2025.12.31

【コラム】決算書を分析するのに必要な5つの視点とは?目的や手法も解説

決算書は単に法的義務として作成するだけでなく、分析してこそ意味があります。自社の財務状況を決算書の数値から正確に把握し、今後の経営戦略に活用すべきでしょう。

また、どこに課題があり何が強みなのかを多面的に分析し、その結果をどう活かすかという視点も非常に重要です。

そこで今回は、決算書を分析するのに必要な5つの視点とともに、分析の目的や手法について詳しく解説します。

1:決算書の分析とは

決算書の分析とは、自社の経営状況を確認し、今後につなげるための作業です。貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の3種類からなる決算書には、それぞれ目的があります。

だからこそ、各書類が何を示すのかを理解したうえで自社の課題や強みをあぶり出し、今後の経営に活かす必要があるのです。決算書は、正しく「読む」だけでなく、「分析」して初めて経営判断に役立つ情報となります。

各書類に示された数値を読み解き、どこをどう改善・強化すべきかを明確にし、今後の経営に効果的な戦略を策定しましょう。

2:決算書を分析する目的

決算書を分析する目的は、各企業によって異なります。なぜなら、それぞれが抱えている課題や強みは異なるからです。いずれにせよ、どのような傾向や特徴があっても、決算書はそれを如実に映す「企業経営の鏡」といえます。

そんな決算書を分析する際は、単に数字を追うのではなく、どの観点から決算書を捉えるのかを整理するためにも、次の3つのポイントを押さえましょう。

1.財務面の良し悪しを判断するための「もの差し」を持つ

2.判断する際は、自社の傾向を大まかに把握する

3.各書類の確認すべき指標を見落とさない

あまり細かく分析して綿密な経営戦略を立ててしまうと、将来、予測不能の事態が起きた際、柔軟に軌道修正できなくなるおそれがあります。また、直近だけでなく、数年前の決算書まで遡り、長期的な傾向の把握によって判断の精度を高めるのも一案です。

3:決算書の分析に必要な5つの視点

この章では、決算書の分析に必要な5つの視点について説明します。

3-1:収益性

収益性とは、企業の事業活動を通じて、どれだけ効率的に利益を生み出せているかを捉える視点です。

売上の数値だけで自社の経営状況を判断すると、薄利多売や過度な値下げなど、本来の価格で販売できていない商材を見過ごしてしまうリスクがあります。

そこで重要になるのが、商材の売上に対し、どの程度の利益を確保できているかという視点です。収益性を見れば、価格設定やコスト構造に無理がないか、販売努力が利益に還元されているかを把握できます。

たとえ売上が伸びていても、実際の利益は増えていないかもしれません。一方、売上が横ばいでも、安定した利益を出せている可能性もあります。収益性は、自社事業の質を見極めるための基本的な視点といえるでしょう。

