2023.04.15

【コラム】後継者が反発するのは何故なのか

家族経営、親族内承継の難しさ

事業承継とは、事業や会社を後継者に引き継ぐこと。少子高齢化が進む昨今、事業の後継者がいないことに悩んでいる中小企業経営者の方が大勢いらっしゃいます。たとえ次期後継者が決まっていても、次の代、その次の代‥‥と受け継がれていく中で、いつかはどの会社においても直面する可能性がある難題です。

現代は、子どもが親の会社を継ぐのが当たり前ではない時代です。親族のなかで「事業を引き継ぐ」という決意をしてくれた方がいらっしゃる先代経営者は、後継の候補者に感謝の思いを抱いていただけたらと思います。なぜなら、引き継ぐ相手がいること自体がとても恵まれていることだからです。

東京商工リサーチによれば「2022年の「後継者不在率」調査(約17万社対象)では、約6割(59.9%)の企業で後継者がおらず、代表者の高齢化と後継者不在は事業継続に大きな経営リスクになっている」とあります。「すでに金融機関だけでなく一般企業でも、取引に際しては代表者の年齢や後継者の有無を重視する傾向にある」とも書かれていますので、事業を続けていくにあたって、なるべく早い時期から後継の候補者を検討すべきです。

後継者不在は、さらに深刻な問題も引き起こします。「2022年の『後継者難』倒産は422件(前年比10.7%増)で、2020年より3年連続で前年を上回った。調査を開始した2013年(234件)から1.8倍に増加し、初めて400件台に」との調査結果が見られ、後継者がいないために倒産する企業が年々増えています。

もし、幸運なことに事業を引き継いでくれる後継者が決まったとしても、今度は「なぜか後継者が反発をする‥‥」という悩みが生じるようです。親子間での承継を選んだ方から相談を受けることが多い悩みのひとつですが、いったいなぜ後継者は反発している(ように見える)のでしょうか。考えていきましょう。

後継者が反発する要因

表面上での反発に目を奪われた経営者から「甘えているだけだ」「なにもわかっていないくせに生意気だ」という声を聞きますが、後継者は「認めてもらってないから何も教えてもらえない」「自分の意見なんて必要とされていない」と感じているかもしれません。後継者側の不安・自信のなさからくる振る舞いが、反発しているように見えている可能性があります。

とくに親子承継においては、後継者と先代の価値観や思考が異なることが原因で、対立が生まれやすいです。「親子だからこれくらい言わなくてもわかるだろう」と伝えることをサボると、認識のズレが生じます。ズレた価値観のままで業務を進めていけば、それが対立につながってしまいます。

それから、身内だという関係性に甘えて他人に対しては言わないようなストレートな物言いになってしまったり遠慮のない言葉をぶつけてしまうと、それがいさかいの原因になります。

互いの信頼関係を如何に築けるかがポイント

親子といえどもお互いにひとりの人間で、性格も価値観も異なるのはいわば当然のこと。だからこそ経営において、双方が納得のいく共通の考え方が必要となるのではないでしょうか。「反発」と捉えているものが、見方を変えれば「自身が思いつきもしなかった新しい意見」と捉えることもできます。先代と後継者がお互いの立場を尊重するためには、以下のような取り組みが効果的です。

まずはコミュニケーションを密にして、お互いの考えや意見を共有しましょう。描いている目的地が違えば、そこに到達するための手段や方法が一致するはずもありません。先代と後継者が目標をすり合わせることで、お互いに協力することができます。親子であるという事実は一旦横に置いて、冷静な話し合いを心がけてみてください。コミュニケーションに時間をかけられることは、親子承継の大きなメリットです。

また、役割分担を明確にすることも大切です。先代と後継者の役割を分けて、後継者の担当領域に関しては、信じて任せてみてはいかがでしょうか。もちろん、ここぞというときにサポートする必要はあるでしょうが、「ここは大事にしてほしい」という価値観や必要な情報はしっかりと伝えたうえで、信じて見守り任せてみてはいかがでしょうか。子どもには次期経営者としての自覚が芽生え、先代に信頼されているという感覚が生まれることによって反発心も生まれにくくなります。

さらに、第三者の意見を取り入れることも有効な策です。先代と後継者が事業方針などをめぐって対立した場合、客観的な視点を持つ第三者の意見を取り入れることで、中立的な立場から問題を解決することができます。必要に応じて第三者を交えながら、事業承継を進めていきましょう。

後継者が見つからないときはどうするべきか

後継者不在に悩む企業が増えていることは先述のとおりですが、では後継者が見つからない企業はどうすればよいのでしょうか。選択肢を見ていきましょう。

M&A(Mergers and Acquisitions)
M&Aとは企業同士の合併や事業・株式の譲渡をあらわす言葉で、事業を売却することで企業価値を守ることができます。事業の売却には専門家のアドバイスが必要ですが、後継者不足の解消には有効な手段ですし、スタッフや取引先などはそのまま引き継がれ、事業を存続させることができます。廃業とは違って経営者には事業譲渡の対価が入ることも見過ごせません。友好的に話し合いができる良き企業とマッチングすれば、あなたの会社がこれまで培ってきた独自の商品・サービス・技術などを次世代に残すことが可能になります。

M&Aのニーズは着実に増えてきており、M&Aの仲介会社は増加傾向にあります。マッチングの支援を行う専門機関としての「事業引継ぎ支援センター」が全都道府県に設置されており、相談件数も成約件数も増加しているそうです。

「近年、事業承継の選択肢として、あるいは企業規模拡大や事業多角化の手段などとして中小企業にとっても身近な存在になりつつある」「M&Aについては未公表のものも一定数存在することを考慮すると、我が国におけるM&Aは更に活発化していることが推察される」。中小企業庁は2021年版「中小企業白書」で、このように述べています。

後継者の育成
事業を継続することを望む場合には、後継者育成も解決策のひとつです。ただし、事業承継の際には会社を時価で購入できる資産をもっていなければならないため、いくら自社の優秀な社員を育てたとしても、その方に後継者になってもらうには高いハードルが存在します。大企業では社員からのたたき上げで社長になるケースがときどきありますが、残念ながら中小企業ではあまり見られない事例です。

事業清算
できることなら避けたい方法だと思いますが、事業を清算するという選択肢もあります。事業を終了する場合には、終了手続きや清算手続きが必要になります。後継者が見つからずに廃業の道を選ぶ企業は、今後も増加していくと思われます。

このように、企業にとっては悩ましい選択肢もありますね。事業承継、とくに親子承継の道を選んだ場合には、親子であるがゆえのむずかしさは当然あると思います。ですがその一方で、事業を受け継いでくれる存在がいることが得難い環境であることを知っていていただければと思います。

後継者とのコミュニケーションを疎かにせず、スキルや経験だけでなく、経営者としての意識、ビジョンなどさまざまなことを伝えて、事業承継という大きな課題を乗り越えていってください。

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この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。