2023.07.31

【コラム】建設業界の危機! 資金繰り問題が引き起こす倒産ラッシュとその解決策とは?

建設業界における倒産ラッシュの実情

1-1. 建設業界の倒産率:統計データと傾向

2022年、建設業では14年ぶりに倒産件数が増加しました。その原因は、ここ数年のコロナ禍による給湯器や木材など住宅機の品薄で、建築資材の価格が急騰したことです。

「3の倍数の月」に倒産件数が増加するといわれる建設業ですが、2023年6月の倒産件数は、東京商工リサーチが発表した産業別の企業倒産件数によると、前年同月比で約34%増の150件でした。

今後は、2023年7月~2024年4月にかけてコロナ融資の元本返済が集中するため、夏場にかけて倒産の相次ぐ可能性が高いと指摘されています。

2023年の工種別件数は未公表ですが、2021年には工務店など元請の木造建築工事業の割合が85.3%(150件)と最も多く、2022年もゼネコンやハウスメーカーなど、元請となる総合工事業や電気・空調工事など設備工事業の倒産が増えています。

これらの経緯から、件数自体は塗装や解体など下請となる職別工事業が多いものの、ここ数年は、仕入れや資材を渡して工事する「材支給」の形態も多いなか、資材の価格高騰の影響を一番最初に受ける元請の倒産件数が増加する傾向にあります。

これは、「力の弱い下請の倒産が多い」といわれる他業界とは異なる、建設業に見られる倒産の特徴といえるでしょう。
参考:東京商工リサーチ

1-2. 建設業の特性と資金繰りの課題

建設業の特性は、大きく分けて3つあります。

まず、顕著なものとしては、多くの建設工事は完了後の支払いとなるため、工事の受注から入金までの期間が非常に長いことです。一般的に、工事の発注から入金までの期間は平均で3ヶ月半といわれており、半年以上かかるケースも珍しくありません。

2つ目の特性は、他業界にくらべて手形取引が多いことでしょう。また、大企業よりも下請や孫請など、中小業者の間で交わされることが多いのも建設業の特性といえます。

手形取引は、発注元が支払時期を先送りにできるため、受け取り側は入金まで手持ちの資金でやりくりしなければなりません。特に、得意先との融通手形の場合は、先方が不渡りとなった場合に買い戻しと自社の決済とで二重の支出となるため、注意が必要です。

先行投資が必要なことも、建設業の特性といえます。先述の通り、建設業では売上が入金されるまでに約3月半を要します。その間、建設資材などの材料費・人件費・外注費・足場や仮事務所の設置費・重機の調達費などを先に支払わなければなりません。
建設業では、この3つの特性によって資金繰りが難しくなり、さらには、これらが原因で銀行からの融資を受けづらいことも資金繰りの課題となっています。

資金繰り問題がもたらす建設業の倒産

2-1. 遅延決済と資金繰り悪化の構造的問題

建設業の倒産の主な原因は、遅延決済と資金繰り悪化との相互関係にあります。

工務店など元請の場合、入金サイクルは、契約時・中間時・引き渡し時の3段階に分割されます。工事期間が長ければ現金の回収は遅くなり、現場件数が多ければ、先行投資にかかる経費もかさみます。

工事の規模によっては、完成するまでに1年以上かかるものもあり、天候不良や工事の不具合によってさらに遅れるケースも少なくありません。一方、材料費や設備費、産廃処理費など、けっして少額とはいえない経費は工事の完成前に支払う必要があります。

このように、建設業には、先行投資による経費の前払いと工事代金の回収までに時間がかかる遅延決済が、資金繰りを悪化させるという構造的な問題があるのです。

2-2. 資金繰り危機と倒産リスクの具体的なケーススタディ

資金繰りの危機と倒産リスクについて、具体的なケースに基づいて考えてみましょう。たとえば、工務店Aのような場合です。

<工務店A>
・工期3ヶ月を見込んで1,000万円の案件を受注
・材料費・設備費などの先行投資に700万円を支払う
・天候不良のため、工事が1ヶ月遅延
・4ヶ月後に完成

本ケースでは、予定より1月遅れの4ヶ月後に工事が完成し、入金は納品して約2ヶ月後ですから、先行投資の支払いから入金までに6ヶ月のタイムラグが発生します。

このように予算と実績とが大きくブレた場合は、先払いとなる工事原価の700万円の支払いにより資金繰りが難しくなり、売上や利益があるにもかかわらず黒字倒産となります。