この収益性を高めるためには、次の3つの施策が考えられます。

1.粗利率の高い商材・原価率の低い商材に注力

2.サポートや保証などを含めた価格の改定・値上げの検討

3.在庫ロスの削減などによる固定費・変動費の見直し

収益性の分析結果から、自社に実現可能な施策を打ち出しましょう。

3-2:安全性

安全性は、企業の財務面にフォーカスし、無理なく経営できているかを確認するための視点です。

資金繰りが不安定であれば、どれほど大きな利益を出していても、事業の継続は厳しくなります。実際、決算書で安全性が低い場合は、黒字倒産のリスクも高まるでしょう。

安全性を維持するには、借入への依存度や短期的な支払い能力の有無が重要なカギとなります。

この視点では、突発的な売上の減少や経済環境の変化があった場合に、自社の経営がそれに耐えうる体力を持っているかどうかの判断が重要です。

金融機関が、融資の判断で最も重視するのは安全性です。また、経営者が自社のリスク耐性を把握するうえでも欠かせない視点といえます。

この安全性を高めるためにも、次の3つのポイントを押さえ、資金ショートに陥りにくい体質を整えましょう。

1.内部留保や借入金の見直しによる自己資本の確保

2.融資条件の再交渉を含む返済条件の見直し

3.資金繰り表の作成・更新による現金推移の可視化

ある日突然、資金ショートから黒字倒産に陥らないよう、できることから始める姿勢が必要です。

3-3:生産性

生産性は、人材や設備、労働時間など自社の経営資源が、どれだけ効率よく成果につながっているかを捉える視点です。

売上や利益だけを見ていると、忙しさの裏にある非効率やムダに気づかないことも少なくありません。たとえば、「人員を増やしても利益がなかなか伸びない」、「業務が属人化して全体の作業効率が落ちている」などがこれに該当します。

このようなケースは、生産性に課題があるかもしれません。単に売上拡大の検討だけでなく、自社の資産や資源を上手に活用できているかどうかを見直すためには、生産性の視点が求められます。

生産性を高めるためには、同じ人数・時間で、これまで以上の成果を出すような次の3つの対策が有効です。

1.属人化や手作業が残る業務プロセスの見直し・簡素化

2.勤怠管理・財務部門を中心としたITツールの活用

3.人材配置・役割分担の最適化や教育・研修によるスキル向上

このほか、従業員との社内アンケートや1on1ミーティングの実施により、現場の声からどこに課題があるかを追求するのもよいでしょう。

3-4:成長性

成長性は、企業が将来的に発展する力を持っているかどうかを捉えるための視点です。この成長性については、単年度の決算書の分析だけでは、企業の本来の姿は見えてきません。

ここで重要なのは、過去から現在への決算数値の推移と今後の伸びしろです。自社商材の売上や利益が継続的に増加しているか、事業規模が確実に拡大しているかを確認することで、現在の成長段階を把握できます。

企業の投資判断や中長期的な経営戦略を考えるうえでも、成長性は不可欠な視点といえるでしょう。

この成長性を高めるためには、次の3つの要素を中心に、自社の将来的な売上や利益を伸ばすための準備や工夫が必要です。

1.新商品・新サービスの企画・開発

2.ECサイトを含めた新規顧客・新市場の開拓

3.人材・設備への将来につながる戦略的な投資

まずは、5年くらい先の自社の将来を見据え、どこに「てこ入れ」すべきかをじっくり検討しましょう。

3-5:活動性

活動性は、企業の保有資産をどれだけ効率的に活用できているかを捉える視点です。一見、決算書上では問題がないように見えても、在庫や売掛金が滞留していれば、資金繰りに悪影響を及ぼす可能性があります。

また、資産の動きや売上・現金化との関係を分析することで、自社の事業がスムーズに回っているかどうかも把握できるでしょう。

日々の事業運営の効率を反映する活動性を高めるには、資産やお金・人を遊ばせない次の3つの施策が効果的です。

1.在庫管理の適正化や売掛金の回収条件の見直し

2.売却・賃貸を含めた遊休資産の整理・活用

3.業務スピードや意思決定フローの改善

この活動性の視点は、生産性とも連動し、日々の業務にも直結します。小さなことも自社の課題と認識し、何らかの改善策を講じるべきでしょう。

4:決算書の分析方法

この章では、実際の決算書の分析方法について詳しく解説します。

4-1:収益性分析

収益性分析は、主に損益計算書(P/L)で売上高と各段階の利益との関係を確認し、自社事業の収益効率を把握するための分析手法です。

実際に分析する際は、売上高に対する利益率や収益構造の内訳に着目し、原価や販管費のバランスに無理がないかを判断しましょう。

今期だけでなく過去数期の数値を照合すると、精度が高まります。この収益性分析では、数値の推移や同業他社と比較し、現在の自社の収益構造が改善傾向にあるのか、または悪化しているかどうかの客観的な判断が重要です。

