2022.10.31
【コラム】資金繰り改善のためにすべき事
資金繰り悪化の原因とは
毎月の資金繰りに苦しんでいる経営者の多くは、資金繰り表を作成していないという驚くべき実態をご存知ですか。現金出納帳と現金残高、それから経営者の頭の中にある入出金予測だけで経営をおこなっているケースもあるようです。そんな方法で資金繰りを正しく把握できることはありえません。
資金は、よく血液にたとえられます。お金が巡り巡ることによって社会経済が動くことが、人間の身体全体に血液が循環してはじめて活動できることと、似ているからです。
会社は資金があるからこそ活動できます。どんなに利益を上げていても、資金が底をついたとき、会社は黒字倒産をしてしまいます。手元の資金を正確に把握することで黒字倒産を防止できます。
そして、正確な資金繰り把握のためには資金繰り表を作る、これが最初の一歩です。
資金繰り表を作成する
資金繰りを改善・把握するために、まず資金繰り表を作ることから始めましょう。
資金繰り表とは、その名のとおり資金の流れをあらわします。経営計画・損益計画があってから、その後に出てくるものです。計画に沿って予定の損益を立てていくのが一般的な方法ですが、計画の前段階で過去の実績資金繰り表を作り、経営の詳細を把握することから始めましょう。「このときなぜ売上があがったのか/さがったのか」といった要因分析をおこない、仕入れや経費についても検証していきます。過去の実績にもとづく資金繰り表を作成したあとは、事業計画をたてて経営の特徴をあぶりだし、中長期的な事業計画を立てて、資金繰り表と連動させましょう。
本来ならば、経営者自身が資金繰り表を作成することが望ましいです。最近では資金繰り表を作れる便利な会計ソフトやクラウド会計システムがいろいろあります。既に月次試算表をシステムで作っているような場合、比較的簡単に実績値をひっぱってくることができます。しかし初めての資金繰り表作りで不安があったり、一から会計システムを導入したり学ぶ時間がとれないといった場合には、税理士など専門家の手を借りることをおすすめします。
決算書を正しく読む
資金繰り表が完成したものの、経営者のなかには「決算書が読めない」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。表を作ったらおしまいではなく、資金繰り表と決算書を正しく読んで理解し、さらに分析したうえで経営に活かしていくことが必要です。「決算書くらい読めるよ」という方は、損益に影響を及ぼす支出は何か?というところまで把握できていますか?決算書のしくみを理解しないままですと、「利益は出ているのになぜ資金繰りが厳しいのか」に気づけないまま、知らず知らずのうちに深刻なダメージを受ける可能性が高いです。正しく決算書を読む方法をぜひ知っていただきたいなと思います。
損益計算書と貸借対照表の仕組みと見方を理解しておきましょう。
損益計算書は「ある期間にいくら儲かったのか」、利益をあらわす書類です。会社の業績が、売上総利益・営業利益・経常利益・税引前当期純利益・当期純利益の5つの利益に分けて段階的に表れています。ポイントは、損益計算書には5つの利益が存在するということ。最終的な当期純利益だけでなく、その計算過程や内訳を示すことで、それぞれの利益が別々の意味を持ちます。
とりわけ、「本業で販売している商品やサービスによる利益」を示す「営業利益」と、「通常の事業活動による損益」の確認できて会社の実情を示している「経常利益」は、業績を判断するうえで重要な項目だと言えます。銀行の格付け審査で重要視されているのも、この2つの利益です。
貸借対照表は「今いくら持っているか」を表す書類です。左側に「資産の部」、右側に「負債の部」「純資産の部」が記載されています。
貸借対照表で注目すべきは、右側です。「負債」は借入金など返済・支払義務があることから他人資本とも呼ばれ、「純資産」は会社に残る本当の意味での自分のものとなるため、自己資本と呼ばれています。いずれ返さなければいけない「負債」の割合が多くなればなるほど、資金繰りが危険であるということはご理解いただけますでしょうか。
