2025.10.15

【コラム】利益と現金の違い|2つの関係性と「利益=現金」にならない理由を徹底解説

企業を経営していて、利益が出ているのに現金(資産)が増えないのはなぜかと疑問を持つことはないでしょうか。実際、利益が増加しているにもかかわらず、今もなお資金繰りが厳しいという企業も多いようです。

一般的に、企業経営では、利益を重視する傾向があります。しかし、現金の流れを確認できない書類の数値に頼っていると黒字倒産に陥るリスクもあり、注意が必要です。そこで今回は、そんな利益と現金の違いや、その関係性について詳しく解説します。

1.「利益=現金」にならない理由

そもそも「利益=現金」にならない理由は、利益と収支の計算が異なるためです。会計上の利益の計上と入出金のタイミングのズレが、資金繰りを圧迫します。

だからこそ、利益の増加によって支払う税金の額が大きくなり、「手元に資金がほとんどない」という状況が起こり得るのです。

特に、工期が完了するまで入金されない建設業やカード決済で入金の遅れる小売業、バグの調整などで納期が遅延しやすいIT業界では、このタイムラグがさらに大きくなるでしょう。

その結果、売上が大きいほど入金までの資金繰りが苦しくなり、「利益があるのに現金がない」という状態に陥るのです。

1-2.現金主義と発生主義

ここで、現金主義と発生主義について説明します。この2つの概念を理解すると、利益と現金が一致しない理由も分かりやすいでしょう。

まず、現金主義とは、資金繰り表やキャッシュフロー計算書など、実際に入出金があった時点で費用や収益を認識する考え方です。リアルタイムで手元の資金の残高を把握し、直近の支払いが可能かどうかを確認できます。ただし、未収金や未払金は含まれません。

一方、発生主義とは、取引が発生した時点で費用や収益を認識する方法です。貸借対照表や損益計算書など企業の会計業務で採用され、売り掛けの際も入金前の売上を計上し、支払い前に仕入を費用化します。

前月との増減など利益の実態を確認するには便利ですが、現金の収支とのズレによって手元の資金が枯渇しても気づかず、資金繰りの悪化につながるリスクがあります。

2.各書類の意義と含まないもの

現金と利益の違いについて、説明しました。この章では、企業経営でも不可欠な5つの書類の意義と、各書類に含まれていない現金と利益について解説しましょう。

2-1.損益計算書

まず、損益計算書は、一定期間の収益と費用を集計し、最終的な利益を明らかにするための書類です。具体的には、売上高・売上総利益(粗利)・営業利益・経常利益・当期純利益の順で記載していきます。

企業がどの程度稼ぎ、最終的にいくら残ったのか、順を追って一定期間の利益を目視し、経営の状況を判断するための基本的な資料です。企業の家計簿といってもよいでしょう。

粗利や営業利益など中間利益の確認は、売上や利益の増減、採算性をチェックするのに便利です。ただし、現金の入出金のタイミングまでは反映されないため、損益計算書だけに頼ると、黒字でも現金が枯渇する黒字倒産のリスクが高まります。

そこで、損益計算書では金額の大小ではなく、売上に対し利益をどの程度残せているか、効率性や採算性を確認しましょう。具体的には、「売上総利益 ÷ 売上高」で粗利率、「営業利益 ÷ 売上高」で営業利益率を算出します。

現金の収支を追える書類と、この2つの比率を照合すれば、売上規模の異なる同業他社との比較や利益の推移を判断できるでしょう。

2-2.貸借対照表

貸借対照表は、決算期末など、特定の時点で企業の財務状況をまとめた一覧表です。一般的に、現金や売掛金・在庫などの資産を左側に、借入金や買掛金などの負債と資本金・利益余剰金などの純資産を右側に記載します。

いわば、企業の財産や調達方法を整然と収めた1枚のスナップショットのようなもので、経営者が資金の調達と運用のバランスを把握するのに不可欠な資料です。

この貸借対照表で、現金や売掛金など流動資産が、短期借入金や買掛金などの流動負債より少なければ、将来的に資金ショートを起こす可能性があります。指標として、自己資本を総資本で割って自己資本率を算出し、自社の財務の安全性や安定性を判断するのも一案です。

ただし、貸借対照表は、損益計算書のように一定期間の利益や費用は直接反映されないため、企業の直近の収益力までは読み取れません。だからこそ、両者は互いに補完し合うものとして、キャッシュフロー計算書とともに財務三表と呼ばれているのです。

2-3.株主資本等変動計算書

株主資本等変動計算書は、中小企業では提出義務はないため、あまり重視されていないかもしれません。しかし、自社の内部留保や純資産の推移を把握するのに有効な資料です。

時間的な変化を追える小遣い帳や成長記録のようなもので、期首から期末までの純資産の増減を確認できます。また、増資や配当の推移を追って株主への還元状況を見直せば、今後の戦略の策定にも役立つでしょう。

なお、この株主資本等変動計算書は、現金の流れを直接示すものではありません。また、実際の利益と現金の増減までは分からないため、ほかの財務諸表と照合する必要があります。

2-4.キャッシュフロー計算書

キャッシュフロー計算書は、一定期間の現金の流れを示す書類です。営業活動・投資活動・財務活動の3区分で作成し、活動ごとの資金の増減を明らかにします。

現金主義のキャッシュフロー計算書は、発生主義で作成する損益計算書の対極にある書類といってよいでしょう。損益計算書を家計簿とするなら、キャッシュフロー計算書は通帳です。給料の支払い日が遅れれば、家計簿は黒字でも、通帳はマイナスになるのと同じ理屈です。

