2023.06.15

【コラム】スタートアップ企業における経営コンサルティングの役割

経営コンサルティングとは

1.1  スタートアップ企業における経営コンサルティングの重要性

大企業に比べて圧倒的にリソースが不足した状態で事業活動をおこなうスタートアップ企業。そんなスタートアップにとって、ひとつの課題が経営に与える影響は甚大です。あるアイデアによって会社全体が良くも悪くもガラリと変わることがあります。もしも経営者であるあなたが会社の異変に気付いたとして、その原因を特定できなければ手の打ちようがないはず。たとえ特定できたとしても、本来の業務をおこないながら有効な打ち手を考えて実行にまで落とし込むには、大変な労力がかかります。これらの手に負えないような課題に直面したときの有効な選択肢のひとつが「経営コンサルティング」です。 

1.2 経営コンサルティングの基本的な役割

経営コンサルティングの基本的な役割は、アドバイスと実行です。経営状況の把握だけでなく課題の特定や解決のために何をすべきかといった具体的なアドバイスをおこないます。冷静に現場の状況を把握・分析し、第三者的視点からの提案が期待できます。そのほかにも経営戦略・会計系の財務戦略、組織人事系の企業体質の改善なども経営コンサルティングの役割です。

スタートアップ企業の課題と経営コンサルティング

2.1 資金調達の支援と投資家の説得

事業が立ち上がったばかりで資金も人員も少ないスタートアップ企業における目下の課題といえば、財務戦略面にある場合が多いことと思います。事業・組織の成長に向けた経営戦略を進めるためには資金面を充実させる必要があります。

多くのスタートアップ企業にとって主流となっている調達方法は、投資家から出資してもらう「エクイティ・ファイナンス(以下、エクイティ)」です。エクイティとは「新株発行、CB(転換社債型新株予約権付社債)など新株予約権付社債の発行のように、エクイティ(株主資本)の増加をもたらす※」資金調達方法です。原則として返済期限の定めがありません。

エクイティでは、株主・投資家に対する合理的な説明やコミュニケーションが欠かせません。いつ・どのようなタイミングでどれぐらいの株価で調達をするのか、調達額を踏まえながらエクイティストーリーを検討する必要があります。
どのような投資家がいて、各々どれぐらいの持分で出資していただくのが望ましいのか、戦略や投資家の特徴から検討していくことも重要となってきます。
投資家を大別すると、出資を通じて自身のファンドを運用する目的であるベンチャーキャピタル(以下、VC)、業務提携と出資をおこなうコーポレート・ベンチャーキャピタル(以下、CVC)、そして個人投資家であるエンジェル投資家の3つに分けられます。
たとえばVCからの出資受入は、VCの戦略を自社の戦略に合わせて検討する必要があります。また、VCから取締役などが派遣され、会社のアドバイザーとして経営に深く関与するスタイル「ハンズオン」での連携が考えられます。出資額の大小だけではなく、自社の経営に及ぼす影響もさまざまです。

新株を発行せず経営権も付与しない方法として、「デット・ファイナンス(以下、デット)」による資金調達も考えられます。これは金融機関から融資してもらう方法で、新株発行を伴わないということは既存株主の持株の希釈化を防ぐ手段でもあるということ。ただ、銀行などの金融機関は黒字の企業に対してデットをおこなうことが一般的です。ところがスタートアップ企業の多くは創業赤字であることから、デットによる調達は困難だという実態があります。

スタートアップ企業の資金調達環境は数年前に比べるとよくなってきているとはいえ、効率的に資金調達をしようとするには時間も労力もかかります。スタートアップ企業にとって、早い段階で取り組むべき重要課題のひとつだと言えるでしょう。
※引用:野村証券

2.2 ビジネスモデルの構築と改善

ビジネスモデルの構築と改善に課題を持つ会社も多いようです。ビジネスモデルの構築は以下のようなステップに従って進めることが一般的です。

最初に、問題の特定と顧客のニーズを把握します。解決すべき問題や顧客のニーズを明確にし、市場調査やユーザーインタビューなどをおこない、世の中で解決すると喜ばれそうなことや求められていることを掴みます。

次に、ターゲット像を明確にします。誰に対してどんなニーズに応えるサービスなのかがぼんやりしたままでは、提供できる価値もあいまいなままになります。ですから、この段階でどんな人に使ってほしいのか、使った人にどうなってほしいのかを明確にすることは大変重要です。

