるかどうかなどの判断材料にもなるでしょう。
5-2. 達成度指数の設定
達成度指数の設定も、重要なポイントの1つです。
KPIで顧客数や発注数の目標に達していれば、赤字や損失があっても事業の継続を判断することがあります。
これに対し、事業を撤退するか否かについて会計上の損益や投資の回収率で判断する場合は、利益を出していることが最低条件になるでしょう。
そこで、「3年以内に黒字を出せない」「投資額が規定ラインを上回る」場合は事業を撤退するなど、具体的な達成度指数の基準を設けると、撤退のタイミングを逃さなくて済みます。
新規事業を立ち上げる際は、評価の精度を高めるためにも、初期投資を計算に入れるか、ほかの事業と共通するコストを計上するかなど、評価やコストに盛り込む範囲の基準を事前に設定しておきましょう。
5-3. 外部要因の可視化
外部要因の可視化も、経営判断の大切なポイントです。
なかには、わずかでも利益が出ている、または、損失の額が少ないなど、会社の経営に大きく影響しない事業については、継続と撤退を迷うケースもあります。
そんなときは、市場における成長性やシェア率の高さなど、外部要因を考慮するとよいでしょう。
判断する時点で市場のシェア率が低く、将来的に成長性を見込めない事業は積極的に撤退を検討すべきです。
しかし、シェア率の高い事業の場合は、将来的に大きな成長性を見込めなくても、企業にとっては貴重な収入源といえます。
また、市場シェアが低いからといって、市場における成長性を見込める事業をすぐに撤退と判断するのは時期尚早です。
このようなケースを判断する際は、過去のデータを念頭に置きながら、下記の計算式を用いて市場シェア率と市場成長率の伸び率を確認してみましょう。
・市場シェア率(%)=自社市場での売上または販売数/市場の総売上または総販売数
・市場成長率(%)=今年度の市場の総売上/前年度の市場の総売上
将来的に収益源を見込める数値が出た場合は、一時的に赤字や損失を出すことになりますが、撤退ではなく追加投資も選択肢の1つになります。
5-4. 自社の現状把握
自社の現状把握も、経営判断を大きく左右するポイントです。
SWOT分析をおこなえば、自社リソースなどの内部要因を把握できます。
具体的には、外部環境または内部環境を強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats) の4つのカテゴリーに分け、目標達成の意思決定を必要とする組織や競合、プロジェクト計画などに関連する脅威の要因を分析するものです。
このSWOT分析は、事業の環境変化に対応した経営資源を最適に活用するために有効な経営戦略の策定方法の一つで、内部と外部の双方の視点から客観的に判断できます。
分析の結果、自社の弱みと外部要因の脅威が重なっている場合は、積極的に事業の撤退を検討すべきでしょう。
6.他社から学ぶ事業撤退の成功事例3選
適切なタイミングでの事業の撤退や転換は、企業がさらなる成長を遂げるための鍵となることがわかります。
この章では、実際に事業撤退で成功した事例3選をご紹介します。
6-1. Apple
1990年代に多様な製品ラインを持っていたApple社は、CEOとして復帰したSteve Jobs氏のもとで製品のシンプル化を図りました。その結果、集中してiMac・iPod・iPhoneなどの革命的な製品を開発・発売し、再び業界をリードする存在となりました。
6-2. Adobe
ソフトウェアをボックス製品として販売していたAdobe社は、クラウドベースのサブスクリプションへとビジネスモデルを大きく転換しました。当初はリスクを伴いましたが、後に安定した収益と高い成長率をもたらし、企業の評価も大きく上がりました。
6-3. ファーストリテイリング
株式会社ジーユーや株式会社ユニクロで知られるファーストリテイリング社は、1997年に派生業態「スポクロ」「ファミクロ」を出店しましたが、ユニクロとの違いを見出せずに1年以内に撤退しました。
その後、2000年代前半に立ち上げた野菜販売事業「SKIP」でも安定供給が難しく、1年半後に撤退しています。
しかし、このような撤退を繰り返し、現在はユニクロ社とジーユー社を中心に成長を続けています。
まとめ
経営判断のなかで、特に撤退時期を正しく判断するには、正確な数字をタイムリーに把握することが必要不可欠です。
記帳代行では実現しないため、把握できていない企業は、手始めとして自社における経理体制(経営管理体制)の構築から始めてみましょう。
現代社会のめまぐるしい変化のなかで、経営者が事業の撤退をタイミングを逃さず判断するためには、日頃から対応できるよう準備しておくことが大切です。
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