3つの区分に分けることで、本業の現金の稼ぎや投資・借入・返済の動きを詳細に分析できるため、資金繰りや財務の健全性の評価に役立ちます。

このキャッシュフロー計算書は、あくまで会計上の現金の流れを把握するもので、自社の利益自体は評価できません。しかし、黒字倒産や資金ショートを回避するためには不可欠な書類といえるでしょう。

2-5.資金繰り表

資金繰り表は、日々の売掛金や買掛金の入出金日、借入金の返済日の予定を一覧にし、将来の資金残高を予測する書類です。キャッシュフロー計算書が通帳だとすれば、資金繰り表は給料日や支払日などを書き込んだカレンダーのようなもので、予定日から残高を想定します。

先述のサービスの提供や決済と入金のタイミングとのタイムラグの大きい業界では、突然の資金ショートを回避するためにも、資金繰り表で手元の資金が不足しないよう残高を管理すべきでしょう。

資金繰り表は、キャッシュフロー計算書と併用すれば、「過去の資金の流れ」と「将来の資金見通し」を一元管理でき、黒字倒産や突発的な資金ショートの予防効果につながります。

3.利益と現金の関係性

ここまでは、各書類に含まれていない現金や利益について説明しました。この章では、利益と現金についてケーススタディを活用しながら具体的に解説しましょう。

3-1.利益>現金

まず、現金より利益が多くなるケースとして、建設業の未回収売掛金を例に挙げて説明します。利益が計上されても実際に手元の現金が少ない理由は、先述の通り、入金が後日となるためです。

たとえば、3,000万円で工事を受注した建設会社が決算月に工事を完成させた場合は、損益計算書に売上として3,000万円が計上され、利益は増えます。しかし、入金が翌々月であれば、決算期末に現金はまだ手元にありません。

一方、その間に工事に必要な材料費や外注費・人件費を支払う場合は、帳簿上は黒字でも実際に現金は不足しています。早急に借入やほかの資金調達を検討しなければ、運転資金が不足して黒字倒産に陥るでしょう。

3-2.利益<現金

利益より現金が多くなるのは、売上として計上されていないにもかかわらず、現金が先に入金されるケースです。実際、旅行・不動産・冠婚葬祭・教育・ITなどのサービス業界では多く見られます。

旅行業界を例に挙げると、ツアー代金や航空券の代金を事前に受け取っても、旅行前の段階では売上にできません。このような前受金があると、損益計算書の利益は小さくても、貸借対照表や資金繰り表では現金が増えたように見えます。

一見、運転資金が十分あると思うかもしれませんが、実際は後で商材の提供に伴う費用が発生するため、利益自体が増えたわけではない点に注意しましょう。現金が多いことに安心してしまうと、将来的に資金が不足するリスクがあります。

3-3.利益の増加≠現金の増加

次に、利益と現金の増加は、必ずしも一致しません。小売業や飲食業のカード決済は、その典型的な例といえるでしょう。

たとえば、売上を伸ばした飲食店が決算期に利益を計上しても、カード払いの場合は入金が翌月や翌々月になります。帳簿では利益が増えても、実際の入金は後日になるため、手元の現金は増えません。

このように利益が増えても現金は増えない状況は、売掛金の回収が数ヶ月先になる支払いサイトの長い卸売業の掛取引や、カード決済が多い業界で多く見られます。

現金が増えていないにもかかわらず、仕入や人件費などの支払いが重なれば資金繰りも悪化し、経営に大きな影響を与えるでしょう。

3-4.利益の減少≠現金の減少

最後に、利益が減少したからといって、現金が減るとは限りません。減価償却費のように、実際の現金取引のない費用を計上する場合がこれに該当します。

たとえば、製造業が新しい設備を導入する際は、購入時に自己資金から支払い、その後は毎年、耐用年数に応じて減価償却費を計上するのが一般的です。このような費用は、帳簿上は利益を押し下げるものの、実際の現金支出を伴わないため、手元の現金が減るわけではありません。

利益が減っても現金が残っていれば、資金繰りの数値と帳簿上の利益の動きが異なることに注意しましょう。重要なのは、利益の数値だけを見ず、現金の残高や資金繰り表を照合しながら現状を客観的に判断することです。

4.キャッシュフロー経営のススメ

利益と現金が必ずしも一致せず、帳簿上では黒字でも資金不足に陥るリスクがあることをお分かりいただけたと思います。そこで、実践していただきたいのが、現金の流れを中心とするキャッシュフロー経営です。

キャッシュフロー経営とは、先述のキャッシュフロー計算書の数値を主軸とした経営手法で、「自社の手元にある現金残高」を重視します。また、損益計算書の利益よりも資金の出入りを優先して管理するため、特に商材の提供と対価の入金とで大きなタイムラグのある業種におすすめです。

実践にあたっては、キャッシュフロー計算書と資金繰り表を併用し、将来の見通しと過去の資金の流れを一元的に把握します。

これまでの実績を分析しながら今後の現金の流れを想定することで、黒字倒産の回避だけでなく、持続的で安定した経営戦略を実現できるでしょう。

5.まとめ

企業経営で、利益と現金が異なる原因は、商材提供時に計上される利益と、実際に現金が入金されるまでのズレにあります。また、財務三表やキャッシュフロー計算書など、それぞれの書類には反映されない利益や現金があることにも目を向けるべきでしょう。

特に、サービス業や小売業など、実際の入金にタイムラグのある業種は、このズレが資金ショートや黒字倒産に至る引き金となるケースも少なくありません。

キャッシュフロー経営も積極的に取り入れながら、安定した経営を目指しましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。