価格戦略やコスト管理を見直す際の基礎となるものですので、課題を抱えている企業は収益性分析から始めましょう。

4-2:安全性分析

安全性分析は、貸借対照表(B/S)を中心に、企業の財務体質や支払能力を確認するための手法です。

短期的な支払い能力や借入依存度の程度などから、自社の経営が安定しているかどうかを貸借対照表の資産・負債・純資産の構成から読み取ります。

分析の際は、流動資産と流動負債の欄を照合し、自己資本の厚みにも着目しながら当面の資金繰りの状況を判断しましょう。

安全性分析によって、返済計画や資金調達の見直しの有無について判断しやすくなります。将来的な経営リスクの把握にもつながるため、小さな課題も看過せず、速やかに改善していきましょう。

4-3:生産性分析

生産性分析は、損益計算書(P/L)を中心に、補助的な資料を組み合わせると効果的です。具体的には、次の4つの情報項目が該当します。

1.従業員・労働時間

2.業務量・成果

3.コスト構造

4.業務フロー・運用

損益計算書と照合しながら、売上や付加価値に対する経営資源の投入の度合いを数値で確認してみましょう。

生産性を分析すると、人件費と成果、事業規模と人員配置の数値の妥当性を把握できます。属人化や手作業のほかにも、業務環境や従業員のモチベーションなどが関係しているかもしれません。

なお、精査すべき数値が見つかった場合は、業務効率や働き方の改善が必要な領域を明確にし、売上拡大以外の具体的な改善策を模索する必要があるでしょう。

4-4:成長性分析

成長性分析では、複数期分の決算書(P/L・B/S)を比較します。時系列による売上・利益・資産規模の推移の確認が重要です。

これらの分析で、自社が置かれている成長段階や停滞状況も把握できます。一般的に、売上や利益の継続的な伸びは、成長性が高いといえるでしょう。ただし、一時的な売上や利益の増減にとらわれず、長いスパンで全体の流れを見る必要があります。

成長性分析は、今後の自社の明暗を分けるカギといっても過言ではありません。特に、建設業・製造業・観光業など、受注や売上時期に偏りが生じやすい業種は、中長期的な経営判断や投資計画などの策定に分析結果を役立てていきましょう。

4-5:活動性分析

活動性分析は、貸借対照表に記載された在庫・売掛金・固定資産などの資産項目と、損益計算書の売上高を用います。資産の回転状況を数値で確認し、事業運営の効率性を評価しましょう。

各書類の数値をもとにした、売上・在庫・売掛金・固定資産などの相互関係の分析により、自社資金の滞留や非効率的な資産運用の有無を把握できます。

この活動性分析を実践すれば、自社の在庫管理や債権回収に関する課題も明確になるでしょう。さらに、生産性分析と併せて分析結果を精査すれば、資金繰りの改善や業務効率化などの実務で大きな成果を期待できます。

まとめ

決算書を多面的に分析すれば、自社の財務状況を基に資産状況から業務の効率性に至るまで、さまざまな課題や検討すべき経営戦略が見えてきます。

しかし、決算書の分析は一度だけで終わらせず、定期的に実施して経営判断の精度を高めることも重要です。

今回紹介した5つの視点や手法を参考に、どの書類をどのように分析するのかを理解したうえで、自社の今後の運営に最大限に活かしていきましょう。

この記事を監修した人
市ノ澤 翔

市ノ澤 翔

財務コンサルタント 経営者向けセミナー講師 YouTuber

Monolith Partners代表、株式会社リーベルタッド 代表取締役、一般社団法人IAM 代表理事。
公認会計士資格を持ち世界No.1会計ファームPwCの日本法人で従事。
在職中に株式会社リーベルタッドを創業。
その後独立しMonolith Partnersを創業。中小企業経営者の夢目標を実現を財務面からサポート。
経営改善や資金繰り改善を得意としYouTubeをはじめとした各種SNSでの情報発信も積極的に行う。