ビジネスとしてやる以上、収益の流れも考えないわけにはいきません。どんな方法で顧客からお金を支払ってもらうかは重要です。必要とされるモノ・サービスを長く提供し続けられるために、会社の利益を確保できる価格を、設定しましょう。

その後、コスト部分についても検討します。新しい事業には各リソースが必要となり、すべてを新たに揃えるのはそう簡単ではないと思います。自社の既存事業で用いているインフラを活用できるものの有無は、徹底的に検討するべきです。

上記のようなビジネスモデルの構築を、自社内の、本来の業務があるメンバーが片手間におこなうのは、なかなか厳しいものがあります。しかも、そもそもの調査が甘いと、それをもとにしてつくるビジネスモデルも世間やターゲットからズレてしまい、成功の可能性が低くなってしまうかもしれません。

2.3 マーケット分析と競争戦略の策定

新規事業の成功率を高めるため、立ち上げ前にはマーケット分析をおこないます。その際、「3C」や「4C」などのフレームワークが使われることが多いようです。
3C:Customer(顧客)・Company(自社)・Competitor(競合)の3つを分析する手法。
4C:Customer Value(顧客価値)・Cost(コスト)・Convenient(利便性)・Communivcation(コミュニケーション)の4つを分析する手法。

そして競争戦略とは、「業界において有利な市場地位(ポジション)を確保するために、他社とは異なった独自の戦略行動を選択し、自社のポジションを改善すること※」。まずは自社の置かれている状況やマーケット、そして競合を知ること。その次に、いかにターゲットとするお客様に商品を届けるかを考えましょう。

ご紹介したフレームワーク自体はご存知の方が多いかもしれませんが、実践で使用したことのある方がどれくらいいるでしょうか。慣れない方にとっては、どんな情報を集めるべきなのか、信頼できる情報はどこで入手できるのか、に行きつくことすら大変なことかと思います。しかし、情報を持たないままやみくもに新規参入することはおすすめできません。そんなときには、参入しようとしている業界や他社への知見を持つコンサルタントを頼ることで、課題解決への近道となる可能性があります。
※引用:グロービス経営大学院 

2.4 人材採用と組織の構築

スタートアップ企業における人材採用面の課題は多岐に渡ります。以下、いくつかの課題例を挙げていきます。

競争力
大手企業と比べると、スタートアップ企業は交渉力や資金面、企業ブランド力で見劣るため、優秀な人材を獲得するのに苦労する傾向があります。採用予算が限られているケースも多く、広告や採用活動に充てる予算が少ないこともあります。スタートアップといえども一企業として、大企業を含めた他社とまったく同じ土俵に立ち、採用候補者の方に選んでもらえるよう、競わなければなりません。競争力は大きな課題です。

事業の成長のために優秀な人材を迎えたいと考えたとき、現状では高い給与を払うことが難しいかわりにストックオプション(以下、SO)を付与するという制度を検討する会社もあるかもしれません。その際、既存社員や関係者とのバランスでどれぐらい付与が望ましいのか、またSOを行使したときに顕在株と持株比率にどれぐらい変動があるのか、ほかにも会社の長期的な業績などの予測が絡んできますので、深い知見がある人物でなければ正しい判断をすることが難しい問題です。

効果的な戦略採用の欠如
スタートアップ企業は、採用戦略の策定に時間やリソースを費やすことができない場合があります。大手・中小企業であれば「人材開発部」「採用部門」のように専門部署が置かれていることが多いですが、立ち上げから間もないスタートアップ企業で採用専門のチームがあることはあまりないようです。それどころか、一人のメンバーが採用、経理、総務、ITなどいくつもの業務を兼務しているケースがしばしばあります。採用チャネルの見極め、採用広報活動、採用プロセスの改善など、効果的な手法にまで手を回す時間をつくることも難しい状況であろうと推察します。

組織文化の構築
近年、採用選考の際に組織カルチャーに合致する人を見極めることは非常に重要とされています。カルチャーや経営理念への共感は働くモチベーションにもつながり、早期の離職率低下とも関係があるためです。しかし、組織文化がまだ確立されていないスタートアップ企業では、自社カルチャーに合う人を採用することに苦労されているようです。スタートアップ企業はまだ成長段階にあり、組織文化が確立されていない場合が往々にしてあります。

経営コンサルタントの役割とスキルセット

3.1 経営コンサルタントの役割と期待される能力

繰り返しになりますが、経営コンサルタントの役割とは企業の経営状況を正しく把握・分析し、課題を見つけ、各課題に応じた解決策を提供することです。そしてスタートアップ企業とは、これまで世になかったサービスを生み出す会社です。コンサルタント側に期待されることも、前例にとらわれずに新しいことに柔軟に対応できる力だと言えるでしょう。「助言をする」というスタンスより「一緒に生み出す」のような心持ちで取り組むことができるコンサルタントのほうが、スタートアップ企業との相性がよいように思います。

3.2 スタートアップ企業に求められる経営コンサルタントのスキル

会社としてまだ始まったばかりで人も少なく体制も構築されていないスタートアップ企業において、財務戦略面も組織づくりも、ゼロからのスタートです。ですからコンサルティングする側は、過去に見た幅広い業界の経営や組織、経営領域での人の在り方など、これまでの経験をフルに活かすことになります。熟練のコンサルタントともなれば、これまでの新規事業立ち上げ経験から他社の成功事例・失敗事例もデータとして提供してくれることに期待できるでしょう。課題解決のため、各業界の最新動向や他業界での実例も含めて情報をインプットしつづける姿勢はコンサルタント必須スキルだと言えます。

世にないサービスや前例のないことを始めようとする新規立ち上げと伝統的なスタイルを崩さない姿勢のコンサルタントは、「相性」がよくないだろうと想像できます。事前にすり合わせをすることを強くおすすめします。

成功事例と学び

4.1 スタートアップ企業が経営コンサルティングを活用した成功事例の紹介 

経営コンサルティングを活用した成功事例をご紹介しましょう。
イラストクリエイターを支援するサービスを提供する日本のベンチャー企業があります。大手コンサルティングファーム出身でこの会社へ参画し、新規事業開発や開発組織のマネジメントを経て代表取締役社長に就任した方がいます。その方の就任後、会社はクリエイターファーストでさまざまなサービスをリリースしつつグローバル展開にも目を向けた戦略も展開。国内・海外ユーザーともに右肩あがりで増え、社員150名以上の規模にまで会社は成長しました。

スタートアップは「今までなかったこんなサービス・モノをつくりたい」という創業者の想いで生まれた、強いプロダクトを持っていることが多いものです。一方で、社長が必ずしもマネジメントや資金調達といった組織づくりのプロであるとは限りません。先述の会社の創業者も、デザインやプログラミングのスキルを持つウェブ制作会社出身の方です。しかし、組織や事業が大きくなればメンバーも必然的に増えますし、経営者だけでは組織を回せなくなります。組織経営に強い人に仲間に加わってもらうことで、会社の成長・事業拡大のチャンスが増えた例です。

4.2 成功事例から学ぶべきポイントと実践的なアドバイス

これらのことから見えてくるポイントは、「得意な人に任せる」ということ。自分が不得意な領域は、自分よりうまくできる人に任せる。自社が不得意な分野は、その分野を得意とする他社に任せる。その見極めを正しくできることが成功へのカギを握っています。

ここ数年、大手企業が持つ資産とスタートアップ企業の持つ先進的な技術をお互いに活かし合うような、自社にないリソースを協業によってうまく補い合うような手法が広がっています。
一般社団法人日本能率協会「日本企業の経営課題 2022」によれば、大企業の 4 割がスタートアップ企業と「協業している」と回答。さらに、スタートアップ企業との協業・支援・交流理由を尋ねると、「新規事業の開発」が 66.6%、「自社にない先進技術の獲得」は(53.3%)となっており、新規事業の開発を目的とする協同が多いことがわかりました。 

もし内部リソースのみでは実行が難しいと結論づけた場合、他社との協業という選択肢を検討してみてはいかがでしょう。コンサルタントのなかには、業務資本提携に関する経験が豊富なコンサルタントもいます。他社との業務提携を希望する場合は、一度コンサルティング会社へ相談してみるとよいでしょう。

経営コンサルティングの選び方と効果的な活用法

5.1 経営コンサルティングファームの選び方のポイント

会社の命運をかける大切なパートナーともいえるコンサルティングファーム選び。自社に合ったコンサルティングファームを選ぶためのポイントを挙げていきます。

新規立ち上げ経験の有無
スタートアップ企業のような「ゼロイチ(0→1)」を生み出す新規事業の立ち上げと、「1→100」のような既存事業の維持では、必要なスキルやノウハウがまったく異なります。データ分析や知識だけではなく、失敗からのリカバリーや軌道修正が得意なコンサルタントが頼りになるでしょう。そのため、担当コンサルタントの経歴は依頼前にぜひ確認しておきたいところです。事前に経歴に目を通すことはもちろん、初回の打ち合わせで直接質問してみることをおすすめします。

自社に合った提案内容か
リサーチ資料や分析データから見えてきた課題に対してどのような取り組みをするべきかを共に考えて、企画から実行まで並走してくれるコンサルタントを見極めましょう。提案してくれたアイデアに実現性があるかどうかもポイントです。たとえ他社の成功事例を活かしたアイデアだとしても、自社にとって再現性がないものでは、まったく意味がないからです。「自社にとってのベストな選択肢を一緒に探してくれるか」「実行まで見据えているか」をよく見極めてください。 

IT・デジタル分野の知見があるか
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれるデジタル化が加速している昨今、IT技術の活用なしに新規サービスや事業を成功させるのは不可能に近いことです。新技術を取り入れて新規事業に取り組むスタートアップ企業はとても多いですが、そうした技術をどのように組織運営に落とし込むのが最適なのか、使い道がわからないというケースもあると思います。専門外でわからない部分に関しては思い切って外部のプロを頼ることも必要です。 AI・クラウドなどのデジタル分野に明るいコンサルティング会社のほうが、スタートアップ企業との相性がよいことが多いようです。

仮説から実装まで一気通貫で支援してくれるか
提案から実行、検証、さらには事業に必要なシステムがある場合は、システム開発から運用、保守までサポートしてくれる会社が理想的です。さらに欲をいうと、知識の共有をしてくれる会社であればなおよいです。実行フェーズから別の会社に依頼するとなると、アイデアから実行へのつながりが断たれてしまいます。さらに、外注先が複数になると、打ち合わせなどコミュニケーションコストもかかります。共に事業を育てながら、知識やスキルは共有し、企業としても双方が成長してゆける、そんな会社であれば、きっとよいパートナーとなれることでしょう。

大手のコンサルティングファームは経営戦略を得意としつつもすべての領域をカバーしていることが一般的です。そして中小規模のコンサルティングファームは、強みをもつ業界・領域が分かれていることが多いようです。経営改善を望む場合には、とくに困っている課題やもっとも解決すべきことの仮説を立てて、その分野が得意なコンサルティング会社やコンサルタントを選ぶとよいでしょう。 

5.2 経営コンサルティングを効果的に活用するためのヒント

デジタル時代において経営コンサルティングを効果的に活用するためにとくに大切なものは、「ヒト」と「情報」です。新規事業に適したITスキルを持った人材が社内にいない場合は、外部に依頼することが必然的な流れかもしれません。新規事業の立ち上げにあたり、熱意や「こんなことを提供したい」というアイデアのタネの部分は、事業継続のコアとなるのでできるだけ社内の人材で担うべきです。しかし、次々と新しいテクノロジーが誕生するこの時代に、自社の人材とノウハウだけで新規事業を成功に導くのは困難です。

外部コンサルタントへの外注を好まない経営者もいらっしゃいますが、豊富な知見を有効に活用しながらスピーディーに計画を進めるためには、外部リソースを頼ることもひとつの有効な方法です。コスト面が気になって躊躇しているという方もいるかもしれません。しかしコンサルティング費用とは、解決が難しい課題であればあるほど高額になる傾向があります。つまり、報酬が高額な課題であればあるほど、自社だけでの解決のハードルも高いということ。金額の高低で判断するのではなく、この課題が解決した際に得られるもの、効果、利益を加味したうえで、会社にとって依頼したほうがよいかどうかの判断をされることをおすすめします。

結論

設立したばかりのスタートアップの多くは、売上や利益が小さいところからスタートします。すぐに成果が出るわけではありません。トライアンドエラーを繰り返しながら、徐々に伸びていくものです。そして、ただでさえ難しいといわれている新規事業の立ち上げを社内のリソースのみでやろうとするのは、困難を極めます。財務面、競争戦略、そして採用や組織面などのさまざまな課題が起こります。
そんなとき、コンサルタントのような専門知識を持った外部のプロを頼るメリットは非常に大きいのです。スタートアップ企業にとって事業の成長を左右する課題の数々。自社の状況や目的をしっかりと認識したうえで、適切な解決方法を検討し実行することによって、事業と会社の成長につなげましょう。外部リソースをうまく使うことが、会社存続の可能性を高めます。プロに依頼するという手段も考えてるべきです。

最後に、経営者と経営コンサルタントはお互いの目標や利益を共有するパートナーシップ関係を形成できる関係性が理想です。あなたの会社にぴったりのコンサルタントと出会えれば、経営者のよき伴走者となってくれることでしょう。信頼し合い、共に取り組むことで、自社にとっての最善の結果へとつなげていってください。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。