さらに、元請および給排水や電気工事などの協力会社ともに資金繰りが厳しい場合は、連鎖倒産のリスクも高まるため、注意が必要です。

建設業の資金繰り改善と倒産防止の戦略

3-1. 事業者が取るべき資金繰り改善策

倒産防止の戦略として、建設業の事業者が取るべき資金繰り改善策は、大きく分けて2つあります。

1.資金繰り予定表を作る
まず、数ヶ月先まで見越した資金繰り予定表表を作成することです。

案件によっては、工事に6ヶ月~1年かかるものもあり、入金は工事完了から2ヶ月先です。資金繰り表に基づいて入金スケジュールを管理すれば、どれくらいの運転資金をいつまでに準備すればよいかを明確化できます。

特に、複数の工事で支払いが重なるような場合、短期計画では支払えなくなるリスクも伴います。資金繰り表を作成するだけでなく、都度見直しを行い、将来のキャッシュフローを正確に把握しておくのも重要なポイントです。

2.実行予算を立てる
黒字倒産を防ぐためにも、実行予算をしっかり立てましょう。

建設業では、原価を管理できずに赤字案件を受注するケースも多く、見積りを出した段階で、利益を過信するのは非常に危険です。材料費や外注費などの経費に、利益を上乗せするだけでは充分ではありません。

また、現場のミスや予算との大幅なズレは会社にとって大きな損害となり、資金繰りを悪化させる原因になりますので、注意が必要です。

数ヶ月を要する工事であればなおさら、工期や人件費などを考慮に入れ、着手する前に自社の在庫を確認し、ムダをなくすことを意識して実行予算を立てるべきでしょう。

3-2. 業界改革と政策の動向は?倒産防止への取り組み

今後の建設業における業界改革と政策の動向としては、いわゆる「2024年問題」があります。

建設業では、少子高齢化社会の人口減少により、長期にわたる人材不足と時間外労働の常態化が大きな課題となっています。

2019年に施行された「働き方改革関連法」も、このような建設業の実情を考慮し、「36協定」の締結と所轄労働基準監督署長への届出があれば特別条項の適用が認められ、時間外労働に猶予期間が設けられていました。

<特別条項の適用(2024年3月まで)>
1.年間720時間(月平均60時間)
2.年間720時間の範囲内で下記条件を満たす場合
・2~6ヶ月で平均80時間以内
・休日労働を含み、月100時間以内
・月45時間の超過は、年6回以内

しかし、この猶予期間は2024年4月に終了し、建設業も原則として、時間外労働は月45時間以内、年360時間以内の規制が適用されます。

今後は、同法に違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万以上の罰金が科せられるため、注意が必要です。なお、災害からの復旧・復興事業については引き続き例外事項が適用されます。

<例外事項(2024年4月以降)>
対象:災害からの復旧・復興事業
下記条項のみ適用
・月45時間の超過は、年6回以内

2024年4月以降、時間外労働が規制されれば1人あたりの仕事量も減少するため、建設業の人手不足はさらに深刻化するリスクがあります。

ここ数年の資材の価格高騰による元請の倒産増加に加え、従業員4人以下の零細企業が約7割といわれる日本の建設業では、2024年には下請・孫請企業の倒産が増加すると懸念されています。

このような厳しい状況で、建設業の事業者が倒産防止のために取り組むべき施策は、下記の5つです。

1.赤字になるような工事を受注しない
売上が大きくなるほど、人件費や材料費もかさみます。工事原価をしっかり管理し、見積もりの段階で、利益率の低いまたは赤字になるような工事の受注は避けるべきでしょう。

2.代金を早く回収できる工事を受注する
最近は、建設業でも工事の進捗状況によって、入金される形態や前払い案件も増えてきています。特に、下請や孫請の場合は、一部だけでも早く入金してもらえるよう交渉し、早期回収できる工事を増やしていきましょう。

3.現場ごとの管理をしっかり行う
資金繰りを確認しながら、現場ごとにどのくらいの利益が出るのかを管理することも大切です。原価には、仕入れや外注費に加えて人件費も含まれます。全てを含めて利益が出ていないようなら、見積り・工程の見直しや改善が必要です。

4.さまざまな資金調達方法を確保しておく
資金調達の方法を複数確保しておくのも重要なポイントです。工事の規模によって、入金サイクルも異なります。小規模・中規模・大規模の工事をうまく使い分けて受注することで資金繰りの悪化を回避しましょう。

また、手形取引以外の資金調達方法も確保しておくべきです。昨今は、売掛金を現金化できるファクタリングや数日で手続きが完了するオンライン融資もあります。実績の浅い企業の場合は、政府が100%出資する日本政策金融金庫の活用も検討するとよいでしょう。

5.IT技術による情報収集を怠らない
一見、資金繰りとは無関係のように思われますが、倒産ラッシュを防ぐには、ITツールを活用して業務の効率化を図り、常に最新の情報を収集するという事業者の姿勢も大切です。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。