2023.08.15

【コラム】【2024年問題?】運送業で生き残るには?倒産リスクと対策を考えてみよう

倒産リスクが高まる運送業界の現状

1-1. 運送業界を取り巻く外部環境

アフターコロナとなった今も、依然として多くの業界で倒産リスクが高まっており、運送業界も例外ではありません。

東京商工リサーチの調査によれば、2023年1月~6月の上半期で特に目立ったのは物価高による倒産で、前年同期90件のおよそ3.3倍の300件まで増加しました。

2023年は半年で、7年ぶりに200件以上となった2022年の年間倒産件数285件を超えています。

業種別の倒産件数は、道路貨物運送業が最も多く、前年同期の29件から約1.7倍の46件でした。

これまでも、運送業界では人手・後継者不足による倒産は数多くありました。しかし、最近は、コロナ禍で配送ニーズが増加したにもかかわらず、物価高の倒産が増加している傾向です。

実際、燃料費が高止まりであることに加え、資材や原材料、食料など各分野で価格の上昇が相次ぎ、水道代や電気代などのインフラ料金や人件費も高騰しています。

これらの外的要因が大きく影響し、運送業の倒産リスクが高まっているのです。

参考:東京商工リサーチ

1-2. 物流業界で話題の「2024年問題」とは?

物流業界で話題のいわゆる「2024年問題」も、倒産リスクの原因になると懸念されています。

「2024年問題」とは、物流・建設・医療業界で例外的に認められていた、時間外労働における上限規制の猶予期間満了によって発生する諸問題のことです。

物流業界は、慢性的な人手不足やドライバーの高齢化などで長時間労働が恒常化しており、2019年施行の「働き方改革関連法」でも、一般企業とは異なる特性から特別条項の適用が認められていました。

2020年に実施された厚生労働省の調査でも、トラック運送業の所定内実労働時間数は、大型・中小型トラックのいずれも全産業平均の165時間を上回る176時間でした。

超過実労働時間数になると、大型は35時間、中小型は31時間で、全産業の平均10時間を優に上回っています。

しかし、2024年4月以降は物流業界にも同法が適用され、時間外労働は年間960時間以内に制限されます。同法の規定を違反した場合には、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられるため、注意が必要です。

今後、「2024年問題」が物流業界に及ぼす影響としては、以下の3つが考えられます。

1.利益の減少
ドライバーの労働時間が制限されれば1日の業務量が減るため、企業の利益も減少します。これまで残業代として支払っていた人件費は削減できるものの、営業所の賃料などの固定費は維持されるため、企業全体の利益が減少する可能性は高くなるでしょう。

2.ドライバーの流出
ドライバーのなかには、残業を含めた収入で生計を立てている人も少なくありません。特に住宅や車のローンを抱える人や子育て中の人は、残業代が減ると必要な生活費を得られなくなります。転職によるドライバーの流出も、想定しておくべきでしょう。

3.運賃値上げ交渉
ドライバーなどの労働時間短縮による利益の減少を抑えるためには、荷主への運賃の値上げ交渉を検討せざるを得ません。しかし、荷主が自社の負担を憂慮して値上げを認めず、競合他社に乗り換えるリスクもあり、交渉が難航するケースも出てくるでしょう。

運送業で倒産ラッシュが考えられる要因

2-1. 燃料費高騰を中心とした物価高

運送業が倒産ラッシュとなる要因の1つは、ここ数年にわたる燃料費の高騰を中心とした物価高です。

2022年は、燃料に限らず物価の値上げラッシュが相次ぎ、一般消費者にとっても厳しい1年でした。天候不良による農作物の不作やコロナ禍によるマスク不足、半導体不足による家電製品の品薄なども物価高に大きく影響しました。

また、少子高齢化の日本とは反対に世界的には人口が増加しており、必要な資源や食材が人口増加による供給量に追いつかず、水面下で物価の高騰を引き起こしています。

しかし、運送業の倒産ラッシュを引き起こす最も大きな要因は、燃料費などエネルギー価格の高止まりです。

コロナ禍で落ち込んでいた需要が世界的に回復していることに加え、エネルギー大国ロシアに対するウクライナ侵攻の制裁や円安の進行も燃料費の高騰を加速させ、原油のほとんどを輸入に頼っている日本では頭を抱える問題となっています。