なお、決算書の数字を分析し経営に生かすためにも毎月試算表を作成し、前月や前年同月と比較しましょう。年に1度の分析では、問題点に気づいたものの既に手遅れになっているケースも起こりえます。資産や負債をどのように管理していくか、利益に対して経費がどれくらいかかっているのかといった点に早い段階で気づくことができれば、会社の資金繰りを改善させることは十分可能です。
運転資金を理解する(売上債権、在庫)
運転資金とは、「会社の事業を運営していくなかでかかる費用をまかなうための資金」です。運転資金確保のためには「入金は早く、支払いは遅く」を徹底することがポイントです。たとえば、商品の仕入れ代金を支払う前に前金で売上代金をもらえれば、資金が尽きることはありません。そして支払いサイト(※)を遅くすることができれば、手元に資金が長い間残ることになります。
※支払サイト:日本国内の掛取引(後払い取引)において、取引代金の締め日から代金を支払うまでの猶予期間のこと(引用 https://np-kakebarai.com/blog/b2205/)
先に支払いをおこなってしまっていることが原因で、「手元に資金が足りない」という状態になっているケースは多々見受けられます。請求書がくるとすぐに払ってしまう人がいますが、現在の資金状況や入金予定はいつなのかということを常に意識して、手元に資金がある状況が長くなるようにしましょう。
繰り返しになりますが、「入金はできるだけ早く、支払はできるだけ遅く」です。
しかし、取引先との関係性や業界の事情によっては、信頼を失うことによるリスクは非常に大きいため、この限りではありません。
あたりまえの話ですが、売上代金は確実に回収しましょう。代金回収は時間が経てば経つほど難しくなります。前金でいただく、口座振替・カード決済を利用するなど回収しやすい方法を導入して、前もって減らせるリスクは減らすべきです。
さらに言えば、「代金回収に問題が発生しそうな取引先とはそもそも取引をしない」と決めるのも、資金繰りを改善するうえでは大切なことです。「この企業と取引しても大丈夫か?」を取引先ごとに判断することを与信管理と言います。面倒ではありますが、与信管理のひとつとして、取引前に信用調査をおこなうことはおすすめです。信用調査手続きは上場審査の際に必要なため、上場企業であれば必ず実施されていますが、非上場企業の場合は信用調査が実施されていないことが多いです。安易に取引を始めてしまうと、後で代金が回収できず資金繰りに苦しむ状況を生み出しかねません。代金を回収して初めて、商売が成立するのです。
また、在庫を仕入れるためにはまとまった資金が必要となります。商品・サービスを販売後も、売上債権を回収するまでは資金は手元に入ってきません。このように在庫を抱えてから、すべて売って、なおかつ代金を回収するまでには時差があります。この期間を埋めるために必要な資金として、運転資金の確保が必要です。運転資金がいくら必要なのかは、決算書のひとつである貸借対照表から分析することができます。
銀行借入の方法を適正化
運転資金が足りないとき、多くの経営者は銀行からの借入を検討すると思います。融資を受けられる可能性を高めるためには、運転資金の金額の根拠を示せるような書類を用意して、相談すると良いでしょう。数字の根拠を示してくれる書類は、銀行からの信頼を得るために必要不可欠です。
銀行側は「融資した金額をきちんと返済してもらえるかどうか?」ということを気にしており、決算書などの資料をもとにした「定量評価」と、数字では表現しにくい「定性評価」で企業の格付けをおこないます。
借りる側としては、借入額の適正金額は非常に気になるところかと思います。業界や事業計画によっても異なりますので一概には言えませんが、運転資金の範囲内の借入ならば、まず安心と言ってよいでしょう。
まとめ
事業を継続し発展させていくためには、いかに売上をあげて利益を残せるかにかかっています。事業をしていくなかで急きょ設備投資が必要になることもありますし、従業員の雇用が必要になることもあります。そのための原資となる資金を、必要な分だけバランス良く手元に置いておくことを、経営者は意識しておくべきです。
資金繰りや借入額を見誤ることは、体力のない中小企業にとって致命傷になりかねません。資金繰り表を作っていない経営者の方は、まずは資金繰り表を作ることから始めてみてください。
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