2023.09.15

【コラム】本当に目指すべき?安全に見える無借金経営の意外な落とし穴とは?

1. 無借金経営の基本概念

無借金経営と聞くと、経営の安定している健全な企業をイメージされる方も多いのではないでしょうか。

確かに、無借金経営の基本概念を「借金をせずに経営ができている企業」と考えれば、多くの経営者が目指したいと思うのもよく分かります。

ところが、一見、安全に見える無借金経営も、違う観点から見ると思わぬ落とし穴があるのです。

1-1. 無借金経営とは何か?基本的な定義

無借金経営は、「金融機関からの借入や社債など有利子負債がなく、資本金と内部留保などの剰余金で運営する経営手法」と定義されます。

そうはいっても、バランスシート(貸借対照表)上は、買掛金などの流動負債や退職給付引当金などの長期負債を計上する必要があるため、実際にシート上ですべての負債項目を「0円」とするような、厳密な意味での無借金経営の企業はほとんど存在しません。

借入金がある企業であっても、余剰金として定期預金や証券類・貴金属類などを保有していて内部留保が大きく上回る場合は、実質的な無借金経営です。

たとえば、株主やベンチャーキャピタルから出資を受けていて、出資金を返済する必要がない場合は無借金経営といえます。

2023年5月の東京商工リサーチの調査によると、日本の無借金経営の企業比率は21.6%でした。コロナ禍以前より2.8ポイント下落しているものの、6万6,370社が無借金経営企業に該当します。

これらの企業のうち、有利子負債などの借金を抱えていてもそれを上回る利益があり、経営面で資金繰りが安定している企業は、実質無借金経営企業とよばれています。

1-2. 無借金経営がもたらす一般的なメリット

無借金経営がもたらす一般的なメリットは、大きく分けて4つあります。

1.利子を支払う必要がない
無借金経営の場合は、金融機関から融資を受けていないため、利子を支払う手間や負担がありません。

2.心理的な負担がない
事業がうまく行かなくなった場合も、借金がないので返済義務がありません。心理的な負担がかからないため、経営者にとって大きなメリットといえるでしょう。

3.取引先から信用されやすい
無借金経営は企業の財務基盤の安定を示すため、外部の取引先から信用を得やすいというメリットがあります。

4.会社を売却しやすい
借金がなければ返済金が少ないため、いざ会社を売却するような状況になっても手元に多くの資金が残ります。

2. 無借金経営を選ぶ理由

日本企業の多くが無借金経営を選ぶ理由は、借金をデメリットとして重視する傾向が強いからです。

日本で無借金経営といわれる企業の多くは、サービス業や建設業です。特に、建設業はコロナ禍にあった2022年も無借金経営の減少率はわずか0.19%でほぼ変動せず、主要10業種のなかで最小でした。

建設業の場合は、工事代金の回収に時間のかかる遅延決済に加えて長引く物価高騰もあり、「手堅く運営したい」という理由から無借金経営を選ぶ企業が多いと考えられます。

2-1. 企業が無借金経営を採用する背景や動機

企業の多くが無借金経営を採用する動機には、「借金がなければ利息の返済に追われなくて済む」という心理的要因が大きいでしょう。

また、有利子負債がなければ、バランスシートなど決算書の見栄えもよくなり、資金の管理も楽になります。

このほか、企業経営者にとっては、金融機関から融資を受ける際の経営者保証の問題もあるでしょう。

中小企業が融資を受ける場合、多くは経営者個人も会社の連帯保証人として個人保証を求められます。会社が倒産すれば、当然、経営者も自己資産を失うことになるでしょう。

2014年2月に適用された「経営者保証のガイドライン」はあるものの、2021年度時点で金融機関の政府系で約5割、民間と信用保証協会で7割近くが依然として経営者保証を求めています。

2023年4月に同ガイドラインが見直されたものの、金融機関に対し、個人保証の必要性および保証が不要となる条件の説明を義務化するにとどまり、経営者保証そのものがなくなったわけではありません。

このような背景もあって、日本の中小企業の多くに「無借金経営によって倒産リスクを回避したい」という保守的な考えが根強く残っているのです。

2-2. 無借金経営の成功事例

無借金経営の代表的な成功事例としては、トヨタ自動車、ユニクロ、ソフトバンクなどが挙げられます。しかし、これらの大企業とよばれる企業も、有利子負債や借入がないわけではありません。

超優良企業といわれるソフトバンクは、2015年から3年連続で負債額第1位で、有利子負債は14兆円でした。また、世界的なシェアを誇るトヨタ自動車も、2015年3月期には19兆円もの借金があったことが知られています。

これらの負債や借金は、事業拡大のための投資や金融事業の運営が目的であり、肝心の業績自体はむしろ好調でした。

このように、有利子負債があっても、それを上回る利益が十分ある実質無借金経営であれば、強い経営体質の会社作りを目指せるのです。

3. 無借金経営の隠れたリスク

借金がなければ銀行などの金融機関から融資を受けずに済むため、精神的な重圧もかかりません。そんな無借金経営にも、実は隠れた3つのリスクがあります。

3-1. 投資機会や資金繰りの損失

企業経営は、運転資金を得るために金融機関から融資を受けることが基本ですが、融資を受けない無借金経営の場合は、手元にある資金の範囲内でしか運用できません。

つまり、事業を拡大するチャンスがあっても、仕入代金や設備投資を十分に調達できないということです。また、投資額が小さくなるため、得られる利益も比例して少なくなります。

たとえば、無借金経営の企業が自己資金100万円で利益が2倍の仕事を受けたとすると、200万円のうち100万円が儲けになります。

一方、1,000万円の借入れをして同じ仕事を受けた場合は、2,000万円のうち1,000万円が設けになり、借入金1,000万円と利子の10万円を返済しても990万円が残ります。これに自己資金の100万円を合わせれば、1,090万円のキャッシュが手元にあるわけです。

無借金経営で100万円の利益を得るのと、借り入れて990万円の利益を得るのとでは、どちらが多くの資金を手元に残せるかは疑う余地がありません。

また、急激な景気の変動や業績が悪化した場合、無借金経営ではすぐに資金が手元になくなるため、当然、資金繰りは苦しくなります。

無借金経営にこだわり過ぎると、想定外のトラブルによって資金ショートを引き起こし、売上や利益があっても手元が資金のない「黒字倒産」となる可能性も高くなります。

3-2. 経営の柔軟性や対応力の減少

一般に、企業は借入と事業への投資を繰り返すことで成長するものです。しかし、無借金経営の場合は手元の資金に余裕がなくて事業に投資できないため、企業の成長スピードが低下します。

また、企業の経営に役立つ情報を多く持っている金融機関との取引がなければ、自社評価を受け、客観的に経営状況を見直す機会は少なくなるでしょう。

変化の激しい現代社会において、このような状態が続けば、状況に応じて柔軟に対応できる経営体制を整えることは難しくなります。

3-3. 金融機関との信用が築けない

無借金経営は、どの金融機関とも取引がないということですから、信用を築けないというリスクもあります。

大口の仕事を受けるために融資を申し込んでも、これまで取引のない企業に対し、金融機関は慎重に審査するでしょう。審査に時間がかかれば、投資機会の損失にもつながります。

一般に、金融機関は、たとえ少額でも定期的に借り入れ、返済期限をきちんと守るような企業を高く評価する傾向にあります。

人間同士と同様に、金融機関からの信用も一夜にして築けるものではないと心しておくべきでしょう。

4. 借金をするのは悪いことではない?

日本には、潜在的に「借金=悪い」と考えてしまう風潮があります。しかし、借金経営を基本としている国も多く、企業経営の観点からいえば必ずしも悪いことではありません。

実際、アメリカでは「企業は株主のために存在する」との考え方から、現金を借金で調整して株主還元の施策にすることもあります。株主側も、資金調達によって適度に投資し、企業の成長と収益を得ることが一般的です。

特に最近は、企業に株主として権利行使する「物いう株主」とよばれるアクティビスト対策の一貫で、株式追加で株主の議決権を強めるよりも、借金によって経営の規律を保とうとする動きもあります。

重要なのは、借金がないことよりも、現金や預金などのキャッシュを十分に保有しているかどうかでしょう。企業に事業拡大や投資を目的とする借入や融資があるのは、むしろ当然のことです。

有利子負債があっても完済できる十分なキャッシュが手元にあり、負債額を差し引いても運転資金が残っていれば経営も安定します。

今後は、借金や負債があっても、資金繰りが安定する「実質無借金経営」を目指しましょう。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。