「燃料価格が1円上昇すると物流業界全体で年間150億円の負担が増える」といわれていますから、その影響力は非常に大きいでしょう。

2-2. 低すぎる利益率

運送業の倒産ラッシュを引き起こす2つ目の要因は、低すぎる利益率です。

2021年に発表された全日本トラック協会の経営分析でも、運送業の営業損益は前年度より0.5ポイント悪化したマイナス0.9%という低い数字に留まっています。

このような状況では、従業員に十分な賃金を支払うことができず、長時間労働を強いられるうえに薄給では、せっかくドライバーを雇用してもすぐに辞めてしまうでしょう。

さらに、「競合他社に仕事を取られる」リスクを憂慮し、荷主に値上げ交渉を切り出せない企業も多いようです。

その結果、仕事はあるにも関わらず、荷物を運ぶ量が増えるほど出費がかさんで売上利益は減少し、経営状況を悪化させるという「負のスパイラル」に陥りやすくなっています。

2-3. 人手不足問題

運送業の人手不足問題も、倒産ラッシュの要因の1つです。

少子高齢化による人手不足は各業界で問題になっていますが、なかでも運送業は若い世代に敬遠される傾向にあります。

2022年に国土交通省が実施した「トラック事業の現状等について」の調査でも、運送業で働く人の45.2%が40~54歳であるのに対し、29歳以下は全体の10.1%に過ぎません。

運送業では、重量のある荷物の運搬や長時間の運転など業務による体力面での負担が大きいため、若年層を含む新たな人材の確保が難しく、人手不足は常態化しています。

今後は、国土交通省の推奨する、関係者の連携による働きやすい環境作りや生産性の向上を目指す「ホワイト物流」への取り組みも検討すべきでしょう。

運送業の未来は?  倒産リスクからの脱出計画

3-1. 運送業界全体で価格を上げる

倒産リスクから脱出するには、運送業界全体における価格の引き上げも1つの施策になります。

各分野で物価高騰が長引くなか、運送業の主な原価は、人件費・燃料費・車両費の3つであるにもかかわらず、価格転嫁が進んでいません。

2023年に中小企業庁が発表した価格転嫁状況の業種別ランキングでも、トラック運送業の転嫁率19.4%の第26位で、前年より順位を1つ上げたものの、コスト増に対する添加率は29.6%から19.4%に低下しています。

特に、大企業が親事業者である下請中小企業の場合は立場も弱く、価格交渉や価格転嫁は容易ではありません。

実際、競合他社への乗り換えリスクを回避するため、ギリギリまで値下げする「安値競争」の渦中にあるという企業も少なくないでしょう。

しかし、その結果、サービスの質やドライバーの倫理観が低下すれば、業界全体の信頼の失墜にもつながります。

今後は、一定の強制力を持つペナルティや罰則の適用なども視野に入れながら、運送業界全体で価格の見直しや適正価格の設定を推進すべきでしょう。

3-2. 配送効率の見直し 

配送効率の見直しも、結果的にコストの削減につながる重要な対策の1つです。ここでは、すぐに始められる配送効率を高める4つの方法をご紹介します。

1.配送回数を上げる
一見、コストの削減と矛盾するようにも思われますが、売上は配送回数と比例します。配送する際のルートや交通状況を正しく把握すれば、配送回数を上げることも可能です。稼働人数やエリアごとの配置人数を変更して、稼働数を上げてもよいでしょう。

2.物流拠点の集約
複数の拠点があると配送先に最短距離で移動できますが、賃料や人件費、トラックの稼働台数を増加させる原因にもなります。仕入れ先との距離や配送までのリードタイムの短縮など、優先順位を明確にして拠点の集約を検討しましょう。

3.現場作業の見直し
現場の業務フローを振り返り、支障のない作業を省くのも効果があります。倉庫の導線を考慮したレイアウトの変更や、ロケーションの管理を徹底するのもよいでしょう。作業手順の簡略化や時間の短縮は、人手減らしにもつながります。

4.管理システムの導入
物流管理のシステム化も配送効率を高める1つの方法です。ハンディスキャナーの使用は検品の正確性を高め、データ化によって在庫状況も随時確認できます。また、配送ルートやピッキングに最適な導線を自動計算すれば、手間やコストの削減も可能です。

国土交通省では、2016年に「物流総合効率法」を改正し、物流業の効率化を目的とする各種支援活動の対象を拡大しています。いくつかの認定基準はありますが、税制面で優遇措置を受けられますので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

まとめ

コロナ禍はひと段落したものの、コロナ融資の元本返済や燃料費の高騰に加え「2024年問題」もあり、運送業の経営は今後も厳しいと予測されます。自社の倒産リスクを回避するためには、事前の対策が重要です。

事業者は、倒産リスクを高める3つの要因「物価高・低い利益率・人手不足」を正しく理解し、運送業全体の適正価格の設定や徹底したコストの見直し、配送効率の改善を